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最後のエルフ、余生はネオン街でスローライフ  作者: 為世 斐文


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第4話「凪」

 あれから数日間、私は黒服の人間が傍にいる生活が続いた。

 いい加減に鬱陶しいぞ……

 隠れているつもりか、少し遠くの方から私を見る目が確認できる。まあ、魔法で千里眼を使ってはいるけれど、どちらにせよ近くに居られるとまるで自由がない。

 お金はあるし……少しの間だけでも森に居てもいいかもな

「リエ、明日から森に帰る」

「え?」

「ちょっと面倒な奴がいてな。元々別にそんなに用はなかったし、お金も少し貰ってる。当分の間は食材に困ることはなさそうだ」

 普通に話しかけた私に、リエはひどく驚いた様子で首を振った。

「お母さんに言われたの?」

「……は?」

 私の肩を鷲掴んで、まるでカバンの底に物が詰まったときのように私を揺らし始めた。

「いいのよ。ここに住んでもいいし、親の言いなりになる必要はないのよ。ミラちゃんのやりたいようにやればいいのよ」

 いや……

「だ~か~ら~……」

「私たちを親と思っていいのよ」

「ち~が~う~……」

 リエを何とか落ち着かせて、距離を取った。

 今頃の人間は、歳をとっても元気がいいんだな……

「私は家に帰るんだ。今はこれ以上、食材もお金も必要ないからな」

「でも、お料理いっぱい作るように、食材買い込みすぎちゃって。ミラちゃん食べるかなって……」

「あー……」

 その食材がなくなるまでに、あの黒服たちは私を見逃してくれるだろうか。

 段々と近づいてきているような気はしている。というか、多分近づいてきている。

 これがあと何日もあるとなるならば、あの嫌な黒服の指導者も来るやもしれない。

「何日分だ?」

「えっとねー……ざっと五日くらいかしら」

 五日か……

「分かった。五日間、脅威を感じなかったらここにいる」

「脅威? ミラちゃんやっぱり……」

「違う」

 リエの心配を一蹴して、私はまた仕事に戻った。

 また肩をゆすぶられては、私の内臓がかき乱されてしまうわ……


 黒服の人間を警戒しつつ、魔法を披露していると時間は過ぎていく。

 森で過ごしていた時はダンジョンから湧く雑魚の魔物たちを倒し続けていた。やることもなく、どれだけ弱い魔法で倒せるかなんて試してみたり、どれだけの魔力を使えば倒せるかを調べてみたり、そんな生活ばかり。

 確かにその暮らしに比べて、人間界は意外と充実している。

 充実と言うよりは、やることがあってくれるから暇にならない。

 んー……

「写真撮っていいですか?」

「ん、ああ。よいぞ」

 黒服のやつらも、こんな感じの人間だったらいいのにな……

「え、すごい!」

 ああ……

 ネガティブな感情で魔力を扱ってしまったようで、果物で形を作ってしまっていたようだ。

「こんなの、どうやってるんですか……」

 リエ達の八百屋にやってきた人間たちは、もはや普通の人を見ていないような目で見て来た。

 私には結構見知った顔ではあるが、この顔をされるとき、それは私が人知を逸しているときだ。

 まずい……

「すまない。今すぐに写真を撮ってもらってもいいか?」

「あ、え?」

「このマジックは、すぐに解けてしまうものでな。そんなに持たないんだ」

「あ、分かりました! すぐ撮ります!」

 人間にすぐ写真を撮ってもらって、私はリエの元に向かった。

「リエ、すまない。やはり今日で終わりにする」

「え」

 早々とここを立ち去ろうと外に出たが、すでに遅かったようだ。

「やあやあミラさん。お話、いいかな?」

「ずっと断っているだろ」

「いいじゃあないか。ね?」

 この人間は嫌に不審な顔を浮かべる。

「お前と話すことはない」

「あーあー、ひどいじゃないか。俺にはちゃんとした名前があるのに……さ」

 私の目をそのまっさらで凹凸のない、砂のような模様の瞳で観察するように見てくる。

「夜津谷さんと呼んでくれてもいいじゃないか? 俺は、君をこれほどまでに気に入っているのに」

 は……キモ……

「はははっ、今君はキモイだなんて思ったんじゃないかい? 男に見える俺が君を気に入ったなんて言っちゃって」

 ん……?

 黒服でキモチワルイ人間は胸に手を当てて、きりっとした顔を浮かべた。

「俺はね、ただ胸がないだけの女性だよ」

 ん……?

「だから、夜津谷ちゃんなんて言ってくれてもいいんだよ」

 最後に片目だけ瞬きをして、私に近づいてきた。

「俺はね、エルフを愛し、エルフはまだ生きていると証明したいと奮闘してきた人間なんだ。なんでかって聞きたまえ」

 人間ってこんなやつもいるのか……

「なんでって聞いてくれないかい?」

「……なぜだ」

 呆れ気味に言葉を発すると、黒服の人間は声高らかに笑って腰に手を当てた。

「それはね、エルフ族は可愛い子が多いからさ!」

 ああ……そう

「……で?」

「ん? それだけさ。だから、まずは君とお友達になりたい。俺はね、君と仲良くなりたいんだよ」

「仲良くなって、どうする」

「いやーね、まだ君がエルフだとは断定できていない。だけどね、俺自身が調べてきたデータによると、エルフの可愛さは人間に出せるものではない。雰囲気というか、空気というか……とにかく、エルフ族にしか出せない可愛さを君は持っているんだよ」

 人間にしか分からない感覚か……

「それで、私は自由を貰えるのか?」

「ああ、今は自由で居たらいいさ」

 今はな……

「だから、お願いだ……。俺の事を、凪ちゃんって呼んでくれないか……!」

 さっきまでは不気味な男性だったのに、今じゃ意味が分からず不気味を感じる。

「その、なんだ……それではお前がただ私に凪ちゃんと呼ばれたいだけのように聞こえるんだが……」

「ああ、そうさ!」

 清々しく手を広げて、まるで歓声の中に立っているかのような笑顔を浮かべた。

 意味が分からん……

「私がエルフかどうかを知りたいんじゃなくて、そっちが目的ってことか?」

「いや、君がエルフかどうかも調べたいが……今は、君と仲良くなりたいんだ。だからもう一度、凪ちゃんだけを、上目遣いで! 可愛さ全力で! 俺だけを見つめて! 儚い感じで! 言ってくれ!!」

 本当に意味が分からん……

「ナギちゃん」

 その一言を放つと場に沈黙が流れた。

 言ってやったが……?

 黙って変な人間を見ていると、次第にゆっくりと後ろに倒れていった。

「は……?」

「俺は今、幸せだよ……」

 大地に体を倒して、空に手を伸ばしてにまにました顔の変人は喋り始めた。

「エルフを追い続けて早七年。私の人生に一切の狂いなし……」

「夜津谷さん。そろそろ帰りましょう。周りの目が増えてきました」

「ん、ああ……そうだな。仕方あるまい……ミラさんよ。今日はこのところで許してやろう。またこんどな」

 力の入っていないまるで小鹿のような足で立ち上がっては、私に親指だけを突き立てた。

「二度と来るなー」

 別の人に肩を預けた変な人間は私の前から姿を消した。

 自由はまだある……か。リエにもう少しはいるとでも伝えておくか

※この作品は他サイトでも掲載しています。

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