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最後のエルフ、余生はネオン街でスローライフ  作者: 為世 斐文


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第3話「異」

「すごい、設定がしっかりしてるんですね」

 隠すのも面倒で、本当の事を喋ったのだが人間は勘違いを起こしているのか、それとも本当に英雄だなんて考えていなかったのか、どこかタクマが浮かべるあの苦笑いに似ている顔を浮かべる。

「いや、私だからな」

「いやー、ほんとにね。この耳とか、特殊メイクとは思えないですよ。何時間かけてるんですか」

 無視かよ……まあ、ここまで来るのにか

「転移魔法で来てるから一瞬だな」

「あ、そうですよね」

 次第に囲んでいた人間たちが離れていく。

「マジック見せてもらってもいいですか?」

「ああ、よいぞ」

 試しにそこらにあった石を浮かせると、人間たちはその石にスマホを傾けた。

「すげぇー……」

「どうやってるんですか?」

「魔法だ」

「秘密ってことですね」

 んー……話がかみ合わん

「お前ら英雄の名前はなんて呼んでるんだ」

「アポストロ様ですよ」

 聞いたこともない……誰がそんな名前を私に付けたんだ……

「お前ら人間の言う英雄とやらの名前はミラだ。よく覚えておけ」

「ミラ?」

「ああ。それが本来の名前だ」

「へー……」

 明らかに私にもう好意がなさそうな雰囲気を出す人間たちは、また一歩私から距離を取った。

 なんなんだこいつら……

「もし英雄が見たくなったら、ここにいるから見に来たらいい」

「あーはい」

 嵐のように過ぎ去って行った人間たちに溜息一つ吐いて、リエとタクマの元へ向かった。

「あらミラちゃん。おはよう」

「うむ。おはよう」

「早速、頼んじゃってもいいかしら」

「ああ、でも飯だけ食べたい」

「あ、そうだったそうだった。今持ってくるわね」

「ああ」

 リエは笑顔でまた裏に回っていった。

 ふぅ……アポストロは、逆に魔族側の名前だ馬鹿野郎

 ぼけーとしていると、リエがまた料理を乗せた皿を持ってきた。

「召し上がれ」

「ああ。いただきます」


 それから私は何人もの人からスマホを向けられながら、魔法を披露し続けた。

 みんなが歓声を上げて、拍手をし、目を丸めては果物や野菜が売れていく。

 ふふふっ、これが私の力だよ

 なんて誇る気分でいるうちに、段々と周りに黒服の長身な人たちが増えて来た。

 別に服装などで気になる点はない。だが、エルフというのは生命の持つ感情や、考え、行動の色を見る能力がある。

 それによると、この黒服の人たちはだいぶ黒に近い色をしている。つまり何か悪意の方向へ働いている色だ。

「ちょっといいかな」

 危機感を感じていると、黒服の一人が話しかけて来た。

「なんだ」

「君の名前はなんていうのかな」

 んー……

「ローズだ」

 本名を言うと危ない気がして、今は亡きエルフ友達の名前を借りた。

「ほー……となると産まれは外国人のようだね。どこ出身なんだい?」

 しまった……そうだ、ここは漢字を使っているんだった。名前も漢字になることくらい予想がついただろう……私の馬鹿

「父親が、外国人なだけだ」

「ほー、ハーフか」

「ああ」

「すまないね。プライベートなことを聞いて」

「いや構わん」

 危ない……

 黒服の集団は固まって話をして、次第にここから離れていった。

 肩の荷が下りて、安堵からため息を吐くと、後ろから肩を叩かれた。

 な……

 残っていた人間が居たのかと警戒したが、どうやら肩を叩いたのはリエだったようだ。

「どうした」

「今日は、もう売り上げが昨日を越してるから、終わっていいよ」

 おお……

「それはありがたい。ちょうどペットのリスが寂しそうにしていたからな。久しぶりに魔物でも狩りに行くとするよ」

「それじゃあ、はいこれ」

 そう言ってリエは何か半透明の四角い箱を渡してきた。

「これは?」

「あー、今日の夜食だよ。ちゃんと食べるんだよ」

「ああ……」

 人間は今頃、こんな四角い箱を食べるのか……

 リエから駄賃も貰った私は、人気の少ない道に入ってから転移魔法で家に帰った。

「ただいま」

 家に帰るとペット達が私の元へと駆けてくる。

「久しぶりに魔物を狩りに行こうか。食料も調達してる。あとで食べよう」

 嬉しそうになくペット達を引き連れて、私はいつも通り、魔物がずっと湧いてくるダンジョンの前にやってきた。

 結局は、私がこうやって狩りをしないと、いつか残党の魔物たちがあの街を襲うのか……

 昔の惨劇の二の舞になる街を想像すると、もうこのダンジョンを壊した方がいいのではないかとも思うが、このダンジョンは私でも解けない防御魔法が展開されていて、一筋縄で済まないどころか、きっと私ではこの魔法を解くことは出来ない。

 後継者もいないし、私が死ねば人間はどうなるんだ……

 今まで考えても来なかったことだが、リエとタクマから人間を知って、私は少し守らねばならないという使命を感じてきていた。

 それはエルフ族が昔からそうであったように。

「はぁー……」

 指で触れれば死んでいく魔物たちを倒して回ると、辺りに魔物が持っていた荷物がごろごろと転がる。

 ん……これはスマホ?

 あるスライムを倒すと、私が最近よく見かけるようになった人間の作ったスマホが転がった。

 誰かがこの近くに来ていた……?

 その事実はあまり考えられない事だった。

 なぜなら、この近くは私の魔法で結界を貼っているからだ。

 それは魔物を閉じ込める為でもあり、私と言う存在を魔族から隠す目的でもあり、同時に、人間が勝手に踏み荒らしに来ないようにするためだ。

 魔物が持っているとなると、人間がこの結界の中に入ったか、魔物が外に出てしまっていたのかのどちらかだ。

 私の結界を破るなんて……そんなことできるやつはいないぞ……

 私の魔法を超える魔法を使えるエルフも魔族も、とうの昔に全滅しているはずだ。そもそもで希少だったもので、年老いたエルフか、魔族の中でも魔王に近かった存在しか持てはしない力だ。

 おかしいな……

 だがここで疑問を提唱しても、結局答えが手に入るわけもない。

「まあいいや。明日人間界に持っていこう」

 その日は残りの魔物を倒して、リエから貰った料理を食べて、ぼけーとしながら眠りについた。

 あの箱……リエの料理にしては不味かったな……


 次の日、店に向かうと私はまた黒服の集団に囲まれた。

 昨日はスマホ集団、今日は黒服の怪しい集団かよ……

「なんだ」

「君と、ちょっと話がしたいね」

 昨日話しかけて来た人間が私の目の前に一歩近づいてきた。

「なんの話だ。マジックの種明かしとやらはせんぞ」

「んー、ノーノーそこじゃないんだ。もっと大事な話だよ。例えば“君について”とかね?」

 その瞬間、人間の色が黒色に染まった。

 はぁ……なんか分らんが、やばいやつだってことは分かったよ

「断る」

「なんでなんでー、ただ君と話がしたいだけだよー。ね、何もやましいことはないから。君も、やましいことはないだろー?」

 いちいち癪に障る話し方をする人間だ。非常に腹が立つ。

「やましいことはない。単刀直入に言え。何が聞きたいんだ」

「もうずばり、君の正体だよー。調べさせてもらったよ。ローズと言う女性はこの国の戸籍に存在したけど、ここには住んでいないし、母親が外国籍なんだよねー。じゃあ、君は一体誰かな?」

 ようわからんが、つまり嘘がばれたのか

「質問をするなら、まず名を名乗れ」

「あーあーそうだったね。俺の名前は、夜津谷(よつや)だ。滅んだエルフ族と魔族について研究していてね。色々とつてもある組織の主導者ってわけ」

 滅んだか……

「君、本当はエルフなんじゃないかい? 別にやましいことはない。エルフが生きているんならそれでいい。英雄が生きていたならそれでいい。ただ、君は自由が亡くなってしまう可能性があるということは否めないけどね」

 それは嫌だぞ!

 英雄だと答えようと思ったが、自由がなくなる可能性を示唆された私は、決定的に否定する方向へシフトチェンジした。

「私はエルフなんかじゃない。ほら見ろ」

 幻覚魔法と、変形魔法を使って私の耳を限りなく人間の耳に変えた。

「これもマジックと、えっと……コスプレだ」

「ほー……魔法ではなくて?」

「そんなもの使えるはずないだろ。夢見すぎだ。マジックとてやり方の説明も出来る」

「ほう」

「例えば、この透明の糸で上に引っ張る」

「動画では上に手をかざしている人がいたな」

「何も上からじゃなくてもいい」

「一理ある」

「まあ、とにかく。私は人間だ。プライバシーを守りたいから、嘘を吐いただけでれっきとした人間だ」

「ふむ……」

 自由がほしい……

「分かった。今日のところは、多めに見るよ。でも、今度はもう少し踏み込んでお話がしたいね。違うかもしれないけど、英雄のミラさん?」

 ん……

「ミラじゃない。名前は言わんけど、英雄でもない」

「はははっ、分かったよ。分かった。俺の負けだ。だが、またな」

「二度と来るな」

 はぁ……

 帰っていく黒服の集団に目を配りつつ、私はそそくさとリエの下に向かった。


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