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最後のエルフ、余生はネオン街でスローライフ  作者: 為世 斐文


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第2話「英雄」

「名前はなんて言うんだい?」

「ミラだ」

「あら、外国の子だったの」

 外国?

「いや、ここが生まれだぞ」

「え、ミラって漢字がつくのか」

「漢字はないぞ。昔の名前だからな」

 確か改名するエルフが昔に出たなんて話も聞いたな……

「世界観を守るのはいいけど、お客にはちゃんとしてくれよ」

「いやあんた、そこがまたいいんだよ」

 二人は笑顔で口論を始めてしまった。

 マジック……普通に魔法を使うだけでいいのか?

 試しにまたジャガイモを浮かせて、こちらに持ってきた。

 こんなので駄賃が貰えるのはありがたいな

「おい人間」

「あー……俺たちも名前はあるんだぞ」

 そうか

「じゃあ名を申せ」

「私は理恵よ」

「俺は拓馬だ」

 リエとタクマか

「よろしく」

 握手を交わすと、二人は驚いた顔を浮かべた。

「手、冷たくない?」

「ん? 別にいつも通りだぞ」

 二人は顔を見合わせ、私を店の奥へと引っ張った。

「なんだ、なんのつもりだ」

 騒ぎ立てる私に「まあまあ」と濁してはリエは笑顔で椅子に誘導する。

 意味が分からないと騒ぎたいが、とりあえずは椅子に座っておいた。

「今日からここに住んだらどうだ?」

「いや、家がある」

 何に引っかかっているのかタクマは顔を曇らせて、私の肩を掴んだ。

「戻らなくていい。ここで暮らせばいい」

 何が言いたいのか、何がしたいのか理解が出来ない。

「いや、だから家はあるんだ。人間界には食材を求めてやってきただけで、そもそもそんなに長居するつもりはない」

 そこまで言うと、タクマは頭を抱えた。

「それなら、まあ食事だけでもとってけよ」

 食事だけ……食事?

「それはいいな」

「お」

「近頃、森に食材がなくてな……そうだ、今は魔族と戦争中なんじゃないのか? よく木が生い茂っていた場所が荒れ地になっていたが」

「その歳で山菜取りに行くのか」

「当たり前だろ。森で暮らすなら自然の恵みに感謝しないわけにはいかん」

 山菜か……久しく聞いたな

「そうかそうか」

「魔族との」

「そんな物騒なことは、もう現代じゃ起きてないよ。ミラちゃん」

 リエがお皿に料理を入れて持ってきた。

「魔族との戦争はもう終わったのか?」

「ああ。歴史の話でな、一人の白髪のエルフがおってな。それこそ、嬢ちゃんみたいな」

 ふむ……

「その昔、エルフと魔族間で大規模な戦争が起きたそうなんだが、そこでそのエルフが魔族をほぼ壊滅まで追いやってな。消息は不明だが、今でも英雄として像が建てられていた李するそうだぞ。残党は感化された人間がやっつけたみたいだな」

 それ……私だな……

「そうか」

 まあ、ここで明かすのもこの人たちを驚かせることになるし、歳も歳だ。腰を折って死んでしまったら申し訳ない。

「そういえば、嬢ちゃんは何のコスプレをしているんだ?」

「あー……」

 しまった……人間界で私がここまで英雄として讃えられていたとは……

 昔は魔法が使えるだけでエルフなら誰でも人間から頭を下げられていた。

 魔族のように服従させられないように、そして、その魔族を打倒してくれると信じて。

 だがエルフはたぶん、私一人しか生き残ってはいない。

 ほとんどがその魔族との戦争で殺されてしまったからだ。

 誰か謳われているようなエルフが居たらいいんだけどな……

 そうすれば私がそいつになりすますことが出来る。

 人間からは頭を下げられたいが、頂点に崇め奉られるのは好きじゃない。

「多分お前らは知らんだろうが、シアっていうエルフのコスプレだ」

 コスプレというものの意味は良く分かっていないが、きっとこんな感じで使ったらいいのだろう。

「知っとるか?」

「いいや、知らないねー」

「若いもんのやっとるゲームはよう分からんからな」

 あ、とても分かる……

 タクマの言葉に共感しながら、リエの持ってきた料理に手を付けた。

 美味い……これなら、毎日食べられる……

 少しして、私は結局店の前で魔法を披露することになった。

 んー……何すればいいんだ

 とりあえず、二人が驚いたじゃがいもを浮かせる魔法を使うことにした。

 魔族との戦争な……

「うぇ、え? え、ええ?」

 私が魔法を披露したからか、目の前を歩いていた人間が顔を突き出してこちらを見て来た。

 ん……

「ふはは、どうだ? すごかろう」

 横に目をやって説明でも入れようと思ったが、どうやら魔族との闘いを思い出してしまったからか、気づけば私は店に置いていた野菜と果物を全て浮かせてしまっていたようだ。

 あー……

「え、ど、どうやって……え?」

 しまった……

「マジックだぞ」

 何とかこの言葉でいけないか……?

「マジック……すっげぇ……チップ、チップってどこに出せばいいですか。ちょっと、これは出したいです」

 チップ……? なんだそれは……

「ちょっと待っておけ」

「はい。え、動画撮っていいっすか?」

 ドウガ……? また意味の分からんことを……

「ちょっと確認を取ってくる」

「あ、はい」

 おう、この返答でよかったのか

 頭を抱えて「やべー……」と独り言をつぶやく人間を横目に、私は奥にいるリエに一連の事を話した。

「チップは、野菜を買ってくれ。ドウガならとっても構わんそうだ」

「野菜かー……」

「果物でもよいぞ」

「果物ね、バナナとかあったりする?」

 バナナか……昔、人間が私の住む街に持ってきたな……

 魔法を使って探すと、バナナは奥の方に置いてあった。

「ああ、あるぞ」

「お、じゃあ。それ買ってきます。ちょっと小腹空いてたし」

「ふむ。まいど。奥にいるリエに渡したら買える」

「ちょっと買ってきます」

 なるほど……客寄せか

 だが、こんな魔力も使わないような魔法で人が簡単に釣れるというなら容易い話だ。

 バナナを買ってきた人間は、私の魔法を動画に撮って満足そうに歩いて行った。

 早くも一人目だな

 軽く背伸びをして、次の人を待った。


 来ない……

 誰も来なくて暇すぎる。

 つまらなくてあくびをしていると、後ろから肩を叩かれた。

 ん……

「ミラちゃん。マジック披露しなきゃ、誰もやってこないのよ」

 それ、つまり私が来る前は繁盛してなかったってことじゃないか……

 言葉の裏の情報を受け取りながら、それもそうかと納得させて誰も見なくとも魔法を使い始めた。


「まいどー」

 ありえん……

 魔法を使い始めてから、私の周りに人だかりができて来た。

 昔の人間なら、魔法を使ったところで見飽きていたのかこんな羨望の眼差しを向けてくる人はいなかった。

 んー……たまには変えるか

 なんとなく、ポケットから金貨を取り出して、それをリスに変えた。

 と言っても、家からペットを召喚しただけだが。

 これだけで「うぉぉぉーー!」と歓声を上げる人間は、昔に比べてだいぶ馬鹿になってしまったようだ。

 魔族が現れたら終わるなこやつら……

 ペットのリスは私の頭の上に登っては、いつも通り包まって眠りについてしまった。

 ふふふっ、今日は帰りが遅くなったものな

 リスの頭を撫でながら、次の魔法をまた披露した。


 結局、馬鹿になった人間たちのおかげでリエとタクマの店は大繁盛に終わった。

「ミラちゃん、凄いわ!」

「うん、明日もぜひ来てくれよ」

 褒められた私はやはり、断ることなんてしなかった。

 しかも、昼食を付けてくれると約束してくれた。こんな好条件の仕事はやらないほかないだろう。

 誰も見てないな……転移で帰ろう

 今日の分の駄賃と、野菜たちを戦利品に私は家に帰った。




 次の日、お店に行くと私は何か長い棒に昨日知ったスマホというものを付けた人間たちに囲まれた。

「英雄ではないかとSNSで話題の方を発見しました!」

 ん……?

「すみません。今、お時間大丈夫でしょうか?」

 だいぶ低い姿勢で話しかけてくるくせに、どこにも行かせないと言わんばかりに私を四方八方取り囲んでくる。

 なんだこいつら……

「英雄ではないかと話題になっています。正体はなんなんでしょうか! それはコスプレですか? マジックの種明かしはされるんでしょうか?」

 英雄……か

 勢い任せにぐいぐいと近寄ってくる人間に飽き飽きしながら、私は言葉を発した。

「そうだとしたら?」

※この作品は他サイトでも掲載しています。

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