3.
翌朝、ソファで眠っていたルイスは起き上がった。
ローテーブルには空になったワインのボトルが乱雑に並んでいた。
シャーロットの介護を終わらせてベッドで寝かせた後にルイスは二人の娼婦に酒をひたすら飲まされていた。
話のほとんどがシャーロットに関することで、いつどこで出会ったか、彼女をどのように思っているのかと執拗に聞かされていた。
先に潰れた娼婦たちを見てルイスはようやくソファで眠りについた。
「あいたた……」
ソファで一晩過ごすとさすがに背中が痛くなる。起き上がっておもむろにローテーブルの上に置かれた水をグラスに注いで口に含んだ。
(そうだ。シャーロットさんにもお水を……)
ベッドの方を見やると、掛け布団がむくりと山のように盛り上がっていた。
「シャーロットさん」
ルイスが声をかけると、山が少し動いた。
だが、こちらの方を見ようとしない。
(これは覚えているな)
以前ヨイチから教えられたことを思い出した。
シャーロットは悪酔いしやすいが、記憶を覚えている。昨日のやらかしを今更恥ずかしく思っているのだろう。
ルイスは新しいコップに水を注いで近づいた。
「シャーロットさん、お水です」
後ろから彼女の方へ水を差し出すと、山は動いて他へと進もうとする。
「いくら俺の顔を見たくなくてもお水は飲んでください」
全く答えてくれない山にルイスは呆れた。
「いつまで怒っているのです」
「怒っていない」
ようやく山から声がした。
「ルイスがどこで誰と過ごそうとそれはルイスの勝手だ。それと同じく私も誰と過ごしても私の勝手だ。ルイスには関係ない」
ルイスは掛け布団に手をかけた。剥がしたら、癖っ毛の黒髪が見えた。その隙間から覗く紫の瞳を見てルイスは一瞬動揺した。
(何だ? 一瞬、胸がざわっとなった気がする)
ルイスは動揺を悟られないようにシャーロットの手にコップを握らせた。
「確かに関係ないでしょうが……」
シャーロットは俯いた。こちらを向いて欲しいとルイスは彼女の頬に触れた。再び紫の瞳が見える。
「俺が心配します」
その言葉にシャーロットは顔を真っ赤にした。
「それではダメですか?」
ルイスの問いにシャーロットは視線を泳がせた。
「ダメじゃ……ない」
そこまでの言葉が出てようやくルイスは笑った。
「それで、あなたは何で娼館に?」
「それは……小説の必要知識で」
「イヴァノヴィッチ先生の小説の?」
ルイスの言葉から感じられる怒りにようやく気づいたシャーロットは目を泳がせた。
「あなたは女性でしょう。伯爵家の令嬢が、こんなところへ出入りして……変な噂がたってしまうでしょう」
「それは問題ない。ヨイチの同意をとって彼になりすましているし、仮にバレても私の評価など今更」
「今更何ですか?」
ルイスの言葉にシャーロットは口を閉ざした。
これ以上言ったら彼の怒りが暴発しそうな恐怖を感じた。
「今度、改めて先生に会いに行きます」
「え! ダメだ」
「ダメな訳ないでしょう! 姪のあなたを何度もいかがわしい場所へ送るなど、さすがに一言言わなければ気が済まない」
どれだけ自分が信用されずに直接会えなかったとしてもこれだけは許せない。
自分で行かずにシャーロットを娼館へ通わせるなど。何か問題に巻き込まれたらどうするつもりだ。
「いかがわしいとかひどーい」
ソファで眠っていたペネロペは起き上がった。同時にカルメンも。
「まぁ、世間からはそう思われているから仕方ないけど……ここに入ってきた殿方に言われてもねぇ」
嫌味たっぷりに言われてルイスは言葉に詰まった。
シャーロットを見ると彼女はすっと表情を消していた。
「あの、俺は別に自分から来た訳では……同僚に連れてこられただけで」
「ひどいわ。ルイスさん。あんなに熱く語り合ったのに!」
ペネロペはよよと涙を流す仕草をして、それを慰めるカルメンにルイスは困惑した。
「違う! シャーロットさんのケアの後にワインを飲み明かしただけで……それ以外、俺は何もしていません」
「まぁ、別にいいのではないか。ルイスも男な訳だし」
シャーロットは水を飲みながら言い放った。
「俺は本当に何もしていません」
ルイスはこのまま誤解のまま話が進むのは避けたかった。
「朝ごはんを用意するけど、お嬢様は食べます?」
カルメンは急に話題をかえてシャーロットはぱっと切り替えた。
「食べる。ルイスは、もう用事終わったのなら帰れば?」
「この誤解された状態で帰るなんてできませんよ!」
二人の会話を楽しみながらペネロペは厨房の方へ朝ごはんを取りに行った。
ようやく一晩酒を飲み明かしただけだと納得してもらうことにルイスはかなり精神を消耗させた。




