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シャーロットの仮説  作者: ariya
白亜の王の血脈

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23.



 ジョージを追い詰める現場に、サラが現れたのはアルバートの為であった。

 早朝にメリーから手紙が届けられて、その内容を聞いており全てを投げ出して父の姿を追った。


 途中で護衛を振り払ってでも彼女は街中を必死に歩き回っていた。

 ようやく路地裏に辿り着いた先で耳にしたのはシャーロットの仮説であった。

 その内容はあまりに信じられないものであった。

 だが、最近の父の豹変からありえなくはないと思う自分がいた。


「お父様が、ミカに保存薬を飲ませた」


 信じられない事柄をサラは口にした。

 手が震えて目眩を覚えた。


「サラ、違うのだ。私はこの令嬢に陥れられて」


 何とか取り繕うジョージにサラは首を横に振った。


「お父様、どうして。ミカにそんなものを飲ませたの。保存薬なんて、子供が飲んだら大事で……新聞の記事にもなっていたのに」


 1年前の新聞記事で子供が保存薬を誤飲した事件があり、誌面を飾っていたのをサラは思い出した。


 その時に記載されていた症状を考えると涙が止まらない。


「ただでさえ、心臓も気管支も弱く何度も発作を起こしているのに……どうしてそんな酷いことを」


 震える声でジョージを詰め寄った。

 歩き回りぼろぼろになった靴で、ジョージの方へ近づく。彼の肩を叩き、何とか理由を聞かなければと彼女は必死だった。


「お前のせいだろ!」


 苛立ったジョージは振り払い、サラは体制を崩して尻餅をついた。


「元はといえばお前が……お前が女に生まれたから悪い。それでレーシーはどれだけ苦しんだ! レーシーが影で何と言われているかお前は聞いたことがあるか?」


 貴族にとって跡取りの男児を産むのは大事なことだった。ジョージとレーシーの第一子はサラ――女児だった。


 跡取りも満足に産めないのか——レーシーはそう言われ続けた。


「容姿も並! 才も並! レーシーの娘とは思えないほどだ。それでも良い縁談を用意してやったのにお前は子供を産めずにいる。どこまでも私とレーシーの足を引っ張ってくれたな!」


「……っ」


 サラの喉から声にならない息が漏れた。


 結婚した女性にとって子供が産めないというのは耐え難い苦痛だった。


 それを実の父に言われて彼女はどれだけの傷を抉られただろうか。


「お前に子を望めないのであれば、アルバートを特別にするしかない。アルバートこそ正当なペトロック辺境領の主人にしなければならない」


 あまりに身勝手な動機である。

 それがわからないのかジョージはなおも叫んだ。


「だからミカエルの血を青くした! どうせ長く生きられないのであれば家の犠牲になるべきだ。それをあいつは薬を飲みたくないと泣き喚いて大変だった」


 ミカエルの悲痛の叫びを想像してサラは眉間に皺を寄せた。


「ミカを、そんなことで苦しめたの? あの子は5歳よ!」


 反抗的なサラにジョージは手に持っていた持っていた杖を振り上げた。


 鈍い音が路地裏に響いた。

 杖はサラの肩にあたり、叫び声があがった。


 ジョージはもう一度杖を振り上げる。


「やめろ」


 みかねたルイスがジョージを止めようとする前に、子供が叫んだ。


「やめろ! 姉様を傷つけるな」


 アルバートは涙を浮かべてサラの前へでた。その目は力強く、父への敵対心をむき出しにする。

 ジョージはそれに怯むどころか、さらに腹立たしく感じた。


「アル!」


 サラは慌てて両手でアルバートを抱きしめて、彼に覆い被さった。


 ガシャン、ガシャン――


 鈍い金属が動く音がして、思わずジョージは手をとめた。


 ひゅーっと冷たい風が路地裏を通り過ぎていく。


 音の方をみると甲冑姿の騎士がこちらへ歩いてきている。

 デザインからランチェト卿のものだ。


「な、何だ」


 ジョージは拍子抜けしたと笑った。


「こんな子供話で私をびびらそうという魂胆か?」


 じろっとシャーロットを睨んだ。

 シャーロットは目を大きく見開いて驚いた様子だった。


「いや、あれは誰だ? ルイスはここにいるのに」


 彼女はルイスの方をちらと見た。

 ランチェト卿役の男はここにいる。


 では、あの鎧の中にいるのは誰だろうか。


「もしかしたら、夜な夜な聞こえるランチェト卿の慟哭の理由はこれか……王の血筋を騙る為に罪なき子が苦しむ様を見て耐えられず」


 シャーロットが口にするのはここ最近のアルトス市立美術館の怪談話である。

 それはジョージの耳にも入っていた。

 警備員も、本来のランチェト役の男も気味悪がって逃げ出したという。


「何をいい加減なことを」


 なおも信じられないジョージに畳み掛けるようにルイスは口にした。


「実はパレード中、声がしました」


 ルイスは顔色を悪くして続けた。


「ジョージ、どうして……何故王を辱める」


「裏切りの騎士だが、それでも彼の忠義は本物だった。許せなかったのだろう」


 シャーロットはうんうんと頷いた。


「ば、バカな……そんな」


 目の前まで甲冑の男は近づき剣を抜いた。金属のこすれる音が耳に触れてぞくりと悪寒が走った。


「よせ、待ってくれ……わかった。謝罪する。許してくれ」


 剣は高く振り上がり、わずかに路地裏に入る光で照らされる。

 それがジョージの方へと振り下ろされた。


 ジョージの顔間近まで剣の先が触れようとした瞬間、ジョージは走馬灯を見た。


 

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