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シャーロットの仮説  作者: ariya
白亜の王の血脈

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22.


「うわ、もう始まっている!」


 路地裏に走り込んだルイスは息切れしながらシャーロットの側に駆け寄った。


「おや、ちょうどいい」

「シャーロットさん、俺が来るまで待機という約束でしたでしょう!」


 ルイスは責めるように叫んだ。

 すまないすまないとシャーロットは適当な謝罪をする。

 そして再びジョージの方へ振り返った。


「私の仮説を披露して、警察は動いてくれたよ」


 シャーロットは前日のうちにシェトラン警部に情報を伝えた。


「君が解雇したメイドの証言もあり、スムーズだった。今、君の家に警察は捜査し、ミカエル・ラビエラの遺体も検死することとなっている。必要があれば司法解剖の手続きもすると言ってくれたよ」


 すらすらと語れる今起きていることを聞いてジョージは興奮して叫んだ。


「解剖! あの子の体にメスをあてるのか。王の血筋に何という不敬な!」


 その言葉にシャーロットは冷たくジョージを睨みつけた。


「その子供に傷をつけて『青い血』の舞台装置にしたのは誰だ」


 わずかに怒りが垣間見えた。

 シャーロットがこんな怒りを見せるのは初めてだ。

 その視線は怒り以外に軽蔑も含まれている。


「違う! あれは必要なことだった。あの子が王の血脈だと示す為に」

「あれは薬の副作用だ。王の血は関係ない」


 シャーロットは断言した。


「しかし、レーシーも青い血だった! 誰が何と言おうとあれは王の血だ!」

「レーシー・ラビエラも薬の副作用だ」


 シャーロットはため息をつきながらも説明した。

 妄信に囚われたジョージの主張にいちいち反応するのもつかれてきた。


「まず、レーシーについて……彼女は狭心症を患っていた。定期内服と発作時の頓服を処方されていたと使用人からの証言がとれている。警察に掛け合って、彼女が最後に処方された情報も既に把握済みだ」


 シャーロットはポシェットから警察を介して手に入れた薬剤情報を見せた。

 ずらりと薬が並んである。


「その薬の中に、副作用になりそうなものがありましたか?」


 ルイスの質問にシャーロットは頷いた。


「亜硝酸アミル。狭心症の発作時の頓服で利用される。カルテ開示では、ジョージは医者が来るまでに何度も頓服を使用していた」


 昨夜、シェトラン警部を連れ出してどこかへ行っていたようだが、アルトス市警の協力の元カルテを確認していたのか。


 さすがに騎士パレードの準備があるからとルイスは同行できなかった。


「亜硝酸アミルの副作用にメトヘモグロビン血症がある」


 聞き慣れない病名にルイスは思わず復唱してしまった。


「血液異常だ。ヘモグロビンの2価鉄が3価鉄に酸化され、酸素結合・運搬能力を失った状態。これにより赤い血は青黒く変色する。レーシー夫人をみた医者もそれは知っていた。だから、2年前のジョージの青い血騒動を否定した」


 既にカルテにもあったようだ。

「メトヘモグロビン血症の疑いあり」と。


 だから、あの時シャーロットは「レーシーの青い血は医者が否定した」と発言したのか。


「それじゃあ、ミカエル・ラビエラも同じ亜硝酸アミルを……」


 シャーロットは首を横に振った。


「あの子は別のものだ。亜硝酸アミルなら薬として利用されていたと納得できるが、よりによって……あんなものを子供に与えるなど」


 震える声であった。

 作為的に子供を傷つけた行為を許せずにいるのだ。


 アルバートたちの前では平静としていたが、加害者を前にすると感情が抑えられないようだ。


「シャーロットさん」


 ルイスの声にシャーロットは何度か深呼吸を繰り返した。


「お前は意図的に亜硝酸ナトリウムをミカエルに飲ませた。肉の保存薬を、あんなものは子供が飲むべきものではない」


 確かにメイドのキキも同じことを言っていた。


「でも、どうして違う薬を? 同じ効果ならレーシー夫人に使われていた薬でもよかったじゃないですか」


 話を聞きながら、ルイスは疑問を口にした。

 それにシャーロットは応じる。


「単純に入手方法の差だろう。亜硝酸アミルは処方箋が必須だ。しかも、レーシー夫人が亡くなった今、家中で狭心症を患っている者はいない。喘息で症状改善に使用することはあるが、喘息の治療薬としては一般的ではない。亜硝酸ナトリウムなら食糧庫で定期的に仕入れているから少しずつ使えば怪しまれずにすむ」

「証拠は?」


 ずっと黙っていたジョージは横入れした。


「私がミカエルにそんなものを飲ませていたという証拠はあるのかい?」


 ジョージを冷たく見たシャーロットが答えた。


「キキがすり替えた薬をまだ持っていた」

「そんなものっ! 私に罪をなすりつける為かもしれないではないか」


 なおも開き直るジョージにシャーロットは呆れた。


「さっき警察から報告を受けたが、ミカエルのベッドの下から薬瓶が回収された」


 それを聞いてジョージはさぁっと青ざめた。


「ミカエルはあの薬を飲むと頭が痛くなるから嫌だと言っていたそうだ。それなら、一部を飲まずにどこかに隠していたかもしれない」


 シャーロットの想像通り、ミカエルの部屋から未服用の薬瓶が見つかった。


「その瓶にはたっぷりと亜硝酸ナトリウムを溶かした水が入っていたよ」


 ジョージの口がわずかに開いたまま言葉を発せられずにいた。

 なおもシャーロットは問い詰める。


「そして指紋照合に回している。もし、ミカエルと君の指紋があれば……どうかな」


 シャーロットは首を傾げた。まるで、試すようにいう。

 実際、指紋照合は時間がかかり労力が大きい。だが、どんなものか知らないジョージには特別な検査に聞こえるだろう。


 今、青い血の真相を暴かれて平静さを失いつつあるジョージを追い詰めるには十分だ。


「貴様!」


 ジョージは怒りに震えてシャーロットに詰め寄った。杖を持った腕が乱暴に振り上げられる。

 その前にルイスが前へ出て、杖を受け流してジョージを倒した。


「大丈夫ですか?」


 声をかけてくるルイスにシャーロットは一瞬ルイスの腕をみた。杖があたり、赤い痕になっていたがルイスは笑った。


「これくらいは問題ありません」


 ジョージを追い詰める場所に間に合ってよかった。間に合っていなければ、シャーロットの顔が杖で赤くなっていたかもしれない。それに比べればこの程度軽いものである。


「余計なことをしてくれた! ……後少しでアルバートを王にできたのにっ」


 悔しげにつぶやくジョージは未だに足掻こうとしていた。


「ラビエラさん。いい加減罪を認めてください。もう警察は、あなたがミカエル君にしたことを把握しています」


「うるさいっ、うるさいっ!」


 ルイスの言葉にジョージは叫んだ。


「貴様に何がわかる。余所者の貴様にっ!」


 自身の罪に未だ向き合わないジョージにルイスはため息をついた。


「わかるわけないでしょう。自分の子供に毒を飲ませた男のことなんて」


「……本当なの?」


 路地裏で新しい声が響いた。若い女性の声である。


 サラが信じられない表情でジョージを見つめていた。

 今頃ペトロック辺境伯家のパーティー準備に忙しいはずだが、彼女はここにいた。

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