21.
騎士祭り最終日――十日間続いた祝祭は、ついに最高潮を迎えた。
花びら舞う街道を、馬に乗った騎士たちが行進する。
眩い日の光に照らされた騎士、それに従う兵士たちの姿は圧巻であった。
建物の上から、淑女たちが声を出して美しい花びらを投げた。
吹雪のように吹き荒れて、伝承の中に迷い込んだのではと人々は酔いしれた。
シャーロットは、三階建のマンションからパレードを眺めた。
サラが特別にあけてくれた特等席だった。
「ん?」
騎士が上を向いた気がした。
人気騎士ランチェト卿だ。
思わず手を振った。
同じ建物の、別の部屋から黄色い悲鳴があがった。
「きゃー! 私を見てくれたわ」
隣の部屋から聞こえる声にシャーロットは苦笑いした。
「お嬢様、日差しが強いですよ」
ヨイチはシャーロットの頭に帽子を被せた。
「楽しまれていますね」
「最高だ! ずっと騎士祭りのパレードを見たかったが、それが叶うばかりか彼の騎士姿を見れた」
心からの喜びの声――ヨイチは思わず口を緩めた。
「では、パレードが終わり次第ルイス様のお迎えへ行って参ります」
「うん、頼んだ」
パレードが終われば、ルイスと落ち合う予定だ。
ヨイチが行くのであれば安心だろう。
「いいですか。1人の時に勝手に動かないでくださいよ。私が戻るまでここで大人しくジュースを飲んでいてくださいね」
ヨイチはとんと準備していたジュースをテーブルの上に置いた。
あらかじめ冷やしてもらったシェトラン家自慢のぶどうジュースである。
「わかっているさ」
釘を指すヨイチにシャーロットは苦笑いした。
◆◆◆
騎士一行はペトロック辺境伯の城――ジェルタ城へと辿り着いた。
パレードの執着地点である。
アルトスの街中を1周した後は、そのまま海岸沿いのジェルタ城へと向かうのが基本コースであった。
「ぷはぁ……」
パレードが終わった後、ルイスは兜を脱いだ。
確かに体力がいる。
館長が求めていた人材の条件を思い出した。
潮風の影響で涼しい地域とはいえ、日ざしが強い日に鎧兜を着るなど暑くてたまらない。
さらに馬に乗ってパフォーマンスを求められるのだ。
「お疲れ様」
騎士役の仲間たちはルイスの背中をどんと叩き労った。
「フォローするといいながらほとんど必要なかったな」
みんな汗だくの状態であった。
この後は、主催者が用意してくれた風呂に入りパーティー参加である。
「ルイス様」
控室の方に顔を出すのはヨイチである。
ルイスは立ち上がった。
「すみません。少し抜けます」
「おや、何だ?」
「いえ、その……連れの女性が写真を撮りたいと言っていて」
ルイスはそれらしい理由を伝える。
それにああと1人が納得した。
「着物のお姫様だな」
思い出したように彼らはにやにやと笑いルイスを見送った。
「世話人には適当に言っておくから、すぐに戻ってくるんだぞ」
気を遣ってくれているようだ。
ありがたいがルイスは申し訳なさを覚えた。
◆◆◆
騎士たちのパレードは終わり、人々は騎士祭り最後の夜を楽しんだ。
最後はペトロック辺境伯家の城で行われる最後のパーティーでお開きとなる。
パーティーの催しとして、アーク=タラス王が聖杯をかざして天へあがる演出がある。
だが、聖杯は偽物で本物がこちらにあればどうなるだろうか。
アルバートが聖杯を手にすれば――王の血脈として誰もが記憶を刻むことになるだろう。
「待っていてくれ、レーシー」
男はアルトス市内での待合場所で待機していた。
人の通りが少ない路地裏。そばには馬車を待機させてある。
約束の時間になれば盗まれた聖杯はここへ届けられる。
それをアルバートに持たせれば演出は完璧だ。
「君を特別だとみんなに認めてもらえるのだ」
うっとりと男は呟いた。
「ああ、すまないが……」
男の後ろから女が声をかけてきた。
「聖杯は届けられることはないぞ」
路地裏に現れたのはシャーロットだった。
「これはこれは、ベルエイデン令嬢……パーティーはもうすぐ始まりますよ」
男は動揺しつつも、丁寧に挨拶をした。
「パーティーにはいくが、アルバートとここで待ち合わせをしていたからな」
それを聞き男は馬車のある方へ見た。
馬車の中で待機しているアルバートはこの場所へ来ることは知らないはず。
「何故……ここが」
「ああ、君が依頼したごろつきが教えてくれたのさ。聖杯の届け先を」
シャーロットは何のことないと説明した。
「今朝の新聞は見なかったのかい? 郊外で貴族令嬢を襲った野盗が返り討ちに遭い逮捕されたと記事がある。まぁ、祭りメインで盛り上がっているから小さな記事だったがな」
聖杯のことは隠されているが、当たり障りない記事は載せることはできたようだ。
「既に本物の聖杯はペトロック辺境伯の元へ戻っている。君の舞台装置は壊れた」
シャーロットは男をじっと見つめてその名を呼んだ。
「ジョージ・ラビエラ。幕を引け。君の『青い血』劇場は終わったのだ」
男はこぶしを強く握りしめシャーロットを睨みつけていた。
「そして君を子に毒を与えた罪で警察に突き出す」
シャーロットは静かに宣言した。




