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シャーロットの仮説  作者: ariya
白亜の王の血脈

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18.


 ようやく荒くれ者たちが抵抗できないことを確認して、ルイスは馬車の中で疼くまった状態のシャーロットに声をかけた。


「大丈夫ですか?」


 上着を被った頭に触れようとすると、彼女は反射的にルイスの腕を掴んだ。


「怪我は」


 掠れた声で尋ねてくる。

 その声にようやくルイスは落ち着いた心地がした。


「大丈夫です。扉をうまく盾にしましたし……ヨイチさんも来てくれました」


 そういうと彼女はルイスの手を確認した。


「お嬢様、御者を病院へ連れて行った方がいいです。そこで電話を借りて警察を呼んでください」


 御者の手当てを終わらせたヨイチは馬車の中へ顔を覗き込んだ。


「私はここに残ります。ルイス様、申し訳ありませんが御者の補助に回っていただけませんか?」


 一応、馬車の扱いは心得ている。

 御者の指示をもらえたら動かすことはできるだろう。


「ですが、ヨイチさんが残らなくても……ここにいる連中は拘束していますし」

「万が一逃げられたら困ります」


 ヨイチは淡々と答える。


「だけど仲間が来たらヨイチさん一人だと」

「大丈夫です」


 返答の中、ところどころヨイチの言葉の端に怒りが滲み出ていた。


 彼からすれば、シャーロットを危険な目に遭わせたごろつきをただで逃したくないようだ。

 もうすでに痛い目には遭っているようだが。


「わかりました」


 シャーロットの手を離してルイスは御者の席へと回ろうとした。


「私も前へ行く」


 離れようとした矢先シャーロットはルイスの腕を掴んだ。

 手が震えている。まだ怖いのだろう。


「え、いえ……シャーロットさんは馬車の中にいてください。御者席も2人までが定員ですし」


「なら御者を馬車の中にいてもらえばいい。そうすれば私とルイスで前に座れるだろう」


(いや、あなたが一番守られるべき人でしょう)


「ルイスが怪我したらどうする」


 震える声で呟く。

 彼女の恐怖は、ルイスが傷つくことだった。

 そんなことを言われては無理に引き剥がせない。


「お嬢様」


 見かねたヨイチがシャーロットに声をかけた。


「ルイス様を困らせてはいけません。あなたが前にいれば、ルイス様の足手纏いです」


 はっきりとぴしゃりという言葉にシャーロットは目を伏せた。


「わ、わかった」


 簡単に引き下がり、ルイスは感心した。

 やはりシャーロットの扱いに慣れているな。


 ルイスは一瞬ためらったが、シャーロットの手をそっと外した。


 ◆◆◆


 怪我をした御者を病院へ連れて行き、病院の電話で警察に連絡した。

 ヨイチが待機している場所に複数の警察馬車が迎えっていくのをみてとりあえず安心した。


 その後は、病院へやってきた警官らに状況を説明する。


「調書を取りたいので、署の方へ来ていただきたい」


 御者からの聴取を終わらせた後はルイスとシャーロットは警察署へと送られた。


 何度も書類にサインを書かされて、終わった頃に部屋を出ると待合のソファで腰掛けるシェトラン警部がいた。

 シェトラン家に連絡がいき、迎えに来てくれたようだ。


「君は隠していることがあるだろう」


 待機中、煙草をくゆらせているシェトラン警部の第一声はそれだった。


 彼の指の仕草はどこかで見たような気がする。

 つい最近――どこだったか。


「別に?」


 シャーロットはひどく平静な声で答えた。

 先程の動揺は落ち着いた様子だ。

 いつもの調子に戻ったシャーロットにルイスは安心した。


 シェトラン警部は煙草を持った手で、指をさす。

 その方向はシャーロットが持つポシェットだった。


「今なら大事にしないから、大人しく警察に渡しなさい」


 子供に言い聞かせるような大人の言葉である。


「そんな大したものは入っていないぞ」


 シャーロットはぎゅっとポシェットを掴んだ。


「ルイス・パンドディア君、彼女は何を隠している? 言えば、警察への協力として片付けてあげよう」


 そこまで言われては仕方ない。

 実際、シャーロットがしたことは盗難である。


 ここで隠して後々面倒事に巻き込まれるシャーロットを見るのは忍びなかった。


「詐欺師の拠点で怪しい本と薬草を回収しました」

「ルイス!」


 ルイスの裏切りにシャーロットは涙目であった。


「ああ、ラナ・モリガン……アルテミア子爵家にも出入りしていた詐欺師だな。こんなところでも潜伏していたのか」


 記憶がいいようで、シェトラン警部は過去にシャーロットが関わった事件を思い出しながらシャーロットのポシェットの中をひっくり返した。


「全く……何年君と仕事を共にしたと思っている。君の行動はあらかた予想できる」


 これが年季の差、大人というものか。

 自分もシャーロットも成人した身であるが、シェトラン警部の観察眼はなかなか侮れない。


「これはアルトス市警に提出してくる」


 手ぬぐいで本と薬草を拾い、シェトラン警部はその場を立ち去った。

 シャーロットは何とか取り返そうとその後を追いかける。


 パラリと小さな紙が落ちていた。

 おそらく漢方の本に挟まっていたのだろう。

 

 ルイスは拾ってシェトラン警部へ渡そうとしたが、その紙をみて思わず声を失った。


 一枚の古い写真だった。


 ――男と女が手を繋ぎカメラに向かって姿勢をとっている。

 男は長身の偉丈夫であった。見慣れない服装で、ケルトニカ帝国の人間ではない。

 女は小柄な女性で、陽和国の民族衣装――着物を着ていた。髪をぴっちりと結い上げている。


 女は少し不安そうな面持ちで、男はそれを慈悲深く見つめて笑いかけていた。


 国の違う男女の恋人と思われる写真――問題なのは、女の容姿がどことなくシャーロットに似ていた。――


 ルイスは無言で写真をポケットの中へと詰め込んだ。

 どうしてそうしてしまったか自分でもわからない。

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