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シャーロットの仮説  作者: ariya
白亜の王の血脈

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17.



 昼ごはんを食べ終えて、ルイスたちはラナ・モリガンが棲んでいる洞窟へと向かった。

 村の外れの崖が並ぶ中、木々に覆われた通の奥に目当ての洞窟はあった。


「誰もいないですね」

「なら、都合がいい」


 シャーロットは洞窟の中へと入っていった。

 もう少し警戒をしてほしいのだが、とルイスは後を追う。


 洞窟の中は、いわゆる魔女の巣窟みたいな場所であった。

 火の消えた炉には、まだわずかに温もりが残っていた。最近使われていた痕がある。


「何かいっぱいありますね」


 古い机の上にはたくさんの本が並んでいた。

 ケルトニカ帝国の古語で書かれた本がほとんどで、中に異国の書物が散乱している。


「漢方の本まであるな」


 シャーロットは1冊の本を手に取って、ため息をついた。中を開いた。


「読めるのですか?」

「ほんの少し、一部の漢字の意味くらいなら」


 何が書かれているかは正確にはわからない。


「ヨイチならわかるかもしれない」


 解読を諦めたシャーロットはポシェットの中に漢方の方を入れる。


「盗んだのがすぐにばれてしまいますよ」

「構うものか。ラナ・モリガンはアルテミア子爵夫人の本を盗んだ。文句言ってきたら逆に問い詰めてやる」


 ルイスはため息をつき、呉座に干された薬草をみた。

 薬草についてはあまりよくわからない。


「麻黄があるとは、ラナ・モリガンは東方のものも利用しているのだな」


 薬草をひとつ見てシャーロットは呟いた。


「麻黄?」

「漢方に使われる薬草だ。喘息の治療にも使用されている」


 それを聞いてルイスは思い出した。

 アルバートの小さな発作は祈祷師の薬草でなんとかなったという。


(では、この薬を使用していたということか)


 シャーロットはかがんでいくつかの薬草を確認した。


「何を企んでいるかわからん。成分を精査する必要があるな」


 ポシェットに薬草を放り投げていった。


「シャーロットさん……」


 それは盗みに入るのだけど、とルイスは困惑するが盗む相手がラナ・モリガンなので追求はできずにいる。


 ある程度の情報を収集しおえたシャーロットは満足げに洞窟を後にした。


「帰ってヨイチに見せる」

「ヨイチさんは、薬も詳しいのですか?」

「一応危険薬物取扱いの免許も持っている」


 予想しなかった経歴にルイスはおそれをなした。

 以前シャーロットが毒針のついた古い指輪を使用人に管理させると言っていたが、それはヨイチだったのか。


 村へと戻ったころには夕暮れどきであった。


「急いで帰ろう」


 シャーロットは足早で馬車の方へと向かう。


 二人の走る様子を通りがかりの家の窓から覗く男がいた。


「シャーロット・ベルエイデンッ!」


 男は忌々しげにシャーロットを睨みつけた。


「あいつのせいで私は、私は……くそっ」


 帽子を床へと投げつけた。

 先程、ルイスたちに席を譲った軽食屋の客人であった。

 振り返り、後ろにいる男たちを睨んだ。


「お前たち、あの貴族の令嬢を捕まえてくれ! あの女のせいで私は大事な拠点を失ったんだ。このまま放置すればここも危うい」


 それをいうと男が立ち上がった。


「東方の女か」


 シャーロットが村中を移動しているときに間近で顔をみていたようだ。

 ぺろりと唇を舐めて物色の視線を向ける。


「あの洞窟をみたのだ。何かを察したら厄介だ」

「口封じが必要だな」


 男たちはへらへらと笑い、準備を始めた。


 ◆◆◆


 帰路の途中、馬車が突然止まった。

 大きな揺れでルイスは何事かと窓をみる。

 まだ暗い道の中、向こう側にあるアルトスの街灯も見えない。

 シェトラン家は郊外にあるが、アルトスの灯りを見ることができるのだ。


 まだ辿り着いていない。


「ひぃっ!」


 御者の悲鳴と共に拳銃の発砲音が響く。ガラスが割れて、その瞬間ルイスはシャーロットを掴み下の方へと屈ませた。


「何だ?」


 わけがわからないと顔をあげるシャーロットにルイスは上着を着せた。夏用の薄手のジャケットであるが、飛び散るガラスから守れればいい。


「外をみます。シャーロットさんは俺が言うまで絶対に顔をあげずに身を屈んでください」

「夜盗か?」


 近代化が進んでも、各所で夜の強盗事件は発生している。

 夜遅くに馬車で移動すると荒くれ者に襲われて身ぐるみを剥がされたという事件は珍しくない。最悪命を奪われることもある。


(ここで戦えるのは、俺だけだ)


 ルイスは胸元に潜ませていた拳銃に手をかけた。

 念のため護身で持ち歩いていて正解だった。


「ルイス」


 シャーロットはルイスの手を握る。頭から被った上着がずれて紫の瞳が見つめてくる。

 ルイスは上着を被し直した。


「大丈夫です」


 そう言ってシャーロットを残し、馬車の外へ出た。

 荒くれ者は10人。御者をみると肩を負傷していて、馬車につけた灯りの下赤い血が流れているのが見えた。

 位置を確認すると同時に発砲した。

 三連続で、それぞれの弾は命中して3人の男が倒れていく。


 手応えに指先がわずかに震えた。


 生きているか、死んでいるかなどわからないし確認する余裕などない。

 向こうの方が数は有利なのだ。


(俺が死ねば、シャーロットさんはこいつらにどんな目に遭わせられるか)


 扉の向こうで震える彼女を視界の隅に留めた。


 想像したくもない。

 残りの弾の数を頭で考えて、目の前の男たちを倒さなければならない。


 銃の音が響き、ルイスは馬車の扉を盾に身を屈ませた。

 彼らが次の弾を身構える前に仕留めなければ。

 そして扉から出たら、荒くれ者は半分以下になっていた。

 彼らはひるんだ様子で後ろの方をみやる。


 どうやら後ろの方からも狙撃を受けたようだ。

 考えるよりも前に、荒くれ者たちは新たな銃弾を受けてその場に崩れ落ちた。


 向こうから姿を現す別の男の存在にルイスは緊張した。

 新しい賊かもしれない。

 そう思い拳銃の手は緩めることはできなかった。


「ルイス様」


 男の声を聞き、ルイスは目を見開いた。

 

 男は荒くれ者たちの様子を確認して、何か縄を取り出したと思えば次々と拘束していった。

 慣れたてつきで一通り終えたら男はルイスの方へ近づいてくる。


 馬車の灯りのもとにまで入った時に思わず口にした。


「ヨイチさん……」


 シャーロットの従者の、ヨイチであった。


 彼の手は先程倒した荒くれ者たちに触れた為か血で汚れていた。

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