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シャーロットの仮説  作者: ariya
白亜の王の血脈

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15


 翌日、早朝からルイスとシャーロットはシェトラン家を出た。


 向かった先はラビエラ家である。

 ルイスたちはメリーの手引きで屋敷内へと潜入した。ジョージ・ラビエラが外を出たのを見計らって。


「こちらです」


 メリーは震える手で鍵を開けた。

 屋敷の外、敷地内に存在する地下への通路である。

 重い扉の音が開かれて、あるのは地下への階段であった。


「私は法医学者だから死体を視るのが専門だ」


 前日、シャーロットがそういうとアルバートはミカエルの死体を確認できるようにすると言った。

 ジョージが外出する時間を確認して、2人を地下墓所クリプトへと案内した。


 棺桶がずらりと並んでいる。奥の方の棺桶は300年前のものもあった。

 ラビエラ家は爵位はないものの、長年ペトロック辺境伯家門の騎士として活躍していたことが伺えた。


「こちらです」


 メリーは比較的新しい棺桶を示した。


「俺が開けます」


 棺桶の蓋を開けるのを女性にさせるのは躊躇してしまう。

 ギィッと蓋を開けると5歳の幼い少年が眠っていた。


「確か5歳……でしたよね」

「はい、ミカエル様は生まれつき気管支も心臓も弱くて……お付きだったキキはいつも彼につきっきりでした」


 メリーは悲しげに呟く。


 シャーロットは手袋をして身をかがめた。そっと少年の体に触れて、まずは外表部を確認した。皮膚の色、目の周りの結膜、口の中……死後の幼い体であり慎重に触れていた。


「ちなみにそのキキさんは?」


 シャーロットが指示しない限りは手持ちぶさたのルイスはメリーに質問した。


「1週間前に解雇されました」


 メリーは困ったように呟いた。

 解雇という単語で思い出したのは、ジョージが家族を医者に診せるべきと助言した使用人を次々解雇したことだ。


「ルイス、灯りをこちらに」


 ミカエルの衣類をずらし背中の皮膚をみたいとシャーロットはいう。

 ルイスは手にしていた灯りを彼女の指定する場所に近づけた。

 皮膚は青白く変色している。青い血とは関係なく死後の一般的な反応だ。これはルイスでもわかる。


「やはり難しいか……」


 シャーロットはため息をついた。


「死後から1週間経過しているから、視診だけでは死因の特定は難しい。わかるのは、青い血も、赤い血同様に黒く変色するくらい」


 ミカエルの右腕を示した。

 布をあてられて、剥がすと切り傷が見えた。

 おそらく葬儀の最中、青い血を見せるためにジョージが傷をつけたのだろう。


「この場合はどうします?」

「最終手段で解剖だが、あの父親が同意するとは思いにくい」


 メリーの話から自然派に傾倒している。

 こだわりが強そうだなとパーティーでのことを思い出した。


「地道に情報を集めるしかないな。念の為、レーシー・ラビエラの死体も確認しよう」


 2年前の青い血騒動の女性、ジョージの妻だ。

 ルイスは隣にある棺桶に手をかけた。


「う……」


 メリーは手で口を覆った。つらそうに目を伏せていた。


「すまないな。気分が良くないだろう。入り口で休んでくれても構わない」


 無理に死体観察を突き合わせてしまったことをシャーロットは詫びた。


「いいえ。お2人のサポートをするように坊っちゃまに言われていますから」


 メリーは首を横に振った。彼女自身、ラビエラ家の異常さを何とかしたいと考えているようだ。


 確かに次狙われるのはアルバートかもしれない。

 実際自然派の為に近代医学から遠ざけられていたし。


「何かわかりますか?」


 レーシーの体は既に白骨化している。青い血の痕跡も見当たらないだろう。


「わかるのは、骨粗鬆症があるくらいか」


 シャーロットは大腿骨に触れながら呟いた。


「レーシー・ラビエラの享年は38……若い割に随分な脆さだ。これだけで骨粗鬆症とみてもいいだろう」


 さらにシャーロットは観察し続けた。


「若い女性の骨粗鬆症の原因は過度な減量による栄養不足、月経異常、妊娠……あと、煙草の可能性も考えられるな」


 その呟きにメリーは反応した。


「奥様は体型を気にする方で、常に摂食されていました。煙草も吸われていて、よくお医者様から注意を受けていました」


 メリーは参考になるかわからないが、知っている範囲の情報を伝えた。


「その為、奥様は坊っちゃまたちの接触を控えていました。一度、奥様の喫煙臭で坊っちゃまの発作が起きた為……ますます奥様は煙草の量が増えました」


 レーシーは夫人の仕事以外に育児で悩み、煙草に手を出した。

 煙草が原因で子供の発作が起き、それを恐れて距離を置くようになった。だが煙草はやめられず、逆に量は増えていった。


「彼女の死因は?」

「急性心不全です。狭心症の発作があり、薬を常用していました」


 シャーロットはようやく蓋を閉めるようにルイスに頼んだ。


「ちなみに、解雇されたミカエル付きメイドに会えるか?」


 シャーロットは思い出したように質問した。


「ええ、まだアルトス市にいると思います」


「では、彼女を私のもとへ連れてきてもらえないか? 確認したいことがある」


 シャーロットの依頼にメリーはこくりと頷いた。


 ラビエラ家を後にして、シャーロットは馬車へ乗る。


「さて、と」


 席に腰掛けてシャーロットはガイドブックを開いた。


「どこかへ観光しますか?」


 死体をみた後にそんな気分になれないが、シャーロットは頷いた。


「ああ、ラナ・モリガンが棲みついている村に観光しにいく」


 予想外の返答にルイスは動揺した。


(それは観光じゃないだろう)


 ルイスは深くため息をついた。

 このまま彼女を1人行動させる訳にはいかない。


「俺もお供します」


 馬車は、祭りの熱気に浮かされた街から離れていくのを感じた。


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