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シャーロットの仮説  作者: ariya
白亜の王の血脈

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11.



 騎士たちの模擬戦。

 アーク=タラス王の御前試合を模したものだ。


 アーク=タラス王と騎士たちに扮した役者たちが、観客の前で決闘を披露する。


「参加してもよかったのでは?」


 観客席に案内されたシャーロットはつぶやいた。

 サラのおかげで一等席を用意してもらえた。


「無理ですよ。ちゃんと訓練してないと怪我してしまいます」

「君が怪我させるではなく?」


(一体、この人は俺をどれだけ買い被るんだ)


 ルイスは困惑した。

 

 幼い頃、貴族令息として一般教養レベルの剣術は学んだが兵役に入ると同時に忘れてしまった。

 兵役時代に習ったのは、銃と体術、白兵戦。

 白兵戦で剣は学ぶが、騎士の時代のものと随分と異なる。多少の訓練をしなければ、お互い大怪我をしてしまうだろう。


「せっかく、お守りをもらったのだがな」


 シャーロットはサラにもらったお守りを見せた。

 観戦参加の女性はお守りを準備する。

 騎士が女性にお守りを請えば、女性は騎士の乙女としてお守りを授ける。

 勝利を収めた騎士は花冠を乙女に捧げられる。


「騎士に求められたら渡せばいいでしょう」

「私が乙女になれる訳ないだろう」


 シャーロットはちらりと別の方を示した。

 騎士が丁度令嬢にお守りを授けられる場面であった。


「だいたいは恋人か、家族だろう。それがなければ適当な令嬢に請う」


 それを期待して、あちこちの令嬢が騎士に声をかけていた。


「ユースティス卿! 私のお守りを受け取ってください」


 黄色い歓声が聞こえていく。


「あれは大変そうですね」


 あの中からお守りを送ってくれる女性を選ぶなどルイスには厳しい。


「あれ」



 騎士の一人が、まっすぐこちらへ歩いてくる。

 その進路が偶然とは思えなかった。


 彼が入ったエリアは客の中でも上流階級の者、もしくはシャーロットとルイスのように主催者側の大事な客がいる。


「……?」


 シャーロットは目の前にまで現れた騎士に首を傾げた。

 彼はシャーロットの前で膝をつき、手を差し出した。


(これは……)


 お守りを請う仕草。


 鎧の紋様、デザインをみてゴーヴァン役だとわかった。

 ゴーヴァン卿――太陽の騎士と呼ばれ、ランチェト卿と並ぶ人気の騎士であった。


 まさか、人気騎士役がシャーロットを選ぶなど思いもしなかった。


 シャーロットは、わずかに目を瞬かせたまま動かなかった。


「シャーロット様、騎士を待たせない方がいいです」


 側にいたサラの助言で、シャーロットはお守りの手拭いを差し出した。


 多くの令嬢が持つ手拭いは手作りであるが、シャーロットのはサラが用意してくれたものだ。


 シャーロットはそれを騎士の手に差し出した。


 この時に選ばれた乙女は決め台詞をいう。


 ――「どうかご武運を」

 

 もしくは


 ――「あなたの勝利を祈ります」


 だいたいがこの2つが定番フレーズである。


「頑張れ」


 シャーロットから出た言葉は単純な応援であった。

 それにはルイスもサラも目が点になる。

 確か決め台詞は事前に教わったはずだが。


「っふ」


 騎士は吹き出した。

 鎧兜で顔が見えないが、面白がっているようだった。


「あなたの為に勝利の花冠を捧げましょう」


 ゴーヴァン卿役はお守りの手拭いを剣の柄に結びつけて、高らかに宣言した。


 模擬戦開始の号令が響く。


「シャーロットさん」


 思わず声が漏れた。

 先程のやり取りを、うまく笑えなかった。

 


「ま、まさか私が選ばれるとは思わなかったのだ」


 思わず台詞を忘れてしまった。


(それがシャーロットさんらしいけど)


 きっと今の騎士はサラの大事な客シャーロットの為に準備したのだろう。

 だからサラは開始前に何度もお守りの渡し方について説明していたのだ。


「おお」


 模擬戦といっても騎士たちの剣技は迫力があり、男でも興味が惹かれた。

 令嬢たちは自身の推しの騎士の活躍に歓声をあげた。


 シャーロットは目を輝かせて騎士たちの動きを見つめていた。


「シャーロットさんは騎士物語が好きなのですか?」

「ん、ああ……探偵小説のネタになるとも思ったが、騎士道物語にも興味があって」


 予想以外の反応だった。

 法医学の研究に没頭した女医だから理系のことばかりに興味があると思っていた。


(いや、確かイヴァノヴィッチ先生も騎士道物語を書いていたな。探偵ネロほどの話題はなかったが、そこそこの刊行数だった)


「はじめて書いた小説も騎士道のものだったし……あの時は知識不足が目立っていたからこうして見れるのは嬉しい」


 さらに意外なことにルイスは驚いた。


「シャーロットさんも小説を書くのかい?」


 その言葉にシャーロットの表情が凍る。

 しばらくして顔を真っ赤にしていた。


「いや、私は……」


(よく考えてみればシャーロットはイヴァノヴィッチ先生の執筆支援をしていた。シャーロットさんが小説を書くことに興味があっても不思議はない)


「シャーロットさんの小説を読んでみたいな」


 シャーロットは首を横に振った。


「いや、その……無理で」


 声が上擦っている。

 確かに、誰かに読ませたことがない人にとって見せる行為はハードルが高いだろう。


(俺もそうだった。放浪記を読まれるのは抵抗があったな)


 ルイスは内心うんうんと頷いた。


 もしかすると個人の趣味で簡潔しているかもしれない。


「シャーロットさんが見せたくないなら無理には言いません。でも、何か助けになれそうな時はいつでも言ってほしい」


 そこまで言われてシャーロットはこくりと頷いた。

 彼女は長い髪を掴んでいた。

 彼女の照れた時の癖だ。


「勝者――ゴーヴァン卿!」


 模擬戦は進んでいき、試合に全て勝利したゴーヴァン役が勝利を収めた。

 黄色い歓声がわく。


「シャーロット様! 今、前へ出てください」


 サラは興奮気味にシャーロットに声をかけた。

 シャーロットは別に乙女になる気はなかったが、サラの圧に根負けして観客席から前へと出る。


 勝利の花の冠を手に入れたゴーヴァン卿はすぐ側にまで近づいてきていた。


「おめでとう」


 花冠を頭にかけてもらったシャーロットは小さくつぶやいた。

 騎士は兜の顔の部分を一部外していく。

 口の部分がみえて、笑顔を称えているというのがシャーロットにはみえた。


「手を」


 ゴーヴァン卿に言われるままシャーロットは右手を差し出した。

 騎士は膝をつき、シャーロットの手をとった。

 右手に口付けをする。


 その瞬間、シャーロットは右手を引っ込めた。


 その一瞬のことだ。

 ルイスは嫌な予感がして、気づけば立ち上がっていた。


 彼女の側にいこうにも、サラに止められた。


「これは大事なイベントなの。少し待っててください」


 ここでルイスが前へ出れば、場がしらけてしまう。

 わかっているが、シャーロットの様子が心配であった。

 観客たちはシャーロットのわずかな変化に気づかず、騎士の口づけに熱気の歓声と拍手を送りつづけた。


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