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シャーロットの仮説  作者: ariya
白亜の王の血脈

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9.


 アルトス市の一大イベント、騎士祭。


 伝承――アーク=タラス王と騎士たちにちなんだ祭りである。

 避暑休暇としても人気な都市が観光客を楽しませるために制定した期間には様々な催し物が行われる。


 初日は開会式とともに出店が並び、街は一気に賑わいを見せる。

 最終日の10日目には騎士たちによる大規模なパレードが行われ、祭りは最高潮を迎える。

 その間、貴族たちは各々サロンや晩餐会を開き、交流を深める。


 旧領主であるペトロック辺境伯家も例外ではない。


 中でも5日目――騎士役たちの模擬戦と舞踏会が行われる夜は特に人が集まる一大行事であった。


 ルイスたちが出るのは5日目のパーティーである。


 ◆◆◆


 ペトロック辺境伯が管理するジェルタ城――街から外れた海岸沿いに建てられた壮大な城であった。

 白い城壁は美しく、アーク=タラス王が誕生した地に相応しい場所と思えた。


 到着後、ルイスは馬車を降りて中に残る人に手を差し伸べた。


「ようこそおいでくださいました。若奥様から案内するように言われています」


 使用人の男が恭しく挨拶する。

 会場の中、貴族の人びとはちらちらと好奇の眼差しを送る。


 ルイスがエスコートしている令嬢の衣装が珍しく映るのだろう。


 涼やかな白をベースに紫の桔梗があしらわれた柄の着物に、アクセントをいれたかのように濃い紺の帯を身につけた令嬢――シャーロットだった。


 髪は緩やかな低めのハーフアップに整えられている。髪飾りは紫の桔梗を模した小さなものであるが、艶やかな黒の髪はそれだけで気品を示した。


 石畳の上に、ことり、と軽い音が響く。

 ヒールや革靴とは異なる異国風味の下駄の音だった。


「どうした?」


 シャーロットはルイスの方を見た。

 当たり前だが、母国語で話す彼女に少し安心した。中身はシャーロットとわかるのに、異国から来た令嬢ではないかと錯覚してしまう。


「ドレスと違い歩きにくそうですが、大丈夫ですか?」


 ついつい疑問を口にするとシャーロットは笑った。


「歩きにくい上に、きつい」


 帯はかなりきつめにしめている。実は胸元にも布をいくつも重ねて、胸と腰を均一にしているらしい。


「ドレスとは違いますね」

「着物はドレスとは見せ方が違うからな」


 シャーロットが頷くと、黒髪の垂らした部分がうねる。

 彼女の黒髪の魅力を出す為に、ハーフアップで正解だ。ルイスは思わず髪の流れを見つめた。


「でも、歩き方はスムーズですね。あまり着るのはいやそうだったのに」

「一年に1、2度は着るし、幼い頃はヨイチに陽和国の作法を学んでいる。きつくても形を仕上げるのは可能だ」


 全く着ていなかった訳ではないようだ。


「へぇ、家のイベントとかですかね」

「母の命日だ。残した着物が放置されると気の毒に思うだろうと墓前に披露している」


 墓前には、あまり華やかなものではないのを選んでいる。華やかな着物は同日夜の食事に着ている。


 それを聞いてルイスは言葉を飲み込んだ。

 着物を着る日があれば見たいなど気軽には言えない。


「それでルイスはどう感じる?」


 シャーロットは上目遣いに聞いてくる。


「アルマ夫人からはたくさんの感想をもらった。シェトラン警部はムカつく感想を……ルイスの感想はまだ聞いてない」


 試すような視線を向けてくる。

 困ったようにルイスは視線を泳がす。


 色々言いたいことはある。

 だが、うまく言葉に変換できない。

 これでも出版社勤務、自身も書籍を出しているというのに情けない。


 何とか形にしようとしたが、うまくいかなかった。


「……綺麗で、素敵です」


 ありきたりな言葉しか並べられずルイスは顔を赤くした。

 その様子にシャーロットは満足げに笑い、ルイスの手を強く握った。


「今日は任せたぞ。私の騎士様」


 最後の言葉にルイスは胸が締め付けられた。

 同時にしっかりしなければと自身に言い聞かせた。


 廊下を進める度にざわめきが新たに広がる。

 シャーロットが注目されれば、されるだけ好奇な視線以外のものが増える。

 わずかながらの悪意も現れることをルイスは知っている。


 それにどのように立ち回れるかが貴族の嗜みである。

 しかし、シャーロットは長らく貴族社会から疎遠である。

 ルイス自身も同様だ。

 だが、シャーロットの為に一番に動ける男は自分だ。

 兵役に従事する時、頭の端に置き去りにした知識を呼び起こす必要があった。


(まぁ、今日までの1日みっちりヨイチさんとアルマさんに復習させられたけど)


 ヨイチとアルマに叩き込まれた作法が脳裏をよぎる。

 靴も衣装も、すべて整えられていた。

 

——「くれぐれもお嬢様をお願いします」


 あの言葉が、今さら重くのしかかる。


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