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シャーロットの仮説  作者: ariya
白亜の王の血脈

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8.


 ローテーブルの上にサラは招待状を差し出した。


「ペトロック辺境伯家で行われる社交界の招待状です。お二人を是非招待したいのです」


 感謝の印として送られたものであるがシャーロットは少しばかり複雑な表情を浮かべた。

 彼女自身、社交界――貴族社会の交流というのは向かない。

 かくゆうルイス自身も得意ではなかった。


 せっかくの招待状で申し訳ないが、何とか辞退できないかルイスは頭の中を張り巡らせる。


「申し訳ありません」


 口を開いたのはシャーロットであった。


「今回の避暑休暇はあくまで観光目的で、社交界にふさわしいドレスを準備しておりません。今所持しているドレスで参加すれば、ペトロック辺境伯家の格を傷つけるおそれがあります」


 シャーロットはやんわりと断りを入れた。

 貴族令嬢でありながら社交界に呼ばれた時のドレスすら持たずに旅行へきたのかと言われるだろう。

 だが、シャーロットはそれでいいと感じていた。


「ドレスであれば当家お抱えのブティックですぐに準備します。既製品しか用意できませんが、令嬢のお気に召す品を用意いたしますわ」


 ここでサラが引き下がってくれれば完了となるが、そうはいかなかった。

 サラは何とか恩人たちを社交界へと招待したいようだ。


「もちろんパンドディア様の礼服も用意いたします」


 こちらにも声がかかる。

 サラがドレス・礼服は用意すると言ってくれている手前断るのは気が引ける。

 サラのメンツにも関わるだろう。


「あら、いいじゃない。シャーロットお嬢さんは着物で参加したらいいわ」


 側で聞いていたアルマはぽんと両手で叩いて提案した。


「着物ですか。素敵ですわ……この街でも東の品は人気があり、大眞帝国の衣装を売っている店はありますが着物はなかなかないです」


 サラは半ば興奮して是非着物での参加をと乗り出した。


「ですが、サラ様。着物は裾部分が心元なく社交ダンスはできません。私自身、ダンスは苦手ですし」

「社交ダンスは無理に参加されずともよいですわ。もし誘われても当家使用人がやんわりと断れるようにサポートいたします。ダンスをしたくなれば、ドレスにすぐ着替えられるように休憩室とドレスセットの手配もしましょう」


 とてつもなく至れる尽くせりである。


 その時、サラの手の動きが気になり目で追ってしまう。

 右手で何かを持つような、挟んだかのような動作だった。


 人差し指と中指で何かを挟むように持ち、わずかに間を置いてから話し出す。時折、何かを払うように指先を軽く弾く。


 考え事や、話す時の癖かな。


 サラは思い出したように付け加え、説明した。


「それに明後日行われる社交界では、騎士たちの催し物を準備しております」

「騎士……騎士祭の騎士役たち?」


 シャーロットはぴくりと反応した。

 少しばかり目が揺れ、隣のルイスでもわかるような感情の動きが見えた。


 くいついた感触にサラは畳み掛けるように説明を続けた。


「はい、パレードで参加予定の騎士たちが客人たちの前で模擬戦をいたします。学者たちに考証してもらい、当時の雰囲気を出した剣の試合で人気が高いのですわ」


 それにとサラはルイスの方へ視線を移した。


「パンドディア様は、騎士パレードの応援をしてくださると聞いています」

「いえ、俺は模擬戦とかは無理ですよ」


 ルイスは首をぶんぶんと横に振った。

 当時の雰囲気を出した模擬戦など、それなりの練習がいる。お互いの掛け合いが大事で下手すると大怪我をする。


「そこまで無理はいいませんわ」


 サラもその辺りは理解している。


「騎士役の方々も社交界に出るので、交流するのはいかがでしょう」


 協力関係を築くなら顔合わせしてもいいのではないか。

 サラはそう言いたいようだ。


「いいのではないか?」


 先程乗り気ではなかったシャーロットは態度を一変した。


「騎士役の模擬戦などなかなか見る機会はないし、鑑賞させてもらえるならしようではないか」


 興味のある方に傾く。それがシャーロットだった。


「しかし、社交界か……」


 シャーロットは微妙な表情を浮かべた。


「シャーロットさんなら何度か参加したことあるでしょう」


 特に気張る必要はないように思う。


 シャーロットは言葉を濁しながら説明した。


「えーと、医学校の入学と父の研究の手伝いに夢中になっていて……デビュタントはしていない」


 思わず扉付近に控えているヨイチに視線を向ける。

 彼は困ったように頷いた。


 つまり、シャーロットは社交界デビューはしていない。すっぽかした。


(そりゃ、キルデック公女がシャーロットさんを知らないのは仕方ないな)


 旅行前に起きた出来事を思い出した。


「まぁ! ではシャペロンが必要ですね。私がシャペロンを引き受けましょう」

「いえ、サラ様のお手を煩わせるわけには」


 シャーロットは恐縮した。

 サラは20歳前半の女性で、シャーロットより年下だ。さすがに年下にさせるなど悪い。


「本来であれば年長の方にお願いするべきなのでしょうけれど、あなたは私の弟の恩人。是非あなたのデビュタントのお手伝いをさせてください」


 サラにここまで言われては断りづらい。


 それにシャーロットとしては騎士役の模擬戦に興味津々であった。


 残る問題はエスコートをする殿方である。


 シャーロットはちらりとルイスを見つめた。

 上目遣いの紫の瞳を見てルイスは一瞬だけ視線を逸らした。

 シャーロットの表情が一瞬曇り、ルイスの胸はちくりと刺さるものを感じた。


 断る理由はいくらでも浮かぶが、それを口にする気はなかった。


「俺で良ければエスコートさせてください」


 シャーロットの返答は既に決まっていた。

 照れくさそうに笑う彼女を見てルイスは目を細めた。

 自分は思いの外、シャーロットに弱いようである。


 今更ながら実感してしまった。


 

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