7.
「あれ、シャーロットさんは?」
翌朝、朝食の最中一向に姿を現さないシャーロットのことが気になった。
まだ寝ているのだろうか。
「お嬢様は、恥ずかしくてしばらく部屋から出られません」
給仕をしながらヨイチが説明した。
「お嬢様は、酔っていても記憶がございます」
「あー……」
昨夜のことを思い出してルイスは思わず頷いてしまった。
「あれでも恥じらいはあるということだ。なら、もう少し慎重に行動してほしいものだね」
朝の日課のようで新聞を読みながらシェトラン警部はつぶやいた。
「もう、ジャン。そんな意地悪なことを言ってはだめよ。私は好きよ、昨夜のお嬢さん」
アルマはふふと思い出しながら笑った。
既に喋り方も本性も気づいているようである。
それすらも気に入ったようだ。
「失礼します」
呼び鈴が鳴り、ヨイチは一礼して玄関の方へと向かった。
既に簡単な客対応まで任されているとは。
すっかりシェトラン家の人間のように思える。
「いいわね。ヨイチさん。気がきくし、陽和国の料理も作れるし……雇えないかしら」
「無理だな」
アルマの希望にシェトラン警部は一蹴した。
ヨイチ程の人材はなかなかいないだろう。
それに彼はシャーロットの世話を第一に考えており、シャーロットと一緒じゃなければ無理だろう。
「私は差別なんてしないわよ。あなたがどんな女性を嫁にしても大歓迎よ」
その言葉にルイスは動揺した。
アルマとしてはシャーロットを嫁候補にロックオンしていたようだ。
「あの半野良猫は無理だ。あれは、よほどの人間じゃなきゃ飼い慣らせない」
シェトラン警部は拒否の姿勢を崩さない。
「そうね。お嬢さんにはルイスさんがいるものね。残念だわ」
アルマはふぅっとため息をついた。
「いえ、俺はシャーロットさんとはそんなんじゃありません」
以前も恋人と思われた時があり、強く否定したな。
「あらあら」
アルマはふふと意味深に笑った。
「失礼します。アルマ様」
玄関から戻ってきたヨイチは客人の相談をした。
相手の名前を聞いてアルマは軽く頷いた。
「応接間にお通しして……お茶は任せていいかしら」
ヨイチはもちろんと頷いて、食堂を後にした。
「ごめんなさいね。突然のお客様のようで失礼するわ」
アルマが去った後、ルイスは静かに朝食をとった。小さな金属のこすれる音、シェトラン警部が触れる新聞の紙がこすれる音が響く。
しばらくしてから客人はルイスとシャーロットにも用事があったようで、呼ばれることとなる。
◆◆◆
「サラ・ペトロックと申します」
応接間にいた客人は20歳代の若い女性であった。
部屋に入ると少しばかり香水の匂いがする。
(少し強くつけすぎのような気がする)
とはいえ、客人に対してそのようなことは言えない。
シャーロットはカーテシーを披露して挨拶した。
「シャーロット・ベルエイデンと申します」
シャーロットは少し深めに頭を下げる姿勢をとる。
相手がシャーロットの実家より家格が上であることを示していた。
ルイスはそれに合わせる形で礼をとる。
「そんなにかしこまらなくても良いのよ。ベルエイデン伯爵家と当家は歴史を考えれば家格はほぼ同等のはず」
「ご配慮痛み入ります。ペトロック様」
ペトロックという名でルイスはようやく彼女が何者か察した。
ペトロック辺境伯一家の女性である。
「私のことは気軽にサラとお呼びください。昨日、私の弟が世話になり、感謝を伝えたくて参りました」
弟という言葉にルイスは首を傾げた。
「昨日、アルトス私立美術館で喘息発作を起こしていた少年が私の弟――アルバート・ラビエラです」
そこまで聞いて、ようやく納得した。
何故このように早朝に彼女が訪れた理由も。
「一緒にいたメイドが名前を聞き忘れていてどうしたものだと思いましたが、館長が確認してくださって助かりましたわ」
サラはアルマの方に視線を移した。
「いてもたってもいられず早朝に押しかけてごめんなさい。アルマおばさま」
サラとアルマは顔見知りのようだ。
「いいのよ。サラ様とこうしてお茶を飲める機会が持てて嬉しいわ」
「最近色々あってサークルにも顔をだせず」
「いいのよ。結婚と、実家のことで大変だったと思うからここでは気楽にして」
アルマは娘を見る心境でサラに優しく声をかけた。
辺境伯家に嫁いだといっても変わらず接してくれるアルマにサラは表情が和らいだように思った。
「彼女は私の学友の娘さんなの。市内の婦人用サークルも一緒でね、顔馴染みなのよ」
アルマは簡単に彼女のことを紹介した。
「さぁ、2人ともソファに腰をかけて。ああ、シャーロットお嬢さんはまだ朝ごはん食べていなかったから軽食を出してもらいましょう」
アルマは扉近くに控えているヨイチに目配せするとヨイチはこくりと頷いた。
「いや、私は大丈……」
くぅっとお腹が空いてシャーロットはお腹をおさえた。顔を赤くしてルイスの方をみる。同時にルイスは視線を逸らした。
くす。
小さな笑い声。
サラは口を押さえて笑っていた。
「朝から押しかけたのは私ですもの。どうか、気になさらず食事をとってください」
こうしてシャーロットの目の前にはサンドイッチ、スープなどの軽食が並んでいった。




