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シャーロットの仮説  作者: ariya
白亜の王の血脈

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6.


「だから、旦那様には感謝しています。冬子様に真正面からぶつかり、心を開いて……短い間でしたが冬子様は幸せだったと思います」


 どうやら冬子は既に他界しているようだ。


 ヨイチは静かに冬子の話の幕を下ろした。

 心よりそう思っているのだろう。

 ヨイチの表情は穏やかだった。


 だから、彼は故郷に帰らず、ベルエイデン伯爵家に残ってシャーロットの側にいる。


「前々から気になっていたのだが、伯爵はあの半野良猫を最終的にどうしたいのだね」


 シェトラン警部は質問を投げかける。

 閉じかけていた幕に手を掴み声をかけたような言葉であった。


 半野良猫というのはシャーロットのことだろう。

 確かに少し猫っぽい印象がある。


 伯爵令嬢を半野良猫と呼ぶのはどうかとは思うが……。


 ヨイチはうーんと悩みながら答えた。


「特には……お嬢様の望むままにと」

「あの令嬢は落ち着きがない。目を離すと、危険な場所へ入ろうとするから困るのだが……どうにかならないか?」


 シェトラン警部の言いたいことはわかる。

 シャーロットは1人で行くには危ういオークションに入ったり、足場の悪い用水路に無防備に突っ込もうとしたりと後先考えないときがある。


「検死先で崖に落ちた彼女を救出したり、検死体の身内の貴族に言い寄られたり……」

「随分詳しいですね」


 具体的に語るシェトラン警部にルイスは思わず口を開いた。


「ああ、君よりは付き合いが長いからね」


 新米刑事の頃より意見を伺いにベルエイデン伯爵家を出入りしていたこともありシャーロットが女医になる前から知っていた。


「君たちよく考えたまえ。ルイス・パンドディア君がいなかった時は、誰があの半野良猫の面倒をみていた」


 シェトラン警部の説明に、嫌というほどイメージ化が可能である。

 おそらく貴族に言い寄られた時は彼が防波堤をしていたのだろう。

 一緒に経験した事件は両手で数え切れる程ではないだろう。


「それは……ありがとうございました」


 別に親族でも何でもないというのに、ルイスは思わず口にしてしまった。


「そうだ。私を労え。讃えろ」


 この数年、シェトラン警部は何かと苦労してきたのであろう。

 ここぞとふんぞり返っていた。


 ヨイチはワイン瓶を持ち、彼のグラスの方を示した。


「ジャン=クロード様、グラスが空いていますよ」

「よきにはからえ」


 満更でもないようにシェトラン警部はワインを注がせた。


「シャーロットお嬢様は、いずれは家を購入して独り立ちを考えているようです」


 それは初耳である。

 確かに収入は全くないはずはない。法医学者として出ているし、叔父作家の手伝いもしているし。


「やめた方がいい」


 シェトラン警部ははっきりと断言した。


「兄一家とは仲悪くないのだろう。なら、あえて出ていく必要はない。あれは伯爵家のセキュリティー内にいた方がいい」

「いずれはエレン様……オリヴァー様の長男が継ぎますし」


 以前朝食にお呼ばれしたときには不在だったが、エレンというオリヴァーとフローラの子供がいたようだ。寄宿学校に在籍しているため普段はいないらしい。


「エレン君と話す機会があったが、あれが野に放たれる方が危険だという意見は合致している」


 既に顔見知りのようだ。確か、何度か伯爵家を訪問したことがあると言っていたのを思い出した。


「ヨイチさんが側にいるなら大丈夫なのでは?」


 ルイスは首を傾げながら言う。

 ヨイチはかなり訓練された達人のように思える。


「君はわかっていないね」


 シェトラン警部ははぁっとため息をついた。


「未婚の令嬢が使用人がいたとしても1人で生活する危険を考えたまえ」


 それを聞いてルイスははっとした。

 

 確かに危険である。

 

 1人暮らしの未婚女性。シャーロットは27歳であるが、若く見える。時には幼さを感じられ、何度も心がざわついたものだ。

 幼女嗜好の変態貴族が目をつけたら大事である。


「せめて良い物件があればいいと思うが……ちなみに伯爵はあの物件をどう思っている?」


 物件というと家のことだろう。

 確かに周辺の治安なども大事になる。

 場所とセキュリティ面を考えればシャーロットの条件に合致した家はあるかもしれない。


(既にめぼしい家はあるんだ)


 ヨイチは困りながらも主人が言っていたことをそのまま告げる。


「そうですね。過去の経歴を考えると特殊すぎて不安だと言っていました」


(事故物件? ……いや、貴族が住む家でそれはないか)


 ルイスは首を傾げた。


「だが、他にめぼしい物件はないだろう」

「そうですね。フローラ様も贅沢を言ってはいけないと嗜められていました。後は物件次第でしょう。シャーロットお嬢様を受け入れてくれたらいいのですが……」


(物件が……受け入れる? やっぱり事故物件で、幽霊でも出ると言うことかな)


 怪談話はそれほど気にはしていないが、世間では事故物件は人気はある。

 あえて幽霊がでる家を宿泊施設にする事業もあるほどだ。


 2人は顔を見合わせ、小さくため息をついた。


 何故2人がそのような反応をしたか、ルイスはわからない。

 そのまま夜2時まで時間が周り眠気が出てきたため男3人の飲み会はお開きとなった。

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