2.
病院を後にしてルイスたちはランチを食べるためにレストランや喫茶店へ寄った。
だが、どこもかしこも人が溢れかえっており中に入れそうにない。
「予約も受け付けていないのに、中の人たちはどうやって」
店の中で優雅に食事を楽しむ紳士淑女をみてルイスは首を傾げた。
「使用人に並ばせて、席を取ったんだろう」
よくあることだとシャーロットはお腹をさすった。
さすがにあちこち歩いてお腹が空いてきたようだ。
「あれでいい」
シャーロットが指差した先は立ち並んだ屋台であった。
海に面した街によくある魚の揚げ物を売っている。
「シャーロットさんのお口に合うか」
「どちらにせよ店に入れないのだろう。それに、探偵小説の取材だし屋台食を味わうのも悪くない」
確かに、探偵ネロは貴族といっても変わりもので庶民向けの定食屋にも出入りする男であった。
伯爵令嬢に食べさせていいものかと抵抗はあるが、このまま空腹状態で動くのもよくないだろう。
適当に座れる場所を確保してルイスは屋台で二人分の食事を買った。
「はい、シャーロットさん」
魚のフライが入った紙包を手渡す。
紙包を開くと、白身魚のフライと蒸した芋が入っていた。
庶民の軽食であり、貴族が食べるには抵抗があるだろう。
海外放浪していたルイスには抵抗感はないが、ちらりとシャーロットの反応をみる。
彼女はあつあつのあげたての魚のフライを一口頬張った。
さくっとした小気味いい音が聞こえてくる。
口の中でもごもごと食べてごくりと飲み干して彼女は呟いた。
「あら塩を振っただけのものだが、結構美味しいな」
どうやらお気に召したようだ。
安心したルイスも自身のフライを食べた。
「他の屋台では揚げた芋もあって……蒸した芋とどっちがいいか悩みました」
そういうとシャーロットは笑った。
「揚げた芋も気になるが、どちらも揚げ物だと胃がもたれる。蒸した芋を選んでくれてよかったよ」
ルイスの選択は間違いなかったと言っているようにも感じた。
せっかくの観光街で、ランチひとつエスコートできなかった男だと少し落ち込んだものだが、今ので少し気分が軽くなった。
(腹が満たされたものもあるけど)
「ほら」
シャーロットは水筒を差し出した。
彼女の鞄には二つの小さな水筒が入っている。
シャーロットの分とルイスの分――ヨイチが朝のうちに鞄の中に入れてくれたものだ。
シャーロットの右頬をみてルイスは目を細めた。
「ここについていますよ」
そういうとシャーロットは少し恥ずかしそうにハンカチで拭っていた。
◆◆◆
アルトス市立美術館に再び戻ると、責任者と思わしき男が現れた。
「ほんっとうにありがとうございました」
館長を名乗る彼は深く頭を下げてきた。
どうやら先程の喘息の子は有力者の子供だったようだ。
「彼の方はラビエラ家のご子息……ペトロック辺境伯のご親戚です」
随分と大きな家が出てきてルイスは動揺した。
子供の父親も市議会議員という。
「青い血の件と言い、アルバート様まで急死したとなれば、ラビエラ議員はますます厄介……いえ、何でもありません」
余計なことを言ってしまったと館長はごほごほと咳払いして誤魔化した。
しばらくして深くため息をついた。随分と疲れている様子だ。
「もし、よろしければ私がご案内いたします。目的のものはございますか? 今現在、ペトロック辺境伯家の家宝が限定公開されています」
それを聞くと入り口付近の警備員が多い理由がわかった。騎士祭の期間で、来訪客が多いからと思っていたが地元貴族の宝が展示されているとなれば警備に力が入るだろう。
「聖杯がみたい。できれば間近で」
シャーロットは少しばかり強く主張した。
それに館長は一瞬ためらいながらもこくりと頷いた。
「聖杯の近くに立ち寄る場合は警備員同伴になりますがよろしいでしょうか?」
聖杯はこの土地伝承をモチーフに作られた品である。
それでも領地でとれた宝石をふんだんに使われた一級品であり、かなりの宝であろう。
「もちろんだ」
「それではご案内します。途中の展示品についても気になれば言ってください」
館長の案内で美術館の廊下を歩いていく。
ちょうど騎士たちの鎧が飾られているエリアへ入った。先程より観客の数が減っているように思える。
そのためか、一層ランチェト卿の鎧が寂しげにみえた。
(また聞こえる)
ルイスは思わず、鎧の上の方へ視線を向けた。
さっきよりもはっきりと聞こえた。
ひゅーっと風が切る音が。
「ランチェト卿の鎧が気になりますか?」
館長が振り返りルイスに声をかけた。
少しばかり館長の顔色が悪い。
「あ、いえ……上の音が気になって」
それをいうとシャーロットが意地悪げに笑った。
「それはランチェト卿の魂だな。仲間たちは既に天にあがっているが、王への背徳で自身を許せず彷徨っているのだろう」
それらしい怪談をしてきて、ルイスはため息をついた。
「シャーロットさん、俺がそんな話で怖がると思いますか?」
「なんだ、つまらない」
動揺するルイスを期待していたようでシャーロットは唇を尖らせた。
本当に2つ年上とは思えないほど、子供っぽいところがある。
(そこが可愛らしくもあるが)




