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シャーロットの仮説  作者: ariya
白亜の王の血脈

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プロローグ


 あたりは暗い雰囲気に包まれていた。

 病弱だった母がついに他界してしまったのだ。

 医者が来るまでの間、家に置かれていた頓服を何度も使用した。

 ついに母は間に合わず命を落とすこととなった。


 ようやく医者がたどり着くや否や父は詰め寄った。


「まだ助かる! 助けるのだ」


 動揺した父親が医者をけしかけて、医者は遅れながらの採血と点滴をすることにした。

 少しでも父親の気が晴れるようにと。


「っこれは……!」


 採取された血をみて父親は悲鳴をあげた。


 医者が採取した瓶の中の血は青い色をしていた。


 それは窓から照らされた光によって神秘的に映った。


 ◆◆◆


「う、ん」


 早朝に目を覚ますと、ルイスは見知らぬ部屋にいた。

 首を傾げながらルイスは上体を起こした。


「ああ、そうか」


 ようやく思い出した。


 ここはアルトス市――郊外にある一軒家であった。

 周辺の農地を所有し小作人を抱える豪農の家で、館というにふさわしい風貌であった。


 今滞在しているのはシェトラン家。ジャン=クロード・シェトラン警部の実家である。


 アルトス市の騎士祭を見たがったシャーロットの我儘に巻き込まれる形で招待されたのだ。


「おはようございます」


 パジャマから普段着へ着替えた後、食堂の方へ向かうと既に料理の準備がされていた。

 いいにおいのスープが入った鍋、を持ったヨイチに少しばかり動揺する。


 向こう側にシェトラン警部は新聞を開いて軽く挨拶をするのみであった。

 シャーロットの姿はまだない。


「あら、ルイスさん。おはよう。ベッドの寝心地はどうだった?」

「良かったです」


 この館の女主人、アルマ――シェトラン警部の母親がにこやかに挨拶してきた。

 貴族じゃないと聞いていたが、所作が綺麗な女性であった。


「何か手伝うことはありますか?」


 おそるおそる聞いてみる。


「いやだ、お客さんだから気にしなくていいのに。宿泊費用は十分以上もらっているのよ」


 アルマは手を振って断りを入れた。


「でも、ヨイチさんは……」


 配膳途中のヨイチは状況を説明した。


「私はお嬢様の使用人です。お嬢様がお世話になるのであれば、この家のお役に立ちたいと願いました」


 しばらくお世話になるということでヨイチは進んで家事全般の手伝いを引き受けたようだ。

 アルマは「気にしなくても良い」といいつつも突然3人の客の寝食の準備をするのは大変であっただろう。

 運悪く手伝いにきてくれるメイドが腰を痛めてしまい、ヨイチは進んで手伝いをすることとなった。


「ヨイチさんはとっても気が利くのよね。陽和国の人間は勤勉で使用人として雇うのに人気と言われているのがわかるわぁ」


 アルマはすっかりヨイチの手腕に酔いしれていた。


「味噌スープと炊き込みご飯を作ってくれたのよ。楽しみだわ」

「お口に合えば宜しいのですが」


 ヨイチは器にスープをよそってテーブルに並べた。


 昨日、アルマが「お米を手に入れたがうまく炊けない」とぼやいていた為ヨイチは早速料理に使用してくれたのだ。

 味噌もどこで手に入れたのだろうか。


「どうぞ、おかけになってください」


 ヨイチはルイスに椅子の方へと案内した。


「それでは、私はお嬢様の身支度をしてきます」


 頭を下げてヨイチは食堂を立ち去っていく。


「マーサが腰を痛めてどうしようかなと頭を抱えていたのよ。ヨイチさんが来てくれてよかったわ」


 食事をとりながらアルマはにこにこと笑顔であった。


「すみません。突然お邪魔してしまって……」

「あら、いいのよ。ジャンてばふらっと帰ってきたと思えばふらっと首都へ行っちゃっていつも味気ない帰郷だったの。今回は楽しみだったわ」


 ルイスはちらりとシェトラン警部の方をみる。

 確かに、ふらっと帰ってきてふらっと去っていきそうな雰囲気を醸し出している。

 これでも故郷で仕事の疲れをいやしていたのだろうなぁ。


「それでシャーロットお嬢さんは陽和国の着物を持っているかしらね。浮世絵でしか見たことがないから実物をみたくてみたくてたまらなかったのよ」


 アルマはかなりの東大陸に関心があるようだ。ルイスの著作にも目を通していたようで目がらんらんと輝いていた。

 昨日もかなりのテンションであったが、まだ続いているとは思わなかった。


(シャーロットさん、着物は苦手とか言っていたけど一応準備はしているんだっけ)


 シェトラン警部経由でアルマの希望を聞いてシャーロットは仕方ないと母親の着物を用意することとなった。

 しかし、1人では着られない。当然ルイスも、シェトラン警部も着付けなど知らない。

 そこで一緒に来ることとなったのがヨイチであった。


「おはようございます」


 しばらくしてシャーロットは食堂ににこやかに現れた。

 寝起きの癖毛は既にヨイチによって撃退されている。

 いつものシャーロットの姿、だが口調がいつもより丁寧である。

 外面のよい時のシャーロットだとルイスは感じた。


 一応お世話になる身の上でありアルマの前では礼儀正しくするようにと義姉に言われたようだ。


「さて、あの猫被りはいつまでもつやら」


 シェトラン警部は新聞を開いたままぼそっと呟き、ルイスはそれを逃さなかった。


(多分、長くは続かない)


 アルトス市での避暑休暇2日目の始まりである。

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