エピローグ
何とも歯切れの悪い結末だった。
シャーロットはため息をついた。
喫茶店「ユーファ」のブース席にシャーロットとルイス、シェトラン警部が座っていた。
たまたま近くを通りかかったシェトラン警部がいてシャーロットは彼を捕まえてブース席に座らせた。
それでも彼は世間で公開されている以上の情報は口にしようとしない。
「私自身自殺はおかしいとは思っているが、何しろすべてが灰になってしまった」
さすがに今の科学では灰になったものを解明するには限界がある。
検案に参加したのはギルバート・ベルエイデン伯爵、シャーロットの父親である。
父から得た情報を駆使してもシャーロットは仮説を立てられなかった。
「こうなったら証拠保存だ。今の科学では厳しくても100年後には何かわかるかもしれない」
ぶつぶつとシャーロットは呟いた。余程悔しいのだろう。
真実を解明するのは厳しいが、だからと言って何もできないのは癪である。
「まぁ、少し休もうか。もう少し避暑休暇をとるだろう」
シェトラン警部はシャーロットを宥めるように言った。
夏の暑さはまっさかりで日が落ちた夜でも蒸し暑くてかなわない。
ルイスの両親も、避暑休暇の計画をたてていた。
「そういえばシャーロットさんはどこか行きますか? 確か、イヴァノヴィッチ先生が取材で不在になるとか聞きましたし」
「いや……なしになった」
シャーロットは拗ねた様子で呟いた。
「計画を練っていたのだが、開始が遅かった。すでにホテルはとれない状態で落胆している」
「ああ、どこへ行く予定だったのでしょう?」
「アルトス市だ。晩夏に騎士祭が開かれて小説の舞台にできないか思案していた」
ああ、とルイスは思い出した。
確か、古代王の遺跡がいっぱいある地方の街だ。最近は町おこしで古代王に仕えていた騎士たちに扮したパレードがあって賑わっているとか。
アシュラムよりも涼しい気候であり、避暑地としても人気スポットだった。
「お祭りの時期なら宿は厳しいでしょうねぇ」
残念だが来年の楽しみにしておこう。その頃にはチャールズ・イヴァノヴィッチと顔を合わせられたらいいのだが。
「そうか。残念だったな。代わりに写真でもとっておいてやるか」
紅茶を飲みながらシェトラン警部は提案した。
まるで騎士祭に行くかのような口ぶりだ。
「言っていなかったな。避暑休暇中、私は故郷に帰る予定だ。故郷はアルトス市……」
そこまで言うとシャーロットの手が伸びた。
「シェトラン警部! お前の実家に泊めさせてくれ」
ごほっと思わずルイスは吹きこぼしてしまった。明らかにシェトラン警部は嫌そうな表情を浮かべた。
「あいにく私の実家は平民で……とてもじゃないが、伯爵令嬢を宿泊させられるような家じゃない」
「何を言う。平民といっても豪農だろう。家だってそこそこ広いはずだ。私が泊る部屋くらいあるだろう!」
「君はもうちょっと自分の身分を考えたまえ。君は未婚の、伯爵令嬢だ」
最後の部分を特に力強く言う。
確かにシャーロットは伯爵令嬢であり、未婚女性である。
未婚男性の実家に宿泊するなど色々と体裁が怪しまれる。
「いやだー。なら、お前の実家の前で野宿してやる!」
シャーロットはばんばんとテーブルを叩いた。
「それはやめてくれ」
もっと嫌だと言わんばかりにシェトラン警部は吐き出した。
「どうせ私など行き遅れた女だ。今更体裁なんて誰も気にしない」
「いや、気にしてください」
ルイスは何とかシャーロットを言い宥めた。
「そうだな。私は、伯爵令嬢と何とやらと噂されるのは嫌だ」
シェトラン警部は順序たててシャーロットの望みをかなえられない理由を伝えた。
「だが、隠れ蓑になりそうな存在があれば別だ」
彼の視線はルイスの方へ集中する。
「ルイス・パンドディアが一緒であれば宿泊できるように実家に連絡しておいてやろう」
突然こちらに話が降られてルイスは首を振った。
「え、俺。でも俺とシャーロットさんが一緒に宿泊すれば」
「当然、ベルエイデン令嬢のお相手は君と噂になるだろう」
それはそれで問題になるのでは。
ベルエイデン伯爵や、オリヴァーが何というだろうか。
義姉のフローラだって心配……何か大丈夫な気がする。
「あ、いや。イヴァノヴィッチ先生がいるじゃないか。元々取材なら、叔父と一緒なら……」
その言葉を聞いてシャーロットは固まる。目がわずかに泳いだ。
「お、叔父は無理。人見知りの引きこもりだから、シェトラン警部の家には泊まれない」
「え、でも取材で」
「叔父は無理だから私が代理で行くのだ!」
シェトラン警部は呆れながら呟いた。
「叔父と同伴なら年齢的に私が疑われるから、どちらにせよパンドディア君がいて欲しい」
パンとシャーロットは両手を合わせた。
「ルイス、頼む。私はどうしても騎士祭を見に行きたいのだ」
潤んだ紫の瞳でルイスを見つめた。
そんな可愛い顔でおねだりされても困る。
ルイスは色々と頭を巡らせてようやく口にした。
「じゃあ、俺からも条件を出します。ベルエイデン伯爵が許可すれば行きます!」
売り言葉に買い言葉というものだろうか。
この口から出た条件がまさか通るとは思わず、ルイスは避暑休暇の準備をする羽目になるがそれは別の話。
(終わり)
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今回は法医学の教材をみながら、死亡推定時刻の操作を考えました。
難しかったです。
書き終えた後に、冬の方がトリックしやすいのでは?と考えましたが、もう完結間際。今回は殺人素人だったからということで(だいたいのミステリーに出てくる犯人はみんなプロではないやろ)押し切りました。
調べれば冬でも誤差はでるみたいですし。
シャーロットの検死場面で、首のロープ痕を書いてなかったなと思い至りましたが、どう入れたらいいかわからず今回いれていません。ただ、警察もシャーロットもそこは確認しています。
まだ続くという終わり方です。
また、休んだ後にまた書いていきたいです。
その時はまた読んでいただければ幸いです。




