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シャーロットの仮説  作者: ariya
箱の中の死

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13.


 国内には多くの孤児院や、傷病者の為の施設が設けられている。

 女王陛下が慈善活動に意欲的であり、特に将来を担う子供たちの保護に力を注いでいた。

 貴族や富裕層は孤児院を設立して、女王の認定を受ければ国からの支援金が送られた。


 の、はずだが。


 ルース孤児院の有様にルイスは困惑した。

 表向きは綺麗にしているがところどころ埃がかぶっていて、子供たちの服もサイズがあっていなかった。

 急いで取り繕ったような様子だった。


 シャーロットが訪問すると決まり、急いで掃除した後が見受けられた。

 何人かは頬が痩せこけていた。最近入ってきたばかりの子はいないと聞かされていた。


 それに全員長袖だった。

 確かにこの季節であれば日陰は涼しいから長袖で過ごす者もいるだろう。

 だが、布の状態は厚手のものがほとんどだった。


 子供たちの様子をみるうちにルイスは眉間にしわをよせてしまった。


「ルイス、表情を出すな」


 シャーロットは小声で指示を出す。

 院長たちに怪しまれたくない。

 目的を達成するためには孤児院の違和感は気付かないふりをしなければならない。


「さぁ、菓子があるぞ。1人1個ずつだ。私に挨拶できればくれてやろう」


 大仰な言い方であるが、シャーロットが手にした菓子袋をみて子供たちは目をきらきらとさせた。

 一人がシャーロットの前へ現れる。


「よし、カイだな。菓子をあげよう」


 自己紹介を終えたらシャーロットは少年の頭を撫でて菓子袋を渡した。

 それを皮切りにわらわらと子供たちがよってくる。


「こら、シャーロットさ……お嬢様は1人なんだ。ちゃんと並んで」


 ルイスはシャーロットの呼び方を改めて子供たちに列の作り方を教えた。


「どうしよう、なくならない?」


 不安そうに言い合う子供たちをみてルイスは彼らの髪を撫でた。


「大丈夫だ。ちゃんと全員分あるから」


 にかっと笑って、子供たちは頬を赤らめて言う通りに列へ並んだ。

 ルイスは1人1人の顔をみる。


 子供たちはうつむき加減でシャーロットとルイスの様子を伺った。

 人見知りをする子もいるというのはあるが、どの子もこちらの顔色を窺っているように見える。

 本当に大丈夫だろうかときょろきょろとさせていた。


「さて、君の名前は……」

「エミルです」


 エミル、という名前を聞いてシャーロットはほほ笑んだ。


「エミル、よく教えてくれた」


 そう言いながらシャーロットは菓子袋を渡した。ちらっとルイスの方に視線を向ける。ルイスはわかっていると頷いてエミルの動きを見張った。


 全員分の菓子袋を配り終えて、シャーロットはルイスの案内で目的の少年のもとへ行った。

 彼は庭の端の方へより、もそもそと菓子を頬張っていた。あたりを不安げに視線を配りながら。


「エミル」


 シャーロットの呼び声にエミルはびくりと震えた。


「少し話をしないか? 君のお母さんの話だ」

「あっ……いえ、僕には母さんはいません」


 エミルは震える声で呟いた。


「何故そんなことを言う?」

「それは……とにかくいません」


 頑なに否定するエミルにシャーロットは考えを巡らせた。


「ならばオットーという男を知っているか?」


 それを聞きエミルは顔をあげた。今まで暗い表情だった少年のわずかな輝きが見受けられた。

 シャーロットはエミルの目の前まで近づいて、彼の手を握った。

 ぼろぼろのあかぎれだらけの手である。静かにシャーロットは長袖をめくる。


「ダメ」


 エミルは慌てて袖を戻した。随分と震えていた。

 ほんの僅かに見えた彼の腕は紫色に変色したものがみられた。


「オットーは私に言った。子供には汚いものは見せたはならない。子供は大人に守られて笑っていればいいんだよ」


 似ていないが、彼の口調をまねてシャーロットは呟く。

 それを聞いてエミルの瞳は大きく揺れた。みるみるうちにうるんでいくのが感じられた。


「さて、私は大人だ。君を守ることができる。君は私に何か言うことはないか?」


 エミルの口が開く。はじめはかすれて声にならない。

 何度か口を動かしてようやく言葉として聞き取れた。


「たすけて……」


 そこまで聞いてシャーロットはエミルを抱きしめた。


「わかった」


 シャーロットはエミルに言った。ここから抜け出す為の作戦を。

 それを完遂できればいい。

 うまくいけば他の子たちも助けられる。


 そう言われてエミルはこくりと頷いた。


「お嬢様、やめてください!」


 院長は大声でシャーロットを呼び止めた。彼女の肩を掴もうとするが、それをルイスが制する。


「お嬢様に乱暴を働くな」


 大柄の筋肉質の男に睨まれて院長はひぃっと悲鳴をあげた。


「この子は木から落ちてしまった。頭を盛大に打ったのだ。だから、病院へ連れていく」


 シャーロットはエミルを抱きしめて訴えかけた。


「びょ、病院でしたら後で私が連れて行きます。お嬢様のお手を煩わせるなど」

「いいや、こういうのは早く見せた方がいい。もし脳出血を起こしていたら大事だ」


 シャーロットはエミルと一緒に馬車へと乗り込んだ。それを確認してルイスも乗る。


 馬車が急いで動き出して病院の方へと向かった。その後ろ姿をみて院長が何か叫んでいるようだったが聞こえなかった。


「それでどこへ行きますか?」

「アシュラム市立病院だ。今は丁度ありがたいことに警備体制が厳重で、ルース子爵も手が出せない」


 アシュラム市立病院、シャーロットの兄がいる病院だ。

 オリヴァーに診察してもらって保護してもらえばとりあえずエミルの身は安心だろう。

 それはそれとして警備体制が厳重だとはどういうことか。何かイベントがあっただろうか。

 新聞の情報はあらかた頭に入れているが、全く思い至らない。


 未だに胸がばくばくしている様子のエミルの肩をシャーロットは抱き寄せた。


「さる方のお忍び訪問でな……いや、本当に都合がよくて助かったよ。運は私に味方せりというやつだ」


 まぁ、もしお忍びがなければ他のつてを使っていたのだが。

 

 意味深なことをシャーロットが言うが、何のことかさっぱりだった。

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