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シャーロットの仮説  作者: ariya
箱の中の死

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9.


 観念したというように男は穏やかに笑った。


「そうです。私が殺しました」


 それにオットーは目を大きく見開いた。


「どうして、何でカロンさんが……」


 スーザンは震えながらカロンに疑問をぶつけた。


「何故でしょう。嫉妬でしょうねぇ。同じ町出身で私は執事という使われの身、彼は税務官としてのキャリアを築き順風満帆……コンプレックスを刺激されて気づいたら」


 ははとカロンは笑った。

 だが、シャーロットは極めて厳しい表情をして使用人たちを見比べた。


「全員、長袖をめくってもらえないか?」


 突然の指示にカロンは首を傾げた。


 ここにいる使用人も女主人も皆長袖だった。

 夏ほど暑くないこの時期なら、薄手の長袖でも不自然ではない。


「探偵のお嬢さん。私が犯人なので、もう推理ショーは終わりですよ」


 極めて穏やかな言葉であるが、早めに締めくくりたいという焦りがわずかに感じられる。


「あいにく私は探偵ではない。検死を任された法医学者である」

「おや、それではお嬢さんの指示に従う必要はないですよね。法医学者は死体をみる職業、容疑者、犯人をみるのは警察の仕事です」


 カロンの言っていることは理にかなっている。

 シャーロットの権限はあくまで死体をみることだ。他は警察の管轄に委ねられる。

 前回の事件ではずいぶん自由に動いていたが、今回はそうはいかない。


 仕方ないとシャーロットはシェトラン警部に視線を向けた。

 やれやれとシェトラン警部は前へ出る。


「皆様、長袖をめくってください」


 警部に言われて全員がそれに従った。

 全員特に気になる箇所はないと思っていたが、オットーの袖の下をみて全員が首を傾げた。


 ひどい引っ掻き傷であった。猫にしては範囲が大きいように思える。


「オットーさん、これはどこでつけたのだい? 随分新しい傷のようだが」


 シャーロットは目ざとく質問してきた。


「ああ、まるで人に掴まれて引っ掻かれた痕だ。それもかなりの強い力で……」


 シャーロットは一枚の写真と記録を提示した。

 エリック・レインの爪にはびっちりと赤いものが付着していた。


「睡眠薬で眠る人間は苦しむともがく場合が多い。健康体ならなおさら強くもがくだろう。意識がない分容赦なく掴み引っ掻くことがあり、かなり痛かっただろう」


 傷だけ見れば、オットーがもっとも怪しかった。

 だが、今度はカロンの動きがわからない。まるでオットーを庇っていたように思えた。共犯なのか、それとも別の事情があるのか。


「エリック・レインの爪にこびりついた血液型はO型だった。さて、オットーさんの血液型を調べさせてもらえるか?」


 シャーロットの言葉にオットーはぐっと唇をかんだ。

 一瞬だけ忌々しげにシャーロットを睨みつけるが、すぐに表情は変わり悲しげに近くに座っている女主人をみた。

 深呼吸をしてようやく口を開いた。


「ああ、そうだよ。俺だよ……はは、馬鹿なのに死亡推定時間をいじるなんてするべきじゃなかったな」


 犯人の自白に周りは固唾を飲んでいた。

 リーザは青ざめて彼を見つめる。

 一番動揺しているのはスーザンだった。さっきはカロン、今度はオットーだったとかわけがわからない。


「オットーさん、どうして? あなたは旦那様に感謝していたじゃないですか? 母親の入院の手配をしてくれた、感謝していると」


 スーザンの疑問にオットーはげらげらと豪快に笑った。


「ははっ! 感謝していたさ。奴の本意を知ってから」


 オットーは内に抱えていたものをようやく吐き出した。


「あいつはな、俺のことをずっと嫌っていたんだよ。同じ炭鉱町……」


 彼は忌々しげに語り始めた。


 ――あいつは炭鉱夫の家で生まれた。

 大人も子供も関係なく労働してそれでも何とか時間をみつくろって勉強して、それが両親には全く理解されていなかった。

 だが、俺は炭鉱夫たちの飯を作る食堂に生まれて、まぁ生活は大変だが母親と仲良く過ごして友達もそれなりにいる。

 奴は俺を不幸のどん底に落とそうとずっと考えていたんだよ。

 その好機がおふくろの病気だ。奴はカロンを使って俺を料理人に雇い、その縁でおふくろを病院入院させた。感謝していたよ。おふくろはずっと癌の痛みに苦しんでいたから。

 それからは俺は奴の奴隷だ。

 腹が立つときは俺に物を投げつけ暴力暴言をくらわせて、それですっきりする日々さ。

 俺はおふくろのことで恩を感じている。給料以上に入院費用をたてかえてくれていたから何もいえない。

 逆らえば労働階級の俺なんかが一生返せない借金だ。――


 長く語る中、自分のこと、エリックの本性を言い終えて、オットーは疲れた表情を浮かべた。

 それは今までの生活に対する疲労感が伺えた。


「だが、我慢は限界にいたった。昨日がその決行日だったんだ。小説を真似てみたが……うまくいかないもんだな」


 そうして彼は警察が手錠をもってきたのを確認して両手を差し出した。

 冷たい金属の音が響き、リーザは立ち上がった。


「警官さん、私を逮捕してください! 私は共犯者です」


 リーザは警官にしがみつき叫んだ。それにオットーは怒った。


「やめろ」

「だって、元々は私の計画よ。あなたが代わりにしただけ……だから逮捕されるべきは私なの!」


 思いもしないリーザの自供に周りはどうしたものだと混乱した。


 これは一体どういうことなのか。


 ルイスは理解が追いつかなかった。

 シャーロットの方をみると彼女は特に驚いた様子はなく2人の様子をじっと観察していた。



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