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シャーロットの仮説  作者: ariya
箱の中の死

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6.


 下の階の家庭は、元公務員の年金暮らしの高齢夫妻だった。


「ええ、夜にレインさんの元へ尋ねたわ」


 品の良い老齢の女性、トラン夫人が思い出しながら語ってくれた。


「真夜中に上から物音がしたのよ。それも何度も。最近、強盗の話とかあるじゃない。何かあったんじゃないかと主人と一緒に上へ行ったわ」


 玄関奥のソファに腰掛けた男性がこくこくと頷いていた。


「レインさんたら扉越しで怒鳴ってきたの」


 ――今何時だと思っているんだ!


 玄関ベルを何度か鳴らした時だった。


「心配したのにひどいと思ったけど、あんなに怒る時のレインさんてちょっと、ねえ?」


 ちらと夫人は奥にいる男性に視線を向けた。


「あいつは昔から気に食わないことがあればすぐに物にあたるんだ。紳士ぶっているが、口が悪い。どんなに上品ぶっても元は炭鉱町出身だと隠しきれていない。ああいう時は近づくもんじゃない」


 近所付き合いはそれなりに長いようで外面の良い男の一面に気づいているようだ。


 エリック・レインは炭鉱夫の家に生まれ、特待生として大学へ進み税務官になった苦労人だという。

子供の頃から荷物運びをしていたせいで、手はいつも荒れていたらしい。


 エリックの前の妻のことも知っていたようだ。

 


「ちなみにそれは何時くらいです?」

「0時すぎね」


 夫人の証言から、これならエリック・レインは0時にはまだ生きていたことになる。

 死亡推定時刻と矛盾は感じられない。


「リーザちゃんと一緒になったから変わるかと思ったけど人間は変わらないものね」

「ちょっとは見直したが、奴は奴だったんだよ」


 男性はぶっきらぼうに付け加える。


「えーと、リーザさんと一緒になったというのは」


 ルイスは首を傾げていると女性はくすくすと笑った。


「それが聞いてよ。とてもロマンチックな話なのよ」


 話が長くならないか心配だが、シャーロットは気にせず女性の話に耳を傾けた。


「リーザちゃんはね、前の夫から逃げてきたのよ。それが酷い暴力男! リーザちゃんはあざだらけでしばらくは長袖で過ごしていたわ」


 許せないと女性はリーザの前夫を詰った。


「子供が殺されると感じたリーザちゃんは子供を連れて逃げたの。寒い雪が降る夜に、行くあてはなく路地裏で震えているところをレインさんに拾われたのよ。それからはレインさんの協力で前夫とは離婚、親権も奪われずにすんだの。これを聞いた時は、私も主人も見直したものよ」


 これで親子3人幸せになる流れのようにみえたが、違った。


「子供がレインさんに懐かなくてね。レインさんは怒って孤児院に預けちゃったの。そこから2人は喧嘩をするようになったわ」


 女性の話はとても興味深かった。


 リーザにとってエリックは恩人だった。


 だが子供が懐かず、孤児院へ送られたことで夫婦仲は悪くなったという。


 エリック・レインが死んだことで家財はリーザに継がれる。

 そして、子供を疎んでいたエリックはいない。

 リーザは子供を迎えにいける。


 この事件が他殺と考えればリーザが一番得をするように思える。


 だが、リーザには死亡推定時刻のアリバイはある。

 なら、執事のカロンか。彼はリーザに優しく気遣っていた。子供を迎えに行く提案をしていたことを思い出す。

 2人はただならぬ関係の共犯、と考えたらストーリーは成り立つ。


(シャーロットさんはどう考えているのかな)


 途中からシャーロットは何も口にしなくなった。

 色々考えている様子だがそれが見えてこない。


 ◆◆◆


「だから俺じゃねぇって!」


 レイン家に戻るとひどい形相でオットーが怒っていた。

 話がなかなか進まずにシェトラン警部はため息をついた。


「何の騒ぎだ?」


 シャーロットは近くの警官に尋ねた。


「先程、検査結果がきました。エリック・レインが飲んでいたハーブ茶から睡眠薬が検出されて、警部がオットー・ロートに質問しました。お茶に睡眠薬を混入したと疑わられてオットー・ロートが怒り出しました」


「検査結果を私にも見せてもらおうか」


 特に仲裁に入る気もないシャーロットは検査結果の紙を求めた。


「オットー、落ち着いてください」


 見かねたカロンが仲裁に入った。

 そしてシェトラン警部の質問の答えをオットーの代わりに答えた。


「近頃の旦那様の悪い習慣です。私もオットーもやめるように言いましたが」


 そう言いながらテーブルにあるものを見つめた。

 テーブルの上には薬瓶が置かれていた。

 ラベルには睡眠薬の名前が書かれてある。

 シャーロットは黙って薬瓶のラベルを見つめた。検査結果と照らし合わせているようだった。


「旦那様は不眠症に苦しんでおられ、寝る前にハーブ茶に睡眠薬を混ぜて飲んでおりました。薬とハーブで変な相乗効果があるかもしれないからやめるように忠告しましたが、聞き入れてもらえず」


 苦々しく呟いた。

 確かにハーブの中には薬草が含まれている。飲み合わせによって睡眠薬、ハーブが悪い反応も起こすことがある。


「処方された病院はわかるかな」

「近くの病院です。名前は……」


 確かどこかに病院医師の名刺があったとカロンは主人の所有物である箪笥の中を漁った。見つけ出した名刺をシェトラン警部に見せた。


「死ぬ前に睡眠薬とはな」


 特におかしいことはない。

 自殺を考える人間の選択肢は睡眠薬の過剰摂取である。


「もしかしたら死への恐怖を和らげたかったのかもしれません。旦那様は臆病なところもありましたから」


 カロンは生前のエリック・レインの性格を思い出した。


 ここでルイスは違和感を覚えた。

 カロンがまるで事件の筋書きを整えているかのようだった。

 先程、彼を疑ってみたからそう見えるだけと思いたいのだが、彼の言葉ひとつが怪しくみえて仕方ない。

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