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シャーロットの仮説  作者: ariya
箱の中の死

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5.


 キッチンでオットーの話を聞いた後はメイドのスーザンの方を尋ねた。

 彼女は落ち着かない様子で、喋っていた方が気が楽なのかぺらぺらと話してくれた。


「私は、勤め始めたのはここ半年であまり大したことは知らないの。昨日は旦那様が夕食を終えたのを確認して食堂の掃除をして退勤したわ。午後8時よ。時計を見たから覚えている」


 警察に何度も言った内容らしくスムーズに話してくれる。楽と言えば楽である。


「帰った後はダンスホールよ。あ、平民の遊び場みたいなものよ。そこでダンスしてお酒を飲んで、0時には帰宅したわ。朝までぐっすり、出勤は6時30分。奥様の朝の身支度と朝食の配膳がはじめの仕事よ」


 しかし、昨日リーザは喧嘩の末家出をしたきり朝はまだ帰宅していなかった。

 そのため朝の仕事は朝食の配膳から始まることとなった。


「旦那様を起こすのは怖いからカロンさんに頼んだの。喧嘩した後はしばらく使用人に当たり散らすから嫌だったの。それがまさかの首吊り自殺だったなんて」


 カロンとオットーと一緒に助けようとしたが無理だった。


「警察が勝手に死体を動かすなと怒っていて頭きちゃったわ。普通は助けるもんでしょ? オットーさんが一括してくれたからスカッとしたわ」


 怒られたことは不服だが、もう気にしていない様子だった。


「あーあ、せっかくの勤め先なのにどうしよう」


 スーザンはため息をついた。


「実は私、前の職場でいじめられて退職したの。地元に帰るところを奥様に拾われて……おかげでしばらくアシュラムの都会生活を楽しめていたのに」


 ちらとスーザンは2人を見つめた。


「どこかいい勤め先はない?」


 ここまで下心がわかりやすいのも珍しい。


「レイン夫人がいるだろう」


 エリック・レインの家財はそのまま妻に継がれるだろう。なら、雇用主がリーザ・レインになる。


「そうね。できれば奥様に仕えたいのだけど」


 スーザンは困ったように続けた。


「奥様は葬儀を終えたら田舎へ療養されるそう。私はまだまだアシュラムで遊びたいの!」


 都会生活を満喫したい若者といった具合で、ルイスは思わず苦笑いした。


 続いて、話を聞きに行ったのは女主人のリーザだった。

 ソファにもたれかかっていた彼女はおもむろに上体を起こした。


「恥ずかしい話ですが、昨夜は夫と喧嘩して、家出して夫とはそれっきりなの」

「家を出た後はどこにいたんだ?」


 シャーロットの質問にリーザは俯いた。


「しばらく街中をふらふらしていたわ。子供に会いに行こうかと思ったけど、あの子は寝ているし……まだ一緒に暮らせないのに会いに行くと辛くなるだけでボランティア仲間の奥様の元へ駆け込んで一晩泊めていただいたわ」


 夫のこと、前夫との子のことで苦しんでいたようでかなり相談に乗ってもらったようだ。

 酒を飲み、ようやく眠れて、朝起きて帰宅した頃に夫の自殺を知った。


「これからどうするかは……夫の件を片付けてから考えるけど子供と田舎へ行こうと考えているわ」


 そこまで言ってから、カロンがやってきた。

 先程オットーが作っていた野菜スープを持ってきている。


「奥様、少しでも召し上がってください」


 リーザは困ったように俯いた。

 こんな状況では食欲がないのも仕方ないだろう。

 カロンは静かに野菜スープをローテーブルに置いた。

 

「今朝は何も食べていないでしょう。オットーが心配していました」


 スープをみてリーザはこくりと頷いた。

 彼女は添えられたスプーンを手に取り、スープを啜る。

 それを見てカロンは柔らかく微笑んだ。


「しばらく葬儀や手続きで忙しくなりますが、エミル様を迎えにいきましょう」


 それを聞いてリーザはぽろりと涙をこぼした。


 一連の会話を見てシャーロットは思い出したようにカロンに声をかけた。


「そうだ。君が朝までどこにいたかまだ聞いていなかった」


 シャーロットの問いにカロンは頷いた。すでにシャーロットに聞かれるのを待ち望んでいたかのように。


 そういえば彼が第一発見者だった。

 この家にいる中で一番エリック・レインと付き合いが長いのも彼であろう。

 これが探偵小説であればまっさきに疑われそうな人物だ。


(いけない。現実と小説は違うんだ)


 ルイスは首を横に振った。どうも小説の読み過ぎである。


「私は退勤後自宅ですごしていましたよ。一人暮らしですので証明する人はいません」


 カロンはあっさりと自分にはアリバイがないと答えた。


 今、警察は自殺以外の他殺を疑っているのはわかるはずだ。

 それを堂々と言えるとは思わなかった。

 カロンはひどく落ち着いた様子だった。

 それがかえって不気味に感じた。

 疑われても問題ないと言わんばかりである。


「そうか。協力、ありがとう」


 シャーロットはあっさりと2人の元を立ち去った。

 他に話はないのかとルイスはシャーロットの後を追いかけた。


「シャーロットさん、次はどこを確認しますか?」


 シャーロットは玄関扉を開けた。外への出入り口はこの玄関扉。他にはキッチンと洗濯場から出入りできる勝手口がある。使用人たちはそこから出入りする。

 他に外へつながる場所としてバルコニーがあるが、そこから出入りは容易ではないだろう。


「警察が言っていたエリック・レインを最後に確認した人の元だ」


 そういえば、周りの話と深部体温から死亡推定時間を出していた。


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