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シャーロットの仮説  作者: ariya
箱の中の死

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1.


 先日靴を卸した店で靴の調整をしてもらった。

 自宅からここまで来るまでの間の歩き心地をそのまま伝えると職人はすぐに対応してくれた。


「どうですかね?」


 気になっていた拇趾、小趾の付け根がだいぶ楽になったように感じた。


「いやぁ。はじめてのお客さんでなかなか調整に来ないから気になっていたのですよ」


 はじめて作る客の靴はどうしてもずれが起きてしまう。だから購入後はしばらく微調整が必要になると言われていたことを思い出してルイスは苦笑いした。


「パンドディア夫人にもよろしく伝えてくれ」


 母の紹介で来た店だから、すぐに話が通り楽だった。


 店を後にして、ルイスは休日をどう過ごすか考えた。

 日は高くなり、先程より暑くなっていた。

 できれば屋内で涼んで過ごしたいものだ。


 市内の店や名所に思いを巡らせながら、ひとまずはランチをしようと足を動かした。

 調整された靴は思った以上に履き心地がよかった。

 これなら早めに調整すべきだった。

 先日の靴擦れも防げただろう。


 よかったことなど、シャーロットが心配してくれたことだが口にすれば怒られそうだ。


 怒っていても怖く感じないシャーロットの顔を思い浮かべて思わず顔を緩ませてしまう。


(お昼は喫茶店「ユーファ」で食べるとしよう。さすがにシャーロットさんはいないだろうなぁ)


 喫茶店へと辿り着くと店の前で起きていることでルイスの頬がこわばった。

 店の前が妙に騒がしい。女の叫び声がした。


「はなせー、行かない。絶対いかないー!」


 何日振りかのシャーロットの声が頭に響いてくる。

 馬車内にいるであろう男に右腕を引っ張られて、後ろの男がシャーロットの肩を掴み馬車へと押し込もうとしていた。


(誘拐!?)


 考えるよりも先に体が動いてしまった。

 シャーロットの後ろにいた男の腕を掴み、相手が何か言う前に締め上げた。急な襲撃に対処できず男がばんばんとルイスの腕を叩く。


「この人に手を出すな」


 ルイスは険しい表情で男たちに声をかけた。

 馬車の中にいる男を見て、ルイスは思考が停止した。


「何だい。君も来るかい?」


 久々に聞いた男の声、ひどく落ち着いた様子で逆に怖い。

 ジャン=クロード・シェトラン。

 アシュラム市警、警部である。


 ということは、今締め上げている男は警官だろうか。

 青い顔をしている男をみて慌ててルイスは解放した。


「え、俺……」


 何と言えばいいかわからない。この状況は理解できずにいた。


「とりあえず公務執行妨害だな」


 シェトラン警部の静かな声にさぁっと血の気が引くのを感じた。

 よく考えたら人の往来が激しい通りで白昼堂々と誘拐するなどおかしなことだ。

 周りをみれば、何があったのだと好奇な眼差しがルイスに集中した。


「とりあえず乗りたまえ」


 シェトラン警部はぽんとルイスの肩を叩いた。


(母様、ごめんなさい。俺は前科つきになりました)


 脳内に浮かぶのは青ざめて倒れる母、呆れた表情の父である。


「ちょっと待て。ルイスは関係ないだろう!」


 シャーロットはシェトラン警部に掴みかかった。


「だが、見たまえ。ここに暴力で崩れた警官がいる。真面目に仕事をしていただけなのに」


 ルイスの足元に先程の男が首を押さえて息を整えていた。


 暴行罪、公務執行妨害。


「何が真面目に仕事をしていただ。関係ない私を検死に巻き込もうとしただけだろう。近所の当番医、監察医がいるだろう!」


 ぷんぷんと怒るシャーロットを尻目にシェトラン警部はルイスに言った。


「とりあえず乗りたまえ。私は手錠を使うのはあまり好まないのでな」


 耳元で囁かれてルイスはふらふらと馬車の中へと吸い込まれていった。


「わかった。私が行けばいいのだろう。私が行くからルイスの逮捕はなしにしろ」


 シャーロットは怒りながらルイスの横にどすんと座り込んだ。


 よろよろとルイスに絞められていた警官も馬車に乗った。全員が乗ったのを確認してシェトラン警部は御者に合図を送る。


 御者の手綱捌きと共に馬車は動き出した。



「あの、警察署についたら手紙を書かせてください」


 思い詰めた表情でルイスは言う。せめて母に手紙を書かなければならない。


「今から行くのは事件現場だ」


 シェトラン警部の応えにルイスは顔をあげる。


「え、事件?」

「言っておくが君を逮捕する気はない。ひとまずここにいる彼に謝罪してくれ。彼が許せば不問だ」


 隣で居づらそうな表情をしている警官を示した。


 ルイスは深々と頭を下げた。


「申し訳ありませんでした」


 誠心誠意謝ると警官は困った表情を浮かべた。


「いえ、いいです。はたから見たら伯爵家令嬢を誘拐しようとしていたように見えたでしょうし」


 シェトラン警部の命令に従っただけの彼はいわゆる巻き込まれである。


「その通りだ。ルイスは悪くないだろう」


 シャーロットはぷんぷん怒りルイスの無罪を主張した。


「別に責めていない。むしろちょうどよく来てくれたなと感心してしまったよ」


「ちょうどいい? 感心?」


 何故か褒めてきたことにルイスは疑問を隠せずにいた。


「このベルエイデン令嬢が大人しく検死協力してくれれば良かったのだが、なかなか聞いてくれなくてね。そこに君が飛び込んできてくれた。結果、令嬢を運ぶことに成功したから良かったよ」


 つまりいいようにシャーロットへの餌にされてしまったようだ。

 隣のシャーロットは不機嫌そうに窓の外を眺めていた。

 

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