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【完結】恋愛トラウマ持ち令嬢は逆境に負けない 〜婚約者を正ヒロインに奪われましたが、隠し攻略対象に愛されながら真エンドで世界を救います〜  作者: 遠 都衣
第三部 ゲームの終焉編

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第97話 【前世編】菅田龍斗⑤



 自分が槙田の家の子供ではなく鷹宮の人間だということがわかった後。

 龍斗は槙田家に残ることより、鷹宮に入るのを選んだ。


 本心を言えば――本当はずっとあの家から出ず、あそこであたたかい幸せな生活を送っていたかった。

 ちえりと、祖母と、時々帰ってくるちえりの父と。

 狭いながらも、できたてのご飯の匂いや、自分を思い遣ってくれる人たちがいる気配のあるあの場所で、ずっと過ごしたかった。

 少なくとも、自分にとって、あそこより安心できて幸せな場所はないから。


 ――だけど。



 ◇◆◇



「――お前が龍斗か」


 鷹宮の家に呼ばれて最初に対面した、自分の祖父にあたる人物。

 総白髪の頭を後ろに撫で付け、すらりとした体をこちらに斜めに向ける、いかにも上流階級の人間といったこの人物こそ、龍斗を今の境遇に追いやった張本人でもあった。


「既に聞いているとは思うが。お前を呼び戻したのは、お前の父の余命がもうないからだ」


 龍斗の父。

 つまり、この祖父の息子にあたる鷹宮家の長男は、突然発症した病によってまもなく生命の終わりを迎えようとしていた。

 祖父が選んだ相手ではない、別の女と父との間に生まれた子供じぶん


 祖父は母を一族に受け入れることを許さず、手切金を渡して父から遠ざけた。

 それが――、龍斗と母親の不幸の始まりだった。


 その後、父は龍斗の存在を知らされることなく、祖父の選んだ相手と結婚した。

 そうして今。彼が生涯を閉じようとする前に、せめて最後に実の息子と合わせてやろうと仏心を出した祖父によって、龍斗は呼ばれたのだ。


「……事情は理解しています。僕は父が息を引き取るまで、出来のいい息子として父に尽くせばいいんですよね」

「……ああ」


 彼らが龍斗を引き取ったのは、善意や家族愛からではなかった。

 祖父の自分の息子への罪滅ぼしのために、龍斗は呼ばれたのだ。


「……ひとつだけ、お願いがあります」

「なんだ」

「言われた通り、僕はこの家の財産や一員として認めてもらうことを求めていません。もともと、そんなもの願っていませんから。ただ……、僕を育ててくれたあの家に対して、借金がなくなるよう取り計らってもらえませんか」


 返済が残っている分の借金と、龍斗を養育するのにかかった金を、礼金として渡す。


「それさえ約束してくれたら。僕はあなたの言うことを聞きますし、この家に恥じない人間になる努力はします」

「…………ふん」


 交換条件。

 このことを頼むためだけに、龍斗はこの家に来ることを決めた。

 血のつながった家族がどんな人間かわからなかったし、金持ちなんて碌な性格の人間ではなさそうだから、もしかしたらうまく行かないかもしれない。

 そんな思いもあった。

 けれど、龍斗の予想に反して、祖父は龍斗の願いをあっさりと聞き入れてくれたのだった。


「いいだろう。その程度のことなら安いものだ」


 祖父のその言葉に、龍斗はこっそりと胸を撫で下ろす。

 こうして龍斗は、槙田家を離れて鷹宮の家に行くこととなった。



 ◇



(――ああ。ちえりに会いたいな……)


 鷹宮の家に来た最初の2年は、父の治療のために海外に行った。

 そのため、ちえりに会いたくても、距離的に見ることさえ叶わず、苦しい日々を過ごした。

 その次の1年、もはや施せる治療も無くなった父は、日本に戻って緩和ケアを受けながら余生を送ることとなった。

 その世話を、龍斗は一手に引き受けさせられた。


 4年目。

 父が亡くなった後、祖父のいいつけで大学に通いながら、家の事業を手伝わされた。

 大学は、最初の2年は父の治療で渡航した海外の学校に通い、3年目からは帰国編入で日本の大学に編入した。

 どうやら龍斗は、祖父から優秀だと認められたらしい。

 祖父の相手と大学に通うだけで精一杯で、ちえりに会う時間も取れないことをもどかしく思いながらも、あと少し、あと少し――大学を卒業しさえすれば、と自分に言い聞かせながら堪えていた。


(――頼むから。俺が迎えに行くまで、誰とも付き合わないで待っていてほしい)


 勝手な願いだと知りつつも、自分が迎えに行けない間にちえりが誰か他の相手を見つけてしまわないかという恐怖に怯えながら毎日を過ごした。

 別れ際、龍斗はちえりに「必ず迎えにくるから。それまで彼氏を作らないで待っててね」と念を押したけれど、ちえりのあの苦笑していた様子だときっと、龍斗の冗談だと思われて終わっているだろう。


 そうして、いろいろな状況が整い、大学も卒業し、ようやくちえりを迎えに行けると思ったその年。

 認知症を患っていたちえりの祖母が亡くなったという話を知ったのだった。

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