第82話 世界樹を伐採したいと思っております
ティエルはレイスとギークに、花継ぎの乙女の最終儀式を行う際に、誤解したまま彼女のサポートに入ってほしくなかった。
だって、このリリーの中にいる彼女は、誰よりも真摯に花継ぎの乙女の責務を果たそうとしているのだ。
その彼女に応えずして――、どうして花籠の騎士などと名乗れるだろうか?
そんなティエルの想いは、どうやら正しくレイスとギークに伝わったようだった。
「…………わかった」
ティエルの言葉に、レイスが静かに答える。
「最終儀式の折には、我々も全力で君をサポートさせてもらおう。ギーク、いいな?」
「……ああ。もちろん」
レイスの言葉に、ギークもようやく思考が現実に追いついてきたようで、落ち着いた様子で頷いてみせる。
もともと、チェリエとしては彼らの助力を得たいがために事実を伝えようと思っていたわけではなかった。
ティエルの言っていた通り、彼らも事件の当事者なのに、彼らだけが事実を知らずにいるのはあんまりだと思う気持ちで伝えたのだったが、結果こうして助力してくれると言ってくれたのは率直にありがたかった。
(原作ゲームとはだいぶ流れが変わってしまっているけれど。これならなんとかなるんじゃないかしら?)
彼らからの好感度が今どれくらいの数値なのかは測れないが、少なくともティエルのおかげで信頼は得られているように思う。
となると。
「……実は。ずっとお伝えしなければと思い胸に秘めていたことがあるのですが」
チェリエはとうとう、あのことを伝える時が来たのだと腹を決めた。
「……わたくしは、次の花継ぎの乙女の最終儀式で。世界樹を伐採したいと思っております」
「………………え?」
――世界樹を伐採する――?
チェリエの言葉に、その場にいた誰もが驚いた様子を見せた。
それは、サリュートも例外ではなく――。
「……伐採って、どういうこと?」
「そのままの意味です。今の世界樹を切り、花魔法を使って枝から苗木に育てて、新しい世界樹に作り替えるのです」
チェリエが話したこの方法は、原作ゲームを攻略していた時にトゥルーエンドで取っていた方法だ。
今の、間違った育ち方をした世界樹をリセットし、新しい世界樹に作り替える方法。
それが、チェリエがずっと考えていた、この世界をクリアする方法だった。
リリーの姿になってからずっと、チェリエがサリュートに言わずにいられればと思っていたこと。
それは、花継ぎの乙女の最終儀式が、人柱になる儀式だということ。
(……このことを伝えたら。サリュート様はわたくしが儀式に出ることを絶対反対すると思うけど……)
それでも、それを言わないことには、どうしてチェリエが世界樹を伐採しようとしているのかが伝わらない。
――信じて、もらえないかもしれない。
それでもチェリエは、他のみんなが信じてくれなくても、確実に隣にいるサリュートだけは間違いなく自分のことを信じてくれるとわかっていたから。
だから、チェリエは、意を決してその事実をこの場にいる4人に伝えた。
「……現在の【花継ぎの乙女】と世界樹の関係は。神託を受けた少女を、世界樹の人柱にするしくみになっています」
チェリエの言葉に、一瞬その場の時間が止まったかのように、しんとした空気が流れた。
「………………はあ? 人柱?」
一番最初に沈黙を破ったのはギークだ。
「……なんだそれ。人柱って……」
「……人柱とは、生贄のことです」
「いや、それはわかってるけどよ……」
チェリエもギークが人柱の意味をわかっていないとは思っていなかったが、それでもその言葉を捕捉するようにあえて『生贄』という言葉を使った。
その言葉を口にした瞬間、隣にいたサリュートに隣り合った手を上から包み込むようにぎゅっと掴まれる。
「……チェリエ。詳しく説明してくれる?」
「……はい」
サリュートから詰められて、チェリエは一つ深呼吸する。
「……リリーさんが失踪した時。わたくしは、妙に思ったので調べてみたのです。歴代の花継ぎの乙女がその後、どのように暮らしているのかを」
実のところ、チェリエは原作ゲームがそうだったからといって、この世界も必ず同じようになっているとは限らないということも想定して調べていたのだ。
現状、この状況自体も、すでに原作ゲームとは異なる流れを見せている部分もある。
だから、全てが原作と同じとは限らないと。
しかし――、調べた結果、出てきたのはどれも、人柱が行われていることが裏付けられるような事実しかなかった。
「花継ぎの乙女は勤めを終えた後、彼女たちの望む人生を教会が用意する約束になっています。ですが――、残された記録は全員、このドルトムントを出たことになっているのです」
花継ぎの乙女が世に現れるのは短ければ数年、長くても10数年ほどのスパンで現れる。
なのになぜ――、彼女たちは、誰一人としてこの国に残っていないのか。
「何か、盟約があって国を出なければならなかったのだとしても。国を出た後の彼女たちの噂が全く聞こえてこないのもおかしな話ですし。それに、『花継ぎの乙女の子孫だ』という存在を全く聞くことがないのも、違和感があるとは思いませんか?」
「確かに……」
チェリエの言葉に、レイスが同意するように俯く。
「ですからわたくしは、リリーさんはその事実を知ったために、責務を放り出して逃亡を計ったのではないかと思うのです」
「……チェリエ。それは違うでしょ」
リリーの逃亡についての推察を述べたチェリエだったが、しかしその言葉を即座に否定したのはサリュートだった。
「確かに、その事実を知って逃亡を計ったのはそうかもしれないけど。だからと言って、それをチェリエにすべて押し付けようとしたのはどう考えたってあいつの悪意だ」
チェリエの言葉を、リリーに対する擁護だと感じたのだろう。サリュートがどこか不服そうな様子でそう告げた。
「……確かに、その点においてはわたくしも否定はしませんが……」
原作のヒロインは、単純に気持ちが昂って逃げ出しただけでことなきを得たが、この世界のリリーはおそらく、人柱になることを知った上でチェリエと入れ替わり、すべてを押しつけようとしたのだ。
人のことをあまり悪く言いたくないチェリエは、あくまでもリリーは人柱の事実を知って逃げた、という点にしか触れなかったが、その点サリュートは容赦がなかった。
「……僕は嫌だ」




