第70話 それはどんな方法なのですか?
「ええ。おっしゃる通り、そのようなアイテムもご用意しております」
「リリーさんにそのアイテムを売ったのも、あなたなのですか?」
「申し訳ありませんお客様。他のお客様のご購入品についてお伝えするのは、守秘義務に反しますから……」
チェリエの問いかけに男はそう言ってやんわりと回答を拒否したが、なんだかそれは、もはやそうだと答えているも同然に聞こえるような響きがあった。
それに、チェリエには半ば確信があった。
リリーに、あの入れ替わりのアイテムを売ったのが、この男なのだと。
よくよく思い返してみると、リリー自身もチェリエを襲った際に言っていたではないか。
『知ってる? チェリエ様。この世界にはね、とっても便利な隠しアイテムがあるの』と――――。
「では質問を変えます。この隠しショップに入ることができるのは、どのような人ですか?」
チェリエのその質問に、男は困ったような笑みを浮かべたまま、ほんの僅かな間、ぴたりと動きを止めた。
そうして、僅かな時間の後、顔の傾きも表情もそのままに「……なるほど。あなたは彼女よりも、だいぶ頭が回るようですね」と、どこか感情の掴みきれない声色で言った。
「答えのわかっている質問に、私が答える必要があるのでしょうか」
「……さきほど、あなたはわたくしに『わたくしの疑問に答える、ただし、答えられる事柄について』と仰いました。さきほどのわたくしの質問が、あなたの答えられない事柄なのでしたら無理にとは言いませんが、そうでないのでしたら、口にしたことは守っていただきたいと思います」
チェリエがきっぱりとそう言い切ると、男は目を見張ったような様子を見せ(サングラスをかけていたためによく見えなかったが)、それから「……なるほど。でしたら私は、あなたにきちんとお答えしなければなりませんね」と悠然と笑顔を作りながら言った。
「おそらく、あなたもお考えの通り。この『隠しショップ』に入ることができるのは、花継ぎの乙女だけです」
「………………」
人の食えない笑みを浮かべたままチェリエにそう答える男に、チェリエは黙って相対する。
よく考えれば、聞くまでもなくわかることなのだ。
なぜならば、花継ぎの石板に触れてなんらかの反応を示すのは、花継ぎの乙女だけなのだから。
それに――、先ほどこの男が告げた、ここで販売しているというアイテムの特徴も、さらに確信を深めるものとなった。
好感度をアップさせるアイテム。パラメーターを向上しやすくするアイテム。
それらはどれも、このゲームの世界において、ヒロインである花継ぎの少女にこそ必要なアイテムだったからだ。
とりあえず、これまで聞いた話の中で、明確に一つの答えは出た。
チェリエの体がこんなことになってしまった入れ替わりのためのアイテムは、リリーがここで手に入れたものだったということ。
となると、チェリエが次に尋ねる質問も、必然的に定まってくる。
「入れ替わりのアイテムを使って入れ替えられた体を元に戻す方法はあるのでしょうか。もしくは、また同じアイテムを使えば入れ替わりは元に戻りますか?」
――そう。
ここで入れ替わりのアイテムを手に入れることができたのなら。
ここで入れ替わりを解消する方法も得られないか。
少なくとも、商品を売った本人なら、なんらかの答えは持っているはずだ。
そう信じてチェリエは尋ねた。
しかし――。
「残念ながら、同じアイテムを使っても入れ替わりを元に戻すことはできませんし、またそれを解消するアイテムもありませんね」
男の答えに、チェリエの心臓が嫌な音を立ててどくんと震えた。
――同じアイテムを使っても入れ替わりを元に戻すことはできないし、またそれを解消するアイテムもない。
「……でも、それ以外でなら、入れ替わりを元に戻す方法がある、ということでしょうか」
男の答えに早合点することなく、チェリエは男に真っ直ぐに問うた。
先ほど、男は『アイテムでは元に戻すことはできない』とは言ったが、それ以外に方法はない、とは言わなかった。
迂遠なやりとりが好きな相手なのだと、そのことに不快な気持ちにならないではなかったが、元来辛抱強い性質なチェリエは、不安や苛立ちを露わにすることなくじっくりと男と向き合うことができた。
それが、男に気に入られたのかどうかはわからない。
しかし、そんなチェリエの様子にどこか上機嫌な様子を見せ始めた男は「……まったく、あの彼女よりも、どうやらあなたの方がよっぽど花継ぎの乙女に向いていたようだ」と言って笑った。
「あなたの言う通り、アイテムでは入れ替わりを元には戻すことはませんが、他の方法でなら元に戻る方法はあります」
「……それは、どんな方法なのですか?」
チェリエの問いに、男はもったいぶるように軽く鼻を鳴らして間を開ける。
しかし、そんな自分にチェリエが急かすことなくじっと待つ構えを見せているのを見ると、感心なのか諦めたのかわからないような空気を放ちながら、チェリエに向かって彼女の求める答えを返した。
「……簡単ですよ。彼女自身が、『元に戻りたい』と願えばいいのです」




