第69話 ようこそ! 隠しショップへ! 2!
まばゆい光が、周囲も何も見えなくなるほどに照らしたと思ったその時。
(――――――――え?)
突然のことにわけもわからず動揺したチェリエは、何があったのかと周囲を振り返った。
しかし、周りを見回すとそこはすでに、先ほどまでチェリエがいた花継ぎの正殿とは違う風景が広がっていた。
「あれ? お客さん?」
周囲を舞っていたはずの精霊たちもいつの間にか消え、チェリエに素っ頓狂な声をかけてきたのは、年齢不詳の中年の男だ。
印象深い深緑のエプロンの下に黒いシャツを着て、なのにその上にはグレーの紳士帽をかぶっているのでなんだかちぐはぐに見える。
見ると、何かの道具屋なのか、年代物のカウンターの後ろにある棚には何だかわからない瓶や小物が並んでいた。
「あ……、あの……」
「ん? あーーーーーー! ああ、ああ!」
チェリエがおずおずと声をかけようとすると、相手の男は突然何かを理解したようにうんうんと頷くとぽんと拳を打ち鳴らした。
そんな相手の様子に、チェリエは思わずびくりと肩をすくませる。
チェリエとしては、花継ぎの正殿にいたはずの自分が突然どこだか知れないところにしかも1人でいることに混乱していたし、そんな中、急に大声を出されては誰だって警戒して身をすくめるのは当然のことだろう。
「あなたですか……。ヒロインの身代わり対象となった、悪役令嬢は」
「え…………、へ…………?」
(あ……、悪役令嬢……?)
そう言われてふと、チェリエは男の背後にある戸棚の嵌めガラスに目をやった。
するとそこに映っていたのは、入れ替えられたリリーの姿ではなく、幼い頃から散々見慣れた自分の顔だった。
(入れ替わりが、元に戻ってる……?)
そう思いながら肩から流れ落ちる自分の髪の毛に目をやると、そこにあったのはリリーの鮮やかな桃色の髪ではなく、光の反射で藍に光る、藍銅石のような輝きを持つ艶やかな髪で。
「……ああ。残念ですが、その姿はあなたの体が元に戻ったと言うわけではありませんよ」
「え?」
カウンターの中、店主のように見える男から告げられた言葉に、チェリエは思わずぱっと顔を上げた。
(……この人、入れ替わりのことを知っている……?)
呆然としながらチェリエがその男を見つめていると、店主のようなその男はサングラスをかけているためにその瞳が描く表情まで見ることはできなかったが、口角をくっと上げるのが目に入った。
「どうして私が入れ替わりのことを知っているのか、驚いていらっしゃるようですね」
「え、ええ……」
人の良さそうな笑みを浮かべながら話しかけてくる男に、チェリエは警戒すべきか否か迷う。
石板に触れた後に突然場所が変わったこと。
そして、リリーの姿をしていたはずの自分が元の姿に戻っている事実。
それだけで、今が特殊な状況に置かれていることがわかる。
「よろしい。あなたの疑問に答えて差し上げましょう。ただし、答えられる事柄についてだけですが」
いまだ動揺が覚めやらぬチェリエの心境を知ってか知らずか、男が胸に手を当てながら悠然とそんなことを言ってくる。
その顔に浮かぶ笑顔からはどうにも底知れないものを感じたが、しかしチェリエからしてみればその言葉が嘘であろうが真だろうが、まずは聞いていないことには始まらない。
「……あの、ここはいったい、どこなのですか?」
「ここは、いわゆる『隠しショップ』と呼ばれる場所です。訪れたお客様のお役に立てるアイテムを、お売りする場所ですね」
(……隠しショップ)
原作のゲーム【花継ぎの乙女】には、隠しショップと呼ばれるようなものは存在しなかった。
乙女ゲームである【花継ぎの乙女】は、あくまでもゲームの選択肢と行動によってパラメーターが変わるもので、それをアイテムで補助するということはなかったからだ。
もちろん、アイテム自体が存在しないわけではないが、それは選択したシナリオ上で得るキーアイテムであって、チェリエがこんな『隠しショップ』と呼ばれる存在をこの世界で知ったのはこれが初めてだった。
「アイテムというのは、どのようなものを取り扱っていらっしゃるのでしょう」
「そうですね。例えば、特定の相手の好感度を上げるためのものですとか……、特定のパラメーターを上がり幅を高めるものですとか……」
「後は、特定の相手と体を入れ替えるアイテムとかも、ですか?」
相手の話の言葉尻に被せるように告げたチェリエの言葉に、男が紡いでいた言葉をぴたりと止めた。
それから、じっ、とチェリエの方を見つめたかと思うと、再びにいっと口端に弧を描いた。
「……ええ。おっしゃるとおり、そのようなアイテムもご用意しております」




