第67話 顔かたちは違っても
「その……、彼女の首につけられているその白い首飾りは、私と一定以上の距離があくと、爆発する仕組みになっています」
「……………………、は?」
ティエルの言葉を耳にしたサリュートは、一瞬、何を言われたかわからないような表情を浮かべた後、そのまま壊れたおもちゃのようにゆっくりと首を巡らせると、チェリエのその首に付けられている白いチョーカーを見た。
――実のところ、チェリエ自身もすっかり忘れていたのだ。
最初に付けられた時の衝撃こそ強かったけれど、その後、自分が花継ぎの乙女として真っ当に務めると決めてから祭祀長の監視から逃げようなどという考えを微塵も抱くことがなかったこともあって、自分に爆弾付きの首輪がかけられていたことがきれいさっぱり頭の中から消えていた。
サリュートの視線を受け、あっ、と思いながら首元の白いチョーカーに触れると、チェリエを見つめていたサリュートの表情はますます険しくなった。
チェリエのその反応で、ティエルの言ったことが嘘ではないのだと理解したサリュートは、「……正気なの? 君たちの教会は」と、軽蔑の色の滲んだ声を出した。
「……殿下とて。もしこれで彼女の中にいるのがマーキュリー嬢ではなくリリー本人であれば、その扱いは妥当だと思われたはずです」
「……………………」
ティエルが控えめに発した反論を、サリュートは否定することができなかった。
(……確かに。今はこの体の中身がチェリエだとわかっているから非人道的なことだと憤りもしたけれど。もしこれが本当にあの女本人だったら、そこまででもしないと逃げ出されると警戒しただろう)
そう思うと、花継ぎ協会の措置はあながち理解できないわけでもない。
だけど――。
もしこれが、チェリエがリリーの体に入ったままの状態で爆発したら?
チェリエはいったいどうなってしまうのだろう。
そう考えると、途端にサリュートはなんとも言えない気持ちになった。
サリュートはもう二度と、誰よりも愛する目の前のこの女性を失いたくなかった。
だから今度こそ、彼女をどんな災いからも守るために、力をつけてきたのだ。
それなのに――。
「……サリュート様?」
苦しげに、ぐっと胸元の洋服を掴んで思いに沈んでいたサリュートに、チェリエが声をかける。
「あの、大丈夫ですか? ご気分がすぐれないようでしたら、一度お休みになられますか?」
それとも、花茶をもう少し召し上がりますか――?
自分を案じてあれこれと世話を焼こうとしてくれるチェリエを見て、サリュートの気持ちは落ち着きを取り戻した。
(……そうだ。今だって、誰よりも一番大変な思いをしているのは彼女なのに)
自分が動揺して、周りが見えなくなってしまってはどうするのか。
自分の大願は、彼女と結ばれることではなく、彼女が幸せであることだ。
そう思い直したサリュートは、「……ありがとう。大丈夫だけど、花茶はもう少しもらえるかな」と気を取り直して微笑んだ。
チェリエが新しく注いでくれた花茶は、ティーウォーマーにかけ続けてくれていたおかげで、まだ温かく柔らかい湯気が立っている。
――顔貌は違っても。
自分の目には、彼女の中に、確かにチェリエが存在すると感じる。
それだけで、まだ自分は救われていると思った。




