第66話 とりあえず、リリーさんの行動を遡ってみませんか?
「あの、とりあえず、リリーさんの行動を遡ってみませんか?」
う〜ん……と行き詰まりを見せていた3人の中で、そんな提案をしたのはチェリエだった。
「少なくとも、花継ぎの乙女であるリリーさんが1人で出歩くことはないと思いますし……」
チェリエの言う通り、花継ぎ教会にとっては最重要人物とも言えるリリーは、どこに行くにも馬車を用意してもらっていたし、花籠の騎士が付き添えない場合でも誰かしら使用人を付き添えて移動するのが常だった。
なので、行動を遡ろうと思えばどうにかして追うことができる。
そうすれば、リリーがどこで誰に会ったかを洗い出すことができるし、その中で怪しい人物もピックアップすることができる、というのがチェリエの考えだった。
「確かに、チェリエの言う通りだね」
チェリエの案に、サリュートもティエルも賛同する。
リリーが口を割らない以上、彼女の行動を追うことが現状最も生産的な選択だからだ。
「とりあえず、現状わかっていることだけでも書き出してみよう」
サリュートがそう言うと、チェリエが温室の片隅の収納に仕舞ってあったメモ紙とペンを持ち出してくる。
それを受け取ったサリュートは、さらさらと美しく整った字で樹花祈念祭を起点に、ティエルやチェリエの話を聞きながらリリーの行動を書き出していった。
X日より約二週間前 リリーが不真面目な態度をあらわにし始める
X日より約一週間前 リリーが逃亡、失踪する
X日 樹花祈年祭。この日に計画が実行に移され、2人の入れ替わりが行われる
「……少なくとも、このXデイ以前には、あのゴ……、彼女は一通りの用意を整えていたことになる」
だから洗い出すとしたらこの日以前の行動だね、とサリュートがX日にシュッと線を引く。
「……わたくしが思うに、すでにこの二週間前の時点で、彼女は計画を立てていたのだと思うのです」
「うん」
「妙だと思っていたんです。あれほどまでに外聞を気にしていた彼女が、どうしてあんなヤケを起こしたような行動をとっていたのか」
最初は、人柱にされるという事実を知ってヤケを起こしたのだと思っていた。
しかし、この入れ替わりが行われた後でチェリエは気づいたのだ。
「リリーさんはきっと、入れ替わりを果たした後、わたくしが身動きを取りにくくするために、あえて自ら評判を落としていたのではないでしょうか」
そう考えると全ての辻褄が合う――。
それは、チェリエがリリーから入れ替わりを行われた直後に気づき、ずっと思っていたことだ。
「……考えれば考えるほど、心底腹が立ってくるな……」
チェリエの話を聞いたサリュートが、普段は温和な表情を浮かべている秀麗な顔を、これ以上もないというほどに歪める。
「ですがしかし、その考えはおそらく正しいでしょう。私も、どうして急にリリーがあれほどに態度を一変させたのか不思議に思っていましたから」
ティエルがそう言って、チェリエの意見を裏付けるように2人を見つめた。
思い起こしてみるとティエルも、確かにあの辺りから、それまで当たり前のように思っていたリリーの行動に疑念を抱くようになった。
どうして自分は、あんなにも非常識な態度をとってきた彼女を、『人柄が可愛らしい』というただそれだけで許してきたのだろう?
そう思うと、過去の自分の行動さえ彼女からなんらかの策略を受けていたのではと、背筋に嫌な震えが走った。
「となると、その辺りの彼女の行動を詳しく調べてみたほうが良さそうだね」
「……そういえば。ちょうど、リリーの態度がおかしくなる前日に、西の森に瘴気の浄化に行っていましたが……」
西の森の瘴気といえば、チェリエもサリュートと共にリリーの後始末に行ったあの森だ。
あの時、リリーがボスの黒豹をきちんと浄化させずに帰ったことで、大変な目に遭いかけたことを思い出す。
「あの時。確か、戻ってきたレイスとギークがリリーを連れていなかったのでどうしたのかと聞いたら、花継ぎの正殿に行った、と言ってましたね」
「花継ぎの正殿……」
ティエルの言葉を、チェリエはおうむ返しにつぶやいた。
(……花継ぎの正殿と言えば。好感度ステータスが確認ができる場所だわ)
原作ゲームの【花継ぎの乙女】のゲームシステムでは、攻略キャラの好感度を確認するには花継ぎの正殿にある石板に手を触れる必要があった。
チェリエはいまさら好感度を確認する必要もないと思っていたし、そもそも他人の好感度をそういったもので確認するのも気が進まないということもあったので、リリーになってからも特に花継ぎの正殿に行って確認しようとしたこともなかったが、よくよく考えたらトゥルーエンドに到達できるか怪しい状況のヒロインが行くには当然の場所だ。
「そこは、確かに調べてみる価値がありそうだね」
考え込むような様子を見せたチェリエを視界の端に入れながら、サリュートはティエルに向き直る。
「じゃあ、僕とチェリエで花継ぎの正殿に調査に行くから、君は別方向で探ってくれる?」
例えチェリエがティエルを信頼していると言っても、もはや自分の手の届かないところで彼女に何か危害が加えられるのを恐れているサリュートは、さも当然のように自分とチェリエが一緒に行動することを告げる。
そうして自分達が花継ぎの正殿を調べている間に、ティエルに失踪中のリリーの動向を探ってもらうのが効率が良いと、悪気なく提案したわけだったのだが。
「それは……」
サリュートの言葉に、ティエルがどこか気まずそうな顔で言い淀むのを見て、サリュートは眉間に皺を寄せた。
「……何? 何かまずいことでもあるの」
「……あります」
この時。
サリュートの胸を占めていたのは『この男ももしや、チェリエに懸想し始めているのではないか?』という、警戒心からくるものだった。
しかし、言い淀んだティエルが数秒ののち、チェリエの首元にちらりと目をやってから発したのは、サリュートの想像を超えた事実だった。
「その……、彼女の首につけられているその白い首飾りは、私と一定以上の距離があくと、爆発する仕組みになっています」
「…………は?」




