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【完結】恋愛トラウマ持ち令嬢は逆境に負けない 〜婚約者を正ヒロインに奪われましたが、隠し攻略対象に愛されながら真エンドで世界を救います〜  作者: 遠 都衣
第二部 花継ぎの乙女編

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第63話 君からしたら、彼は信頼して良い人物だって思ったってことだよね?



「……本当に、送って行かなくていいの?」

「はい。帰りはティエルに送ってもらいますから」


 結局、サリュートは今日のチェリエの孤児院での勤めが終わるまで一緒にいてくれた。


 終わった後も『自分がチェリエを部屋まで送る』と言い張るサリュートだったが、チェリエがリリーになっている以上、あまり公の場で二人が仲睦まじくいるのを見られるのは良くないと説得し、なんとか諦めてもらった。


 ちなみにサリュートから聞いた話によると、リリーがチェリエの体で好き勝手しないよう、彼が責任持ってチェリエの体を預かってくれているらしい。

 リリーがチェリエの姿で『サリュートがダメなら他に適当な男性を捕まえて庇護してもらおう』と画策していたという話を聞いて、心の底からぞっとした。


(あ……、危なかった……)


 下手をすると、どうにかして自分の体に戻れたところで、よく知りもしない男性と結婚させられることになっていたかもしれない。


 そう思うと、サリュートが早々にチェリエの体を乗っ取られていることに気づいてくれて、手を打ってくれて良かったと心から感謝した。


「とりあえず、また明日もここに顔を出すよ。君が元通りになる方法の糸口を見つけたいし」


 今日は、チェリエと再会できた喜びだけでほぼ終わってしまったが、チェリエがリリーに襲われた時の話も詳しく聞きたい。

 そこに、元に戻る可能性が潜んでいるかもしれないからとサリュートが言う。


 なので、明日また改めてと告げるサリュートを、チェリエは特に断る理由もなく素直に受け入れた。


(本当に……、こんなに早く真相に気づいてくれるなんて……)


 帰りの馬車に揺られながら、チェリエはサリュートに思いを馳せ、胸元で握った拳にぎゅっと力を入れる。


 温室でサリュートに抱きしめられた力強さを思い出し、またもよからぬ思いに囚われそうになったチェリエは、ふるふると一人、首を左右に振ったのだった。




 ◇◆◇




 翌日。

 チェリエはティエルと共に孤児院に行くと、子供たちの顔を見るよりもまず先に温室に赴き、水やりをしながら精霊たちを具現化させた。

 具現化、と言ってもはっきりと姿が見えるわけではない。


 ただ、チェリエが温室の草花たちに力を分け与えようと放つと、周囲の精霊たちもそれを喜ぶかのように色とりどりの光を放ち出すのだ。


 彼らが人語を発することはない。

 チェリエにかまって欲しそうにまとわりつくもの。

 きままにふらふらするもの。

 自分の好きな花の周りをくるくるとまわるもの。


 ひとことに『精霊』と言っても、個性があるのだなとチェリエが微笑ましくみていると、『カタン』と温室の入り口で音がして、誰かが訪れたのだとわかった。


 ――サリュートだ。


 チェリエがその音に気づいてふりむくと、午前早くから孤児院に訪れたサリュートは、初めて見る幻想的な光景に呆然としていた。


 温室の花たちの中で水やりをする少女と、その周りを嬉しそうに飛び交う色とりどりの輝き――精霊たち。


 どう見ても、それは力に溢れた花継ぎの乙女そのもの。


 そうして何より悲しいのは――。


「……サリュート様」


 と言ってこちらを振り返った少女のふわりとした微笑みが、たとえ外見が違っても、自分が大嫌いなあの忌々しい人物リリーではなく、自分の敬愛する彼女チェリエのものにしか見えないことだ。


「おはようございます、サリュート様」

「……おはよう」


 サリュートが温室内を進むと、精霊たちも好奇心たっぷりな様子でサリュートにまとわりつく。


「これは……?」

「あの、精霊たちです」


 不思議そうに見つめるサリュートにチェリエが説明する。

 リリーの体に入るようになってから精霊たちと交流できるようになったのだが、そのことを説明するのは省いた。

 

 ここにはティエルがいたし、どこまで話して良いかわからなかったからだ。


「…………、すごいね…………」


 そう言って、それ以上の言葉を失うサリュートに微笑みかけると、チェリエは「あと少しで終わるので、もう少しだけ待っててください」と告げて温室の水やりに戻った。


 それから、数刻後。

 朝の仕事を終えたチェリエは、場所はそのままに温室で、サリュートと向き合っていた。

 チェリエの隣に、『それで、あなたは何の用で今日も来ているのですか?』とでも言いたげな、ティエルを横に。


「…………あのさ。君が護衛役なのはわかったけど、少しは気を利かせて二人きりにさせてくれないかな?」

「申し訳ありませんが、彼女のそばを離れるなと厳しく申し付けられているので」


 二人の間でバチバチと見えない火花が散る。

 サリュートの言葉にしれっと応じるティエルだったが、そんなティエルにサリュートは珍しく顔を引きらせていたかと思うと、「……はあ」とため息を吐いて「……まあいいか」と続けた。


(…………まあいい?)


 チェリエがサリュートが何に対して『まあいい』と思ったのかを理解できずにいると、こちらに向き直ったサリュートが、「君からしたら、彼は信頼して良い人物だって思ったってことだよね?」と尋ねてきた。


 そんなサリュートにチェリエは、迷うことなく「はい」と答える。


 チェリエのその様子を見たサリュートは、再び何とも言えない苦虫を噛み潰したような表情になり、「……結局、どこまでいっても人たらしなんだよな……」とため息をついた後。


「わかった。じゃあこの先の相談話は、彼も交えて3人でしよう」


 と提案してきた。

 こうして、あらかじめ今日の孤児院での勤めを免除してもらえるよう裏で手を回してきたサリュートと、3人で温室での話し合いの場が設けられることとなったのだった。



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