第57話 でしたら、よければ私が食事を作りますよ
「――孤児院に、ですか?」
チェリエがリリーのクラスでクラスメイトから非難を受けた騒動のその夜。
もう学園にも行けないし……、と、これから先どうしようかと自室で悩んでいたチェリエを呼び出したのは、他でもない祭祀長だった。
当たり前のようにティエルも一緒である。
「そうです。今日起こった話は既に私の耳にも入っています。この状況で再びあなたが学園に通うことは難しいでしょう。ですから今後は、あなたのその能力を我々が管理している孤児院で生かしてもらうのが良いかと思うのです」
曰く――、祭祀長が言うにはこういうことだった。
花継ぎ教会では、敷地のはずれに孤児院を立てて、身寄りのない子供たちの養育・育成を事業の一環としている。
そこには、将来教会付きの花師になれる潜在能力を持つ子供が多くいるため、その子供たちの面倒を見つつ、彼らを教える役割を果たしてほしいのだそうだ。
チェリエの隣でその話を聞いていたティエルは『これは単に厄介払いなのでは?』と見えないように眉を顰めた。
リリーの花継ぎの乙女としての能力の低さは祭祀長も知っていることだ。
先日、彼女の成長ぶりを目の当たりにしたティエルは今はそう思ってはいないが、普通に考えて、そんな能力の低いリリーに『彼らを教えろ』などと言わないだろう。
おおよそ、今までのリリーの態度だと、単に『子供の面倒を見てくれ』と言っただけでは納得しないから、程のいい理由をつけたのでは――?
と言うのがティエルの見立てだった。
そして実際、それは全くその通りなのだが。
しかし――。
「わかりました。そのお役目、ぜひ受けさせていただきます」
と、チェリエは祭祀長からの依頼を快諾した。
祭祀長もまさか、あの花継ぎの乙女がこんなにすんなりと快諾してくれると思っていなかったために内心で驚きを禁じ得なかったが、しかしそんな胸の内をだすことなく、「ありがとうリリー。あなたの献身に感謝します」と話を収めた。
「よいことです、リリー。あなたが善行を尽くすことで、きっとあなたのかつての過ちも許されていくことでしょう。あなたが一つの過ちも犯すことなく献身してくれることを、私は心から望みます」
祭祀長が微笑みながらチェリエに告げてくるその言外に、『外部には出すけれども、善い行いをしないで少しでも不穏な動きをしたら、即首輪が吹き飛びますよ』ということを仄めかしていることをちゃんと理解したチェリエは、相手と同じく腹の中を見せぬよう笑顔で相対した。
(……リリーさんが逃亡したせいで一時は大きくエピソードが乱れてしまったけれど。この展開は原作通りだわ)
原作では、樹花祈念祭が終わって後は最後の人柱の儀式を待つのみとなった花継ぎの乙女は、先ほどチェリエが祭祀長から言われたように、後進の育成のために世話役として孤児院に通わされることとなる。
そこで務めを終えて、最後の儀式に挑む――というのが、正規の展開なのだ。
故に、チェリエは祭祀長からの頼みに、特になんのわだかまりもなく「はい」と答えたのだった。
◇
そうして早速その翌日、チェリエはティエルと共に孤児院へと顔を出した。
「みなさん、初めまして。リリーと申します。これからしばらく、みなさんと一緒に過ごす日が増えるかと思いますので、どうかよろしくお願いしますね」
集められた子供たちの前で、そう言ってチェリエがリリーの名を名乗りながら挨拶をする。
「え!? 花継ぎ様!? 本当に!?」
「花継ぎ様、魔法でお花を咲かせることができるんでしょ? 見せてー!」
「こら! みんないい子にしなさい!」
チェリエが挨拶をすると、5歳から12歳くらいの子供たちがきらきらと目を輝かせながらチェリエの周りに集まってくる。
「花継ぎ様、すみません。みんな普段は大人しくていい子たちなのですが……」
「構いませんよ。私も早くみんなと仲良くなりたいですから」
孤児院の職員がチェリエに申し訳なさそうに謝ってくるが、チェリエはむしろそんな子供たちを微笑ましく思って見ていた。
昔から――、なんだったら、ちえりだったころから、なぜか老人と子供には妙に好かれるし懐かれるのだ。
同世代には全くと言っていいほど懐かれないのに。
子供たちにせがまれるままに本を読み、花の世話をし、花の世話をしながら花魔法についての知識も交えながら戯れていると、あっという間に昼食の時間になる。
「……あの、花継ぎ様に召し上がっていただくには、大変に質素な食事で申し訳ないのですが……」
そう言って昼食に出されたのは、固いパンとふかしただけの芋。
「厨房担当の者があいにく、怪我で休んでおりまして……」
「まあ」
申し訳なさそうにそう告げる職員に、チェリエはぱちぱちと目を瞬かせる。
「でしたら、よければ私が食事を作りますよ」
「えっ……!」
チェリエの申し出に職員が驚き、恐縮しながら両手を体の前でぶるぶると振る。
「そんな……! 申し訳ありません! 花継ぎ様にそんなこと……!」
「構いませんよ。もともと料理は好きですし」
やる、やらないの問答を職員としばらく続けた後、結局子供たちの「えー!! 花継ぎ様のご飯!? 食べたい!」という声にも押されて、チェリエが食事の支度を賄うこととなった。
とりあえず、お腹が空いている子供たちを待たせないために、ふかし芋に添えるマヨネーズと茹でキャベツを作り、余っているクズ野菜とベーコンで出汁をとったスープを作ることにした。
「手伝います」
「え? いえ……」
しれっと隣に立ちそう告げるティエルを見ると、いつの間にかエプロンを身につけすっかり準備万端の体勢になっている。
そこまでされてしまうと、もはや断ることさえ申し訳なく。
「……じゃあ、卵黄を混ぜるのを手伝ってもらえますか?」
とマヨネーズを作るのをお願いした。
数分後。
チェリエの作った料理を、子供たちは美味しそうにもぐもぐと食べてくれた。
固かったパンもスープに浸すことで味が染みて柔らかくなり、とても美味しく食べてもらえているようだった。
その日から、孤児院の料理担当も、チェリエが任されることとなった。




