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プライベートカウンセラー  作者: Ohtori
第10章「外資系コンサルタント・橘直人(35歳)」
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第4話「バランスの再定義」

東京のホテルラウンジ。柔らかな照明が空間を包み、落ち着いたジャズが静かに流れている。窓の向こうには、都会の夜景が広がっていた。


香坂美月は、テーブルの向こう側に座る橘直人の表情を観察していた。以前のような疲れ切った顔はなく、どこか落ち着いた雰囲気を漂わせている。


「こんにちは、橘さん。今日はどんな変化があったか、聞かせていただけますか?」


美月が微笑みながら問いかけると、直人はゆっくりとコーヒーカップを置き、小さく息を吐いた。


「……実は、ちょっと驚いているんです。」


「驚いている?」


「はい。先週、仕事のスケジュールを少し見直してみました。『効率化』を意識して業務の優先順位を整理し、無駄な会議を減らしてみたんです。」


美月は興味深そうに頷いた。


「その結果、どうなりましたか?」


「思った以上に、時間が確保できました。」


直人は少し苦笑しながら続けた。


「今まで、長時間労働が当たり前だと思っていました。でも、いざ業務を見直してみると、やらなくてもいいことが意外と多かったんです。」


「具体的には?」


「例えば、毎朝のチームミーティング。以前は1時間の定例会議をしていたんですが、本当に必要なのか疑問に思って。思い切って30分に短縮し、内容もシンプルにしたんです。」


「それは大きな変化ですね。」


「ええ。そのおかげで、朝の時間が少し余裕を持てるようになりました。それに、意識的に集中する時間を作ることで、仕事の効率が上がった気がします。」


美月はメモを取りながら、静かに言葉を続けた。


「つまり、これまでは『長時間労働=成果』だと考えていたけれど、実際には『集中して短時間で終わらせる』ことのほうが効果的だったと?」


「はい。これまでは、『仕事を長くやっていること自体が価値』だと思っていたんですが、それが間違いだったと気づきました。」


直人は少し笑いながら続けた。


「実は、週に1回、定時で退社する日を作ってみたんです。」


「すごいですね。」


「いや、最初は不安でしたよ。『周りからどう思われるか』とか、『クライアント対応が間に合わなくなるんじゃないか』とか。でも、やってみたら意外と何とかなりました。」


美月は頷きながら、ペンを回した。


「橘さんの中で、何か心境の変化はありましたか?」


「そうですね……。自分が思っていた以上に、時間の使い方は自分でコントロールできるんだと気づきました。」


「それは、大きな気づきですね。」


「ええ。今までは、仕事のスケジュールに振り回されている感覚がありました。でも、本当は自分で選択できることが多い。そう思えるようになったら、仕事に対するストレスが少し減った気がします。」


美月は静かに頷いた。


「では、プライベートの時間はどうですか?」


「フットサルは続けています。週に1回ですが、すごくいい気分転換になっています。」


「素晴らしいですね。何か新しい発見はありましたか?」


直人は少し考えた後、微笑んだ。


「フットサルをしているときは、仕事のことを全く考えないんですよ。それが、すごく新鮮で。」


「それは、仕事とプライベートの切り替えがしっかりできるようになってきた証拠ですね。」


「そうかもしれません。前は、常に仕事のことを考えていたので、リラックスする時間がなかったんです。でも、スポーツをすることで、仕事から意識的に離れる時間が作れるようになった気がします。」


「それは大きな進歩ですね。」


美月はノートを閉じ、静かに続けた。


「橘さんは、仕事とプライベートのバランスを取ることについて、どのように考えていますか?」


直人は少し考え込んだ後、ゆっくりと答えた。


「……以前は、『プライベートの充実=仕事の犠牲』だと思っていました。でも、今は、『プライベートを充実させることで、仕事のパフォーマンスも上がる』と考えるようになりました。」


「とても良い考え方ですね。」


美月は微笑みながら、カップを置いた。


「では、次のステップとして、『この働き方を続けていきたいのか』という視点で、今後のキャリアについても考えていきましょう。」


直人は少し驚いたような表情を見せた。


「キャリア……?」


「はい。今、仕事とプライベートのバランスを取り始めている状態ですが、5年後、10年後もこの働き方でいたいのか。それとも、さらに違うライフスタイルを目指したいのか。」


直人は少し考え込みながら、窓の外の夜景を見つめた。


「……正直、その視点では考えたことがありませんでした。でも、たしかに大事なことですね。」


「そうですね。今後、どのような働き方を選ぶかは、橘さん次第です。でも、その選択肢を知ることは、より充実した人生を送るために必要なことです。」


直人はゆっくりと頷いた。


「分かりました。次回までに、これからの働き方について、少し考えてみます。」


「楽しみにしています。」


美月は静かにカップを持ち上げ、コーヒーを一口飲んだ。


直人は、以前のような疲れ切った表情ではなく、どこか晴れやかな表情を浮かべていた。


こうして、直人は「仕事とプライベートのバランス」を取りながら、「自分の理想のキャリア」について考え始めることになった。

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