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プライベートカウンセラー  作者: Ohtori
第10章「外資系コンサルタント・橘直人(35歳)」
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第2話「失われた時間を取り戻す」

都心のホテルラウンジ。控えめな照明が落ち着いた空間を作り出し、コーヒーの香りが漂う中、香坂美月は目の前の橘直人の表情を観察していた。


前回のカウンセリングで、美月は直人に「仕事以外でやりたいこと」をリストアップする宿題を出していた。長年仕事中心の生活を送ってきた直人にとって、それは簡単な課題ではなかったはずだ。


「こんにちは、橘さん。前回のカウンセリングでお話しした『仕事以外でやりたいこと』のリスト、考えてきていただけましたか?」


美月が問いかけると、直人は少し苦笑しながらカバンからメモ帳を取り出した。


「はい。考えてはみたんですが……正直、思ったより難しかったです。」


「難しかった?」


「ええ。改めて『やりたいこと』を考えてみると、今までどれだけ仕事だけに集中してきたのかを実感しました。趣味らしい趣味もなくて、休みの日も何をしていいのか分からない。ちょっとショックでしたね。」


美月は静かに頷いた。


「それでも、何か思いついたことはありますか?」


直人はメモを見ながら、ゆっくりと話し始めた。


「一応、いくつか挙げてみました。『旅行』『スポーツ』『読書』『料理』……あとは『語学』ですね。どれも興味はあるんですが、今まで時間がないことを理由に後回しにしてきました。」


「時間がない、ですか。」


美月は微笑みながら、ノートにメモを取った。


「橘さん、実際に時間がないのでしょうか? それとも、時間を作る意識がなかったのでしょうか?」


直人は一瞬、返答に詰まった。


「……確かに、時間を作ろうとしたことはなかったかもしれません。」


「そうですね。忙しい仕事に慣れすぎて、『自由な時間を確保する』という発想が抜けてしまっていたのかもしれません。」


直人は軽く頷いた。


「そう言われると、そんな気がします。スケジュールが埋まっていると、それだけで充実しているように錯覚していたのかもしれません。でも実際は、ただ目の前の業務をこなしているだけで、自分の時間を楽しんでいるわけではなかった。」


「では、これからは『自分のための時間を意識的に作る』というのをテーマにしていきましょう。」


「具体的には、どうすればいいんでしょう?」


「まずは、小さなことから始めてみるのがいいですね。いきなり大きな変化を求めると、仕事とのバランスを崩してしまうかもしれません。」


美月はノートを開きながら続けた。


「橘さんのリストにあった『スポーツ』ですが、昔何かやっていたことはありますか?」


「学生時代はサッカーをやっていました。でも、もう何年もボールを蹴っていないですね。」


「では、久しぶりにサッカーに関わる時間を作ってみるのはどうでしょう? 例えば、社会人向けのフットサルに参加するとか。」


「フットサル……。そういう選択肢があるんですね。」


「ええ。スポーツは体を動かすことでリフレッシュできますし、仕事のストレス解消にもなります。それに、新しい人間関係を作るきっかけにもなりますよ。」


直人は少し考え込んだ。


「でも、翌日の仕事に影響しないかが気になりますね。疲れてしまうと、パフォーマンスが落ちるんじゃないかと。」


「その不安はよく分かります。でも、適度な運動はむしろ仕事の生産性を高めることが分かっていますよ。」


美月は穏やかに微笑みながら、ペンを回した。


「橘さん、仕事のパフォーマンスを上げるために何か特別なことをされていますか?」


「うーん……コーヒーを飲んで気合を入れるくらいですかね。」


「では、もし『プライベートを充実させることが、仕事の質も向上させる』としたら?」


「……確かに、それなら納得できますね。」


直人は少し納得したように頷いた。


「じゃあ、まずは試しにフットサルの体験レッスンに行ってみようかな。」


「とても良いですね。まずは一度、体験してみるだけでいいんです。やってみて、もし合わないと思ったら別の方法を探せばいいだけですから。」


「確かに……そう考えれば、気楽ですね。」


直人は少し笑みを浮かべながら、手元のメモに書き込んだ。


「では、次回までの課題として、『フットサルの体験レッスンに行くこと』、そして『仕事以外の時間を意識的に確保する方法を考えること』をやってみてください。」


「分かりました。やってみます。」


「楽しみにしています。」


美月は微笑みながら、カップを置いた。


「橘さんの人生は、仕事だけで成り立っているわけではありません。仕事が充実していることは素晴らしいですが、それと同じくらい、自分の時間を楽しむことも大切です。」


直人は、少しだけ表情を和らげながら頷いた。


「ありがとうございます。少し、視野が広がった気がします。」


こうして、直人は「仕事だけの生活」から「自分の時間を意識して作る生活」への第一歩を踏み出すことになった。

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