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プライベートカウンセラー  作者: Ohtori
第7章「ベンチャー企業のCFO・片瀬翔子(38歳)」
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第4話「起死回生の一手」

都心のホテルラウンジ。昼下がりの穏やかな時間帯だが、片瀬翔子の表情には張り詰めた緊張が漂っていた。彼女の視線は、向かいに座る香坂美月ではなく、もう一人の人物に向けられている。


鳳修士郎おおとり しゅうしろう。ライジング・ストラテジー・パートナーズのパートナーであり、ファイナンスと経営戦略のエキスパート。鋭い眼光と、計算されたような落ち着いた佇まいが特徴の男だった。


「さて、翔子さん。」


修士郎は、テーブルに手を組みながらゆっくりと口を開いた。


「美月から話は聞いている。あなたは現在のCFOとしての立場に疑問を抱いているが、私は単刀直入に聞こう。あなたは 本当にCFOとしての役割を果たしているか?」


翔子は、一瞬目を見開いた。


「……どういう意味ですか?」


「CFOとは、単なる財務管理者ではない。経営の根幹を支える者だ。だが、あなたはCEOの暴走をただ批判する立場に回っていなかったか?」


その言葉に、翔子は一瞬返答に詰まった。


「私は……会社の財務の健全性を守ろうとしただけです。CEOの成長戦略はリスクが大きすぎる。それを指摘するのは、CFOの役割では?」


修士郎はゆっくりと首を横に振る。


「違うな。CFOの仕事は、リスクを指摘することではなく、どうすれば持続可能な成長を実現できるかを示すこと だ。あなたは、リスクを恐れるあまり、CEOの成長戦略に『代替案』を示せていなかったのでは?」


翔子は息を呑んだ。


「……確かに、私はCEOにブレーキをかけようとするばかりで、前向きな提案を十分にできていなかったかもしれません。」


「その通りだ。」


修士郎はコーヒーカップを手に取り、一口飲んでから続けた。


「CEOというのは、基本的に攻めの思考を持っている。特にベンチャー企業のCEOは、『成長こそが企業価値を高める』と信じている者が多い。そこに『リスクがあるからやめましょう』と言っても、耳を貸すはずがない。」


美月は静かに頷いた。


「私もそう思います。CEOは基本的にビジョナリーであり、CFOはそのビジョンを実現するための現実的な手段を示すべき立場です。翔子さん、これまでの議論で、CEOの成長戦略をどう実現するか、具体的な財務プランを提示しましたか?」


翔子は、深く考え込んだ。


「……提示したつもりでした。でも、それは『今はリスクが高い』という視点ばかりで、成長戦略を前向きに進めるプランではなかったかもしれません。」


「それだ。」


修士郎は、テーブルに置かれた紙にペンを走らせた。


「CEOを納得させるためには、まず彼の視点で考えなければならない。CEOが求めるのは、『どうやって成長するか』だ。だからこそ、CFOは『持続可能な成長』のためのロードマップを提示しなければならない。」


彼は、3つのポイントを紙に書き出した。


1. 成長戦略の再設計:リスクを抑えながら成長する方法を提示する

2. 財務計画の再評価:資金調達の手段を見直し、無理のない拡大戦略を策定する

3. CEOとの対話の仕方を変える:NOではなく、HOWを提案する姿勢を持つ


「この3つが、あなたが今やるべきことだ。」


翔子は、真剣な表情でそのメモを見つめた。


「……確かに、私はこれまで『この成長戦略は危険だ』とばかり言っていました。でも、それではCEOを説得できるわけがないですね。」


「そうだ。CEOの思考回路を理解すれば、自ずとアプローチの仕方が変わる。」


修士郎は、続けた。


「例えば、もし私がCFOだったら、CEOにこう提案する。『確かに成長は重要だ。だが、無理な資金調達は企業の負担になる。だからこそ、短期的なキャッシュフローを見直し、M&Aや戦略的提携を活用してリスクを分散しながら成長できる方法を考えよう』と。」


翔子は、驚いた表情で修士郎を見つめた。


「M&Aや提携……その発想はなかったです。でも、確かに、無理に外部投資家から資金を集めるより、企業提携を活用すれば、成長しながらもリスクを抑えられるかもしれません。」


美月は微笑みながら、翔子の顔を見つめた。


「翔子さん、少し表情が変わってきましたね。」


「……ええ。私は今まで、CEOとの対立ばかり考えていました。でも、本来のCFOの仕事は、経営のブレーキをかけることじゃなく、持続可能な成長を作ること。その視点が、完全に抜け落ちていました。」


翔子は、深く息を吸い、そして静かに吐いた。


「修士郎さん、ありがとうございました。私は、もう一度CEOと話します。ただ意見をぶつけるのではなく、『どう成長を実現するか』をベースにして。」


修士郎は、満足そうに微笑んだ。


「それでいい。CFOが示すべきは、リスクを最小化しながら成長を最大化する道筋だ。それさえできれば、CEOも納得するはずだ。」


美月も頷いた。


「次回のカウンセリングでは、具体的な提案内容を整理しましょう。CEOとの対話のシミュレーションもして、万全の準備を整えましょう。」


翔子の表情は、最初の迷いに満ちたものとは違い、確固たる決意が感じられた。


「……やります。私は、この会社のCFOとして、成長を支える存在になります。」


こうして、翔子はCFOとしての役割を再認識し、新たな戦略を持ってCEOとの再交渉に臨むことを決意した。

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