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プライベートカウンセラー  作者: Ohtori
第6章「ベテラン医師・佐伯和彦(50歳)」
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第2話「経験を伝える場を探す」

都心のホテルラウンジ。シャンデリアの淡い光がテーブルを照らし、落ち着いた雰囲気を醸し出している。香坂美月は、コーヒーカップを手にしながら、目の前に座る佐伯和彦の表情を観察していた。


佐伯は、前回よりも少しリラックスした様子で、落ち着いた笑みを浮かべていた。しかし、その奥にはまだ迷いが残っていることが、美月には伝わっていた。


「こんにちは、佐伯さん。お待ちしていました。」


「こんにちは、美月さん。」


佐伯は軽く会釈し、カップを手に取ると、小さく息を吐いた。


「前回のセッションで、まずは教育の場を探すことを決めました。それから色々とリサーチをしてみたんですが……意外と選択肢は多いものですね。」


美月は興味深そうに頷いた。


「どのような選択肢がありましたか?」


「まず、今の病院内で若手医師向けの勉強会を開くという案。これはすぐにでも始められるのですが、どこまでニーズがあるのかは正直分かりません。」


「なるほど。それ以外には?」


「大学病院時代の知人を通じて、医学部の非常勤講師の話がありました。まだ確定ではありませんが、年度が変わるタイミングで空きが出る可能性があるそうです。」


「それは良いですね。医学部の講師になれば、正式な教育の場で若手医師の育成に携われます。」


「ええ。でも、正直なところ、大学で講義をするのは少し気が引けるんです。私は教育の専門家ではありませんし、学生に対してどれだけ有益なことを伝えられるのか、自信がなくて。」


佐伯は苦笑しながら、カップを置いた。


「なるほど。それは、多くの専門家が最初に感じる壁ですね。でも、佐伯さんは長年、現場で実際に患者と向き合い、経験を積んできた。それこそが、学生にとって最も価値のある学びになるのではないでしょうか?」


佐伯は少し考え込んだ。


「確かに、理論的なことは教授が教えてくれます。でも、現場のリアルな経験や、医師としての判断力の話は、なかなか教科書には載っていません。」


美月は微笑みながら頷いた。


「そうなんです。佐伯さんのような現場の経験が豊富な方こそ、教育の場で求められているのです。」


佐伯は静かにカップを持ち上げ、一口飲んでから言った。


「そう言われると、少し気が楽になりますね。でも、もう一つ問題があるんです。」


「何でしょう?」


「私は、今の仕事を完全に辞めるつもりはありません。まだ患者と向き合いたいという気持ちがある。だから、教育に軸足を移すにしても、臨床とのバランスをどう取るべきかが分からないんです。」


美月はペンを走らせながら、静かに頷いた。


「臨床と教育のバランスですね。それは、すぐに答えが出るものではありませんが、まずは小さな一歩から始めるのが良いと思います。」


「小さな一歩?」


「はい。いきなり大学での講義を担当するのはハードルが高いかもしれません。でも、まずは病院内で若手医師向けの勉強会を開き、それを通じて自分の教育スタイルを確立していくのはどうでしょう?」


佐伯は少し驚いた表情を見せた。


「……なるほど。確かに、いきなり大学の講師になるよりも、自分の慣れた環境で教育を始める方が、負担が少ないですね。」


「ええ。そして、実際に勉強会をやってみて、手応えを感じることができれば、次のステップとして大学の講義にも挑戦しやすくなると思います。」


佐伯はしばらく考え込んだ後、小さく頷いた。


「分かりました。では、次回までに、病院内での勉強会を実施してみます。そして、どんな反応があったのかを報告します。」


「素晴らしいですね。では、勉強会の内容はどのようなものにする予定ですか?」


「そうですね……若手医師が日々直面する診療の課題について、ケーススタディ形式で議論するのがいいかもしれません。私が話し続けるのではなく、彼らに考えさせる場を作りたい。」


美月は満足そうに頷いた。


「それは良いアプローチですね。講義形式よりも、ケーススタディの方が実践的な学びになりますし、参加者の関心も高まると思います。」


「ありがとうございます。では、次回のセッションまでに、実際に勉強会を開いてみて、その結果を報告します。」


「楽しみにしています。」


佐伯は、静かにコーヒーを飲みながら、少し微笑んだ。


「こうやって話をすることで、自分の考えが整理されていくのを感じます。これまでは『何をすべきか分からない』と思っていましたが、今は『試してみること』が明確になりました。」


美月は微笑みながら、頷いた。


「それが、このセッションの価値です。迷いがあっても、一歩踏み出せば必ず道が見えてきます。」


佐伯は、ゆっくりと頷いた。


「では、まずは勉強会をやってみます。もしうまくいかなかったら、また相談させてください。」


「もちろんです。でも、大丈夫ですよ。佐伯さんの経験が無駄になることは決してありません。」


佐伯は、満足そうに微笑んだ。


「ありがとうございます。では、次回お会いするときには、何かしらの成果を持ってこれるように頑張ります。」


「楽しみにしています。」


こうして、佐伯は新たな挑戦に向けて動き出した。

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