第1話「揺らぐリーダーの自信」
都心のホテルラウンジ。穏やかな午後の光が差し込み、静かな空間が広がっている。香坂美月は、コーヒーカップを手にしながら、目の前の藤堂慎一の様子を観察した。
藤堂慎一、39歳。大手企業の管理職として部下を指導する立場にいるが、マネジメントに関する悩みを抱えている。今日も少し疲れた表情を浮かべながら席に着いた。
「藤堂さん、お忙しい中ありがとうございます。」
「こちらこそ、時間を作っていただいて感謝しています。」
藤堂は軽く頭を下げると、カップに手を伸ばした。
「では、早速ですが、現在の状況についてお聞かせいただけますか?」
美月の問いかけに、藤堂は苦笑しながら息を吐いた。
「正直、管理職としての自信を失いかけています。部下とのコミュニケーションがうまくいかず、チームの雰囲気もどんどん悪くなっている気がするんです。」
「具体的に、どのような点で難しさを感じているのでしょう?」
藤堂は少し考え込みながら、ゆっくりと話し始めた。
「部下に仕事の指示を出すとき、つい細かく指摘してしまうんです。でも、そのせいで彼らが萎縮してしまい、積極的に意見を言わなくなってしまいました。」
「部下の自主性を引き出したいと思いながらも、結果的にプレッシャーを与えてしまっているのですね。」
「そうですね。私は、より良い仕事をしてもらいたいという気持ちで指摘しているつもりなんですが……部下のモチベーションを下げてしまっている気がします。」
藤堂はカップを置きながら、苦々しい表情を浮かべた。
「以前は、部下たちも会議で積極的に発言していたんですが、最近は私が質問をしても、慎重に言葉を選んでいるのが分かるんです。」
美月は静かに頷いた。
「それは、部下たちが『間違ったことを言ってはいけない』と感じているのかもしれませんね。」
藤堂は眉をひそめた。
「……それは、私のせいかもしれませんね。よく考えてみると、私は『なぜこうしなかったのか?』と問い詰めるような言い方をすることが多かったかもしれません。」
「では、次のステップとして、藤堂さんのマネジメントスタイルを少し見直してみましょう。」
美月はメモを取りながら続けた。
「管理職の役割には大きく分けて二つのタイプがあります。一つは、『ディレクティブ(指示型)』。もう一つは、『コーチング型』です。」
「コーチング型?」
「はい。ディレクティブ型のマネジメントは、上司が部下に具体的な指示を与え、明確なゴールを設定して進めるスタイルです。一方、コーチング型は、部下の考えを引き出しながら、主体的に動けるようにサポートするスタイルです。」
藤堂は興味深そうに頷いた。
「私は、完全にディレクティブ型ですね……。」
「ディレクティブ型が悪いわけではありません。ただ、部下が自主的に動くためには、コーチング型の要素を少しずつ取り入れることが大切です。」
「具体的には、どうすればいいのでしょうか?」
美月は少し微笑みながら、提案をした。
「たとえば、部下に何かを指摘するとき、『なぜできなかったのか』ではなく、『どうすれば次はうまくいくと思う?』と問いかけてみるのはどうでしょう?」
藤堂は驚いたような表情を見せた。
「……なるほど。そう聞かれたら、部下も考える余地ができますね。」
「ええ。問いかけの仕方を変えるだけで、部下の反応も変わります。さらに、フィードバックをするときに、『良かった点を先に伝える』ことも効果的です。」
「良かった点……。」
「はい。たとえば、『この部分の進め方はとても良かったですね。ただ、次に改善するとしたら、どこに気をつければ良いと思いますか?』というように伝えるのです。」
藤堂は、考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。
「なるほど……確かに、これなら部下も前向きに受け取れるかもしれません。」
「そうですね。そして、もう一つ試してみてほしいのは、『部下に意思決定の機会を与える』ことです。」
「意思決定の機会?」
「ええ。今までは、藤堂さんがすべての決定を下していたのではないでしょうか?」
「……確かに、そうかもしれません。最終的な責任は自分にあるので、どうしても決定を自分でしてしまうんです。」
「もちろん、最終的な責任は管理職として負うべきですが、意思決定のプロセスに部下を巻き込むことで、彼らの主体性を引き出せます。」
「具体的には、どういう形で試せばいいでしょう?」
「たとえば、部下が進めるプロジェクトの方針を決める際に、藤堂さんが『こうするのがベスト』と伝えるのではなく、『この場合、どの選択肢が良いと思う?』と問いかけてみるんです。」
藤堂は少し考え込んだ後、静かに頷いた。
「なるほど……。それなら、部下も自分の頭で考えるようになりますね。」
「そうですね。まずは、小さな決定から任せてみるのが良いでしょう。そして、結果を見ながら必要に応じて軌道修正を行う形が理想的です。」
藤堂はノートにメモを取りながら、考え込んだ。
「……やってみます。今まで、どうしても自分がコントロールしなければという意識が強すぎたのかもしれません。まずは、部下の意見を聞くところから始めてみます。」
美月は微笑みながら頷いた。
「素晴らしいですね。次回は、実際に試してみた結果をお聞かせください。」
藤堂は、少し前向きな表情を浮かべながら頷いた。
「分かりました。試してみます。」
彼の目には、少しずつではあるが、新しいリーダーとしての覚悟が宿り始めていた。
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・創造の砦:AIを超える思考とは




