表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プライベートカウンセラー  作者: Ohtori
第3章「シングルマザーでフリーランスの翻訳家・中島彩子(40歳)」
15/85

第5話「新しい生活のスタート」

都心のホテルラウンジ。柔らかな午後の日差しが窓から差し込み、テーブルの上のカップを温かく照らしている。香坂美月は、目の前に座る中島彩子の表情を見つめた。彼女の顔には、これまでのセッションとは違う、どこか落ち着いた雰囲気があった。


「こんにちは、美月さん。」


「こんにちは、彩子さん。お会いするのは今回が最後ですね。」


彩子は、少し名残惜しそうに微笑んだ。


「そうですね。なんだか、不思議な気分です。」


「最後のセッションとして、これまでの振り返りをしていきましょう。」


美月は静かにカップを手に取りながら、彩子を促した。


「前回、『子どもとの時間を意識的に取ること』と『自分のための時間を確保すること』という課題を設定しました。実際にやってみて、どんな変化がありましたか?」


彩子は、小さく息を吐きながら言葉を選んだ。


「最初は正直、半信半疑でした。でも、やってみると、たった10分でも子どもとじっくり向き合うだけで、関係が変わるのを実感しました。」


「どんな変化がありましたか?」


「子どもが、私に話しかけてくる頻度が増えました。以前は私が仕事で忙しそうにしていると、遠慮していたのか、あまり話しかけてこなかったんですが……今は、何気ないことでも話すようになってきたんです。」


彩子の声には、どこか安心したような響きがあった。


「それは素晴らしいですね。お子さんが、彩子さんがしっかり向き合ってくれることを感じ取ったのかもしれません。」


「そうかもしれませんね。私自身も、子どもと過ごす時間を大切にしようと思えるようになりました。」


「では、『自分のための時間』についてはどうでしたか?」


彩子は少し照れくさそうに微笑んだ。


「最初はやっぱり罪悪感がありました。でも、10分だけと決めたことで、気持ちが楽になりました。最初の数日は、なんとなく落ち着かなくて、結局スマホを見てしまったりもしましたが……1週間くらいすると、少しずつ『この時間は自分のもの』と意識できるようになってきました。」


「どんなことをして過ごしましたか?」


「最初は、本を読むことにしました。でも、ある日、ふと外に出てコーヒーを飲みながら散歩してみたら、それが思った以上にリフレッシュになって……それからは、朝少しだけ散歩をする時間を取るようになりました。」


美月は嬉しそうに微笑んだ。


「それは素晴らしいですね。自分のための時間を、自分の心地よい形で楽しめるようになったんですね。」


「はい。こういう時間が、自分には必要だったんだと改めて実感しました。」


「これまでのセッションを通じて、彩子さんは多くのことを学び、実践されましたね。今の彩子さんは、最初にお会いしたときとは、まるで別人のように落ち着いて見えます。」


彩子は、少し照れながらも頷いた。


「そうですね……最初は本当に、何もかもがうまくいかなくて、どうしたらいいのか分からなかった。でも、こうして少しずつ整理して、実践してみることで、変われるんだって分かりました。」


「本当に素晴らしいことです。彩子さん自身が努力してきたからこそ、今の変化があるんですよ。」


「ありがとうございます。」


美月は、テーブルの上に小さな封筒をそっと置いた。


「そして、こちらが今回のカウンセリングの領収書になります。」


彩子は封筒を開き、中の明細を確認した。


カウンセリング料金明細

・第1回(2時間):20,000円

・第2回(3時間):30,000円

・第3回(3時間):30,000円

・第4回(3時間):30,000円

・第5回(2時間):20,000円

合計:130,000円


彩子は、封筒を手に持ちながら、しばらく黙っていた。


「最初は、正直この金額を見たとき、高いなと思いました。でも……今なら、間違いなく、それ以上の価値があったと実感しています。」


美月は静かに頷いた。


「カウンセリングの価値は、時間や金額ではなく、その人がどれだけ前進できたかにあります。彩子さんは、最初の迷いの中から抜け出し、自分の時間を大切にしながら、仕事と子育てのバランスを取る方法を見つけましたね。」


「本当に、ここに来てよかったと思っています。」


「そう言っていただけると、私も嬉しいです。」


彩子は深く息を吸い、そしてゆっくりと吐き出した。


「これからも、このバランスを大切にしながら、前に進んでいきたいと思います。」


「ええ。彩子さんなら、きっと大丈夫ですよ。」


二人は最後に微笑みを交わした。


彩子は、しっかりとした足取りでラウンジを後にした。その背中には、もうかつての迷いや焦りはなかった。


美月は、静かにカップを持ち上げ、窓の外を眺めた。


また一人、自分の道を見つけたクライアントを見送りながら、深い満足感を覚えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ