第2話「変わるマネジメントの視点」
都心のホテルラウンジ。香坂美月は、目の前に座る藤堂慎一の表情を観察していた。スーツ姿は変わらないが、どこか以前よりも落ち着いた雰囲気が漂っている。
「こんにちは、藤堂さん。」
「こんにちは、美月さん。」
藤堂はコーヒーカップを手に取り、少し息をついた。
「前回、部下とのコミュニケーションを見直し、コーチング型のマネジメントを試してみるという話をしましたね。その後、実践してみて、どんな変化がありましたか?」
美月の問いかけに、藤堂は苦笑しながら答えた。
「最初は、正直うまくいかないと思っていました。でも、少しずつ部下の反応が変わってきたんです。」
「具体的に、どのような変化がありましたか?」
「これまでは、私が指摘すると部下が萎縮してしまい、あまり意見を言わなくなっていました。でも、今回意識的に『どうすれば次はうまくいくと思う?』と問いかけるようにしたら、彼らの考えを聞く機会が増えたんです。」
藤堂は、ゆっくりとコーヒーを飲みながら続けた。
「最初は、部下たちも戸惑っていました。でも、私が頭ごなしに指摘するのではなく、一緒に考える姿勢を見せることで、徐々に意見を出すようになってきました。」
美月は静かに頷いた。
「それは素晴らしいですね。藤堂さんのマネジメントのスタイルが、少しずつ変化している証拠です。」
「ええ。ただ……まだ完全に自分のものにできているわけではありません。どうしても、忙しくなると『もっとこうしろ』と指示を出したくなってしまうんです。」
藤堂は少し自嘲気味に笑った。
「それは自然なことですよ。長年のやり方を変えるのには時間がかかります。でも、大切なのは、意識して実践し続けることです。」
「そうですね。まだまだ試行錯誤ですが、少しでも変われたことは大きな進歩かもしれません。」
美月は微笑みながら、次のステップについて話を進めた。
「では、次に『部下の主体性をさらに引き出すための工夫』について考えてみましょう。」
「主体性、ですか?」
「はい。藤堂さんが今やっている『考えさせる問いかけ』はとても効果的ですが、もう一歩進めるためには、部下が自ら動ける仕組みを作ることが大切です。」
「なるほど……。具体的には、どうすればいいのでしょう?」
「例えば、部下に意思決定の権限を少しずつ渡していくのはどうでしょう?」
藤堂は少し考え込みながら、「意思決定の権限を渡す?」と聞き返した。
「ええ。これまで藤堂さんがすべて決めていたことを、部下に判断させる機会を増やすんです。」
「でも、それで間違った判断をしたらどうするんですか?」
「もちろん、完全に任せるのではなく、方向性を一緒に確認しながら進めることが重要です。でも、部下に『自分の意見が尊重されている』と感じてもらうことが、モチベーションの向上につながります。」
藤堂はしばらく考えた後、頷いた。
「なるほど……。確かに、私がすべて決めてしまうと、部下は受け身になってしまうかもしれません。」
「そうなんです。では、まずは小さな意思決定から部下に任せてみるのはどうでしょう?」
「例えば、どんなことですか?」
「たとえば、会議の進行方法や、チーム内の役割分担の調整を部下に任せてみるのはどうでしょう?」
「なるほど……。それなら、試してみる価値はありそうですね。」
藤堂はノートにメモを取りながら、ゆっくりと頷いた。
「実際にやってみて、どのような結果になるのか、自分でも試してみます。」
美月は微笑みながら、「それは素晴らしい決断ですね」と言った。
「藤堂さんがこうして試行錯誤をしながらも、部下のことを真剣に考えているのが伝わってきます。」
「ありがとうございます。まだまだ課題はありますが、一歩ずつ変えていきたいと思います。」
美月は静かにカップを置き、藤堂を見つめた。
「変化には時間がかかります。でも、藤堂さんがこうして行動を変えようとしていること自体が、すでに大きな一歩です。」
藤堂は深く息を吸い、そしてゆっくりと吐き出した。
「これからも、もっと良いチームを作れるように努力します。」
彼の表情には、以前にはなかった決意の色が浮かんでいた。




