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プライベートカウンセラー  作者: Ohtori
第3章「シングルマザーでフリーランスの翻訳家・中島彩子(40歳)」
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第3話「働き方のリデザイン」

都心のホテルラウンジ。窓から差し込む柔らかな午後の日差しが、テーブルの上のカップとノートを照らしている。香坂美月は、目の前の中島彩子の表情を観察した。彼女は前回よりも少し落ち着いた雰囲気をまとい、ノートを抱えて席についた。


「こんにちは、彩子さん。お元気そうですね。」


「こんにちは、美月さん。少しだけですが、前より落ち着いた気がします。」


彩子は微笑みながらカップに手を伸ばした。


「前回、ポートフォリオを整理し、高単価クライアントの獲得を目指すという課題を決めましたよね。その後、どんな進展がありましたか?」


彩子はノートを開きながら、少し誇らしげに答えた。


「ポートフォリオ、整理しました!自分が過去に翻訳したものの中から、特に自信のあるものを選んで、サンプルとしてまとめました。」


「素晴らしいですね。どんな点を意識して整理しましたか?」


「クライアントごとに細かく分けるのではなく、分野ごとにまとめて、私が得意とするジャンルが一目で分かるようにしました。それと、簡単な自己紹介と、これまでの経歴をシンプルにまとめました。」


美月は満足そうに頷いた。


「とても良いですね。分野ごとに整理することで、クライアントが『この翻訳者に依頼するとどんな成果が得られるのか』をすぐにイメージできます。」


「そう言ってもらえると嬉しいです。それから、既存クライアントの一人に紹介をお願いしてみたんです。」


「それは大きな一歩ですね。反応はどうでしたか?」


「快く引き受けてくれて、実際に新しい案件の打診がありました。まだ決定ではないですが、前向きな話になっています。」


彩子は少し誇らしげに笑った。


「素晴らしいですね。これで、新しい働き方の基盤が少しずつできつつあります。」


彩子は小さく息を吐き、少し表情を曇らせた。


「でも……仕事が減った分、少し時間に余裕ができたんですが、どう使えばいいのか分からなくて。これまでずっと忙しさに追われていたので、急に時間が空くと落ち着かないんです。」


美月は静かに頷いた。


「それはよくあることですね。これまでずっと、スケジュールがギリギリの中で走り続けていたので、余白ができると不安になるのは自然なことです。」


「そうなんです。余裕ができたのに、逆に焦ってしまうんですよね。『何かしなくちゃ』って。」


「では、彩子さんの時間の使い方をリデザインしてみましょう。」


「リデザイン……?」


「はい。これまでの時間の使い方は、クライアントに振り回される形でしたよね。でも、今後は彩子さん自身が主体的に時間をコントロールすることができます。」


美月はナプキンにペンを走らせ、シンプルな表を作った。


1. 集中して仕事をする時間

2. クライアント対応や調整の時間

3. 自分のための時間


「この三つのカテゴリーで、一日のスケジュールを設計してみるとどうでしょう?」


彩子は少し考え込んだ後、頷いた。


「確かに、これまでは仕事の時間がすべて混ざっていて、いつも何かに追われていました。」


「では、まず『集中して仕事をする時間』について考えましょう。彩子さんが最も集中できる時間帯はいつですか?」


「午前中ですね。子どもを学校に送り出してからの2〜3時間は、比較的落ち着いて作業できます。」


「では、その時間を『最も重要な仕事』に当てるようにしましょう。特に単価の高い案件や、翻訳の品質が問われるものを優先すると良いですね。」


「なるほど……。確かに、そうすれば効率よく仕事ができそうです。」


「次に、『クライアント対応や調整の時間』ですが、これはいつにしますか?」


「今までは仕事の合間にメールを返していましたが、それが余計に集中を妨げていた気がします。」


「では、午前中の仕事が終わった後、30分ほど『クライアント対応の時間』を設けるのはどうでしょう?それ以外の時間は、基本的にメールチェックをしない。」


「それ、いいですね!ずっとメールに振り回されるのは避けたいです。」


「最後に、『自分のための時間』です。ここが、今まで彩子さんにとって一番おろそかになっていた部分ですね。」


彩子は少し照れくさそうに笑った。


「そうですね。いつも、仕事と子どものことばかりで、自分の時間なんて考えたこともなかったです。」


「ここが、とても大切なポイントです。週に1回でもいいので、彩子さんが『自分のための時間』を確保する習慣を作ってみませんか?」


「自分のための時間って、何をすればいいんでしょう?」


「それは彩子さんが『やってみたいこと』を探す時間にしてもいいですし、単純にリラックスする時間でも構いません。」


「例えば?」


「趣味の読書、カフェでゆっくり過ごす、ヨガやストレッチをする、何もしない時間を作る——何でもOKです。」


彩子は少し考え込みながら、「そういえば、昔は読書が好きだった」と呟いた。


「でも、最近は全然本を読めていなくて……。」


「では、試しに一日30分だけ、本を読む時間を作ってみるのはどうでしょう?」


「30分なら、できるかもしれません。」


「素晴らしいですね。まずは試してみましょう。」


彩子はノートにメモを取りながら、少しずつ前向きな表情になっていった。


「今までは、『時間があれば仕事をするべき』と思っていたけれど、自分の時間を持つことも大事なんですね。」


「ええ。彩子さんが充実した時間を持てるようになれば、仕事のパフォーマンスも向上し、子どもと過ごす時間の質も上がります。」


彩子は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。


「分かりました。次回までに、新しいスケジュールを試してみます。」


美月は微笑みながら、最後にひとこと付け加えた。


「焦らず、少しずつで大丈夫です。大切なのは、彩子さんが『自分の時間を取り戻すこと』ですから。」


彩子は、以前とは違う穏やかな表情で頷いた。

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