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一年目十一月 首輪を着けてあなたのものにして

小春のめんどくさい彼女ムーブが書きたかった。憂鬱とヘラ少なめ。ほどよい甘さと重さにできたのかな?

「付けて」が書けて満足。

 ふと目に入ったカレンダーを見て、三日後が自分の誕生日だったことを思い出した。私の机の上に置いてある卓上カレンダーに、前に恭子が勝手に花丸を付けた。自分の誕生日なんて丸とか付けなくても、と言ったけど、小春は忘れるから、と言われてしまった。恭子、大正解。忘れてた。

 とはいえ誕生日って言っても、パーティーみたいなのは別にしないしなあ。小学生とかならともかく。やることなんていつも通り自分でご飯作って、恭子がいつも通りご飯食べに来て、そこでちょっとケーキとかも食べて、プレゼント貰ったりして、それだけって感じだし。

 うーん、特別な日って言われても、そんなに特別な感じもしないんだよなあ。誕生日プレゼントとかも欲しい物ないし。この前欲しかった低温調理機と新しいサービングフォーク買ってもらったばっかりだし。料理関係は、外食が減った分道具とか食材は色んなのを割とほいほい買ってもらえるんだよね。外食なんて無理にしなくてもいいし。私がなんでも作るから。

 うーん。どうしよう。誕生日って何すればいいんだろ。って毎年思ってる気がする。毎年こんなだし。そもそもよそのご家庭では誕生日って何やってるんだろ。クラッカー鳴らしたりお酒飲んで乱痴気騒ぎ? したくないなあ。そもそも未成年だし。

 まあうん、例年の通りちょっと見栄えするお料理作って、あとケーキ作ってみようかな。チョコのがいいかな。生クリームのはカロリーが怖いし。ハイカロリーにハイカロリーを混ぜて作る化け物だもん。

 誕生日がどうこうより、献立考えるほうが楽しいや。あ、そうだ。低温調理機とサービングフォークあるしローストビーフでも作ろっかな。

 そう、自分の誕生日なんて、私にとってはこの程度のもの。先月恭子が言ってた、薄荷みたいなもの。


 だというのに今年は、お誕生日デートなどをすることになりました。

 ローストビーフ作ろうと思って、昨日塊肉買っちゃったのに。今日の恭子はちょっと強引。いいけどさ。

『今日デートしよ』

 というメールが朝っぱらから来たのが事の発端。携帯電話を開いて、もう一度メールのやり取りを見る。

『急だね』

『急に思いついたんよ』

『作ろうと思ってた料理とかあるから、あんまり長い時間は行けないよ?』

『ほいじゃったら買い物だけ』

『それなら』

『ありがと。ほいじゃあ今から迎えに行くけえ』

『わかった』

 本当に急だよね。まあでも、まだ朝の九時。午前中ぐらいに済めば、十分間に合うかな? 明日は学校もあるからローストビーフ作る時間はさすがに取れないし。お肉痛んだら嫌だしね、意外と高いから。

 とりあえず服を着替えて、それからまあ、デートということなので、ちょっとだけ化粧しておいた。ほんとにちょっとだけ、ファンデ塗ってリップ付けただけ。ベースになる私の顔が地味だから、それ以上は何か恥ずかしいんだよね。

 ただまあうん、デート、というのは、嬉しい。どういうつもりなのかとかはわかんないけど、デートって言われるだけでなんか嬉しい。正直準備してて、ちょっとテンション上がってるし。

 あとは鞄にハンカチとか携帯電話とか詰め込んで物の準備をして、ちょうど全部終わった頃、部屋のドアが開いた。

「お待たせ」

「おはよう。私も準備いいよ。ちょうど終わったところだから」

「おう、かわいい」

「何が?」

「服もメイクも小春もよ」

 いきなりの女誑し発言。何だこいつ。誕生日だからってリップサービスかな?

「ありがと。デートとか言うからちょっとだけしてみたけど、いらなかった?」

 彼女はいつも通りラフな感じで、ジーパンにウインドブレーカー、化粧とかも特にしてないかな。普段通りって感じ。

「そんとに畏まったことするつもりなかったけどね、畏まる時は前々から言うとくけえ。ほいでもまあ、かわいいけえ嬉しい」

「ならよし」

「うん。ほいじゃあ行く?」

「行こっか」

 バスに乗って大きい駅に行って、その近くの駅ビルに入る。わざわざここまで来て何するんだろ、と思っていたら、連れて行かれたのはアクセとかのお店だった。

「何買うの?」

「プレゼント。小春の誕生日の」

 まあそんな気はしてたけどね。誕生日にアクセのお店だし。わかりやすいというか、隠す気もないのかな。変にサプライズしようとして空回りするよりはいいのかなあ?

「似合いそうなのとかで良かったんじゃあ?」

「似合いそうなんじゃのうてね、似合うんを買うてあげとうて。安うはないもんなしさ」

「それはそうだけど、値段みたら選び辛くなりそう」

「大丈夫、値段は見せんけえ」

 それはそれで、うっかり高いの当てたら怖いなあ。申し訳なくなっちゃう。

「心配せんでええよ、ちゃんと高校生でも買えるお店なけえ」

「それならいいんだけど」

 ちらりと見ると、四桁と五桁が混在してる感じなのかな?高くても二万円はしなさそう。探せばうんと高いのもあるのかなあ?

「あ、これかわいい」

 そこにあった指輪を試しにはめてみる。かわいいけどちょっと私には違うのかな? あと指輪を買うなら恭子とペアリングがいいなあ。

「かわいいけど、服と合わん感じするねえ」

「やっぱりそう思う?」

「小春、白とか生成りがベースのこと多いいけえねえ」

「そうだね、あとは淡い色のかな」

「ほうよねえ。うちも細かいことはよう知らんけど、小春がするんならもっと主張しすぎんのの方が使いやすいんかなって。目立つやつより品のいいやつ?」

 彼女の言う通り、私だとそうだよね。顔も服装も大人しいからどうしても。目立つワンポイントアクセサリーよりは、服に馴染む物の方がいいかな。

 恭子なら逆に、多少主張強めのでもいいと思うけど。負けないだろうし。そもそもわかんないけどね、アクセのデザインとかそういうのの良し悪しって。

「アクセ選ぶのって難しいね」

「ほんまねえ」

「じゃあさ、恭子が選んでくれる? 私に似合うやつ」

「元々そんつもりじゃったけどね。今日は指輪よりはネックレスとかそっちかな思いよったんよ」

「そうだったんだ」

「うん。ほいじゃけえちょい見繕ってくるかいねえ。好きに見よってええけえね」

「わかった」

 お店の通路狭いし、ついて行くのは止めとこうかな。それより私もちょっと見てみよ。あ、これ恭子に似合いそう。

 どうしよ、次の恭子の誕生日のプレゼント、私もネックレスにしようかな。あ、これもいい。

 ぼんやりそんなことを思いながら眺めていると、恭子がいくつかのネックレスをもって戻ってきた。

「お待たせ」

「いいのあった?」

「えげなん見繕うてきたよ」

 言いながら持ってきた分を順番に私の首元に当てていく。

「うーん、やっぱこれかいねえ」

 選んだ一つを見せてくる。ほんとにシンプルな、チェーンと丸い白い石だけのもの。

「小春白似合うのと、余計なもんない方がええかなって」

「じゃあそれにしようかな」

「ほいじゃあ買うてくるわ」

「うん」

 そう言って彼女はレジに向かって行った。あ、ラッピングしてもらってる。中も知ってるしいいのに。

 時計を見るとまだ十一時前。さすがにちょっとこのまま帰るのは早いかな。折角のデートなんだし。

「ねえ、折角ここ来たんだし、このあと寄りたいとこあるんだけど付き合ってくれる?」

「うん、ええよ」

 調味料や香辛料、普段行くスーパーには置いてないような食材、お茶っ葉。買いたい物はいっぱいあるしね。あんまり遅くなるわけにいかないから、そんなにじっくりは見れないけど、ある程度吟味してどんどん取っていく。

「ぶち買うねえ」

「ここなら美味しいやつ多いからさ」

「なんか違うん?」

 かごの中から適当な袋を取って眺める。見ても多分わかんないと思うけど。かご持ってくれるの助かる。

「全然違うよ。味も香りも。品種だったり産地だったりで」

「そういうん気にするけえ美味しいんじゃね」

「それはあるよ。安いのだと匂いはちょっとで味は全然、みたいなのもあるし。特に香辛料とかは分かりやすいよ。全然違うから。今度安い花椒で麻婆豆腐でも作ったげようか?」

「ちょっと食べてみたい」

「香りも薄いし痺れもないよ」

「あー、なんか想像ついたや」

 わかってもらえて何より。前に花椒をいいのに変えてから、凄い気に入ってたもんねえ。

「お高い食材は無理して使う必要ないけど、調味料と香辛料はちょっとお高いの使うと凄い変わるんだよ」

「こだわっとるんねえ」

「恭子にもだけど、美味しい美味しいって食べてもらえるのが嬉しいからね」

「腕がええけえ普通のでも十分美味しいのにねえ」

「腕っていうかなんだろ、手間とか時間とかも結構かけたりするからね」

「そレでようなるもんなん?」

「うーん、実際色々あるけど、安いお肉なんかは特にそうだね。固いとか臭いとかあるし。ちょっとひと手間どころか、ひと手間が一番時間かかってたりするよ。うん、今欲しいのはこんなものかな」

「ほいじゃあレジ行こっか」

 お会計の時、買うもの一つ一つの値段を見て恭子が目を丸くしてる。一袋五百円とか千円とか普通にするからなあ。お会計は全部で二万円近くになった。恭子がぼそりとネックレスより高い、と呟いてた。結構な種類と量を、しかもサフランとかみたいな高いやつも買ったからどうしてもねえ……。

 恭子はエコバッグに全部詰めると、自分の鞄に丸ごとしまってくれた。恭子と買い物に来ると全部持ってくれるの助かる。当たり前にやってくれるの好き。優しい。結局家に帰るまでずっと持ってくれてた。

 家に帰るとエコバッグの中身を全部テーブルに並べた。ほんと凄い量。あんまり意識してなかったけど、こんな種類の香辛料とかを使ってたんだなあ。

「じゃあちょっと、今からお料理するから、六時過ぎぐらいに来てくれる?」

「わかった。じゃあ一回帰るよ」

「うん、ありがとね」

「どういたしまして、こっちこそありがとね。急に付き合わしてしもうて」

「大丈夫だよ。本当にありがと」

 別れ際に、冷蔵庫に入れておいたおかずの入ったタッパーを渡した。昨日作って、食べてもらおうと思って置いてたやつ。

「お昼ご飯の時にでも食べて」

「助かるよ、ありがと。ほいじゃあまた後でね」

「うん、また後で」

 彼女を見送ってから私は服を着替えてエプロンを身に着けると、料理する前に冷蔵庫からミニトマトを数個取り出し、お昼ご飯代わりに食べた。


 がっつり使ったのは初めてだけど、低温調理機ってほっとく時間が長いから凄く楽ちんだなあ。おかげでケーキもほぼ同時に作れてしまった。残りはぱぱっと作れちゃうのばっかりだし、思ってたより時間が余ってしまった。こんな余るはずじゃなかったんだけどなあ。まあうん、足りないよりいいか。

 持て余した時間で低温調理機のことを調べたり、ソースの種類を増やしたりしてたらあっという間に六時前。あとはもう、切ったり持ったり運んだりしてたらいい時間になって恭子が来た。

 夜ご飯を皆で食べて、デザートにケーキも食べて、片付けしてから私たちは部屋に戻った。

 ベッドに二人で並んで座る。いくらかの沈黙の後、口を開いたのは彼女が先だった。

「改めて誕生日おめでとうね」

「うん、ありがと」

「料理凄かったねえ」

「あれね、誕生日とかは言い訳で、実は最近買ってもらった低温調理機使ってみたくって」

「なるほど。美味しかった」

「もうちょっと色々使えると思うから、また何か作るよ」

「作ったら食べさしてね」

「わかった」

 そこで二人とも、なぜかまた黙ってしまった。何かを待ってるみたいな沈黙。決して嫌な沈黙じゃない。もうほんとは恭子がやりたいことなんか分かってるんだけどさ。

 少ししてから恭子が、手提げ鞄からラッピングされた箱を取り出した。昼に買ったあれだね。珍しく照れてるっぽい。

「はい、プレゼント」

「うん、ありがと」

 丁寧にラッピングを解いて、箱から中身を取り出す。実はラッピングとかも全部取っておくタイプなんだよね、私。あんまり大きい箱とかだとさすがに捨てちゃうけど。

 改めて手に持って、石を光にかざして見ると、柔らかくて温かな光り方をする。

「綺麗」

「うん、石の色味と光り方が凄いええよね」

「うん。凄く綺麗」

 少しの間眺めていたが、私は恭子にネックレスを渡した。いつもなら言うかどうか凄く悩んだと思う。不思議と今日は、何の迷いもなかった。

「恭子」

 私は後ろを向いて、顔だけ恭子の方に向ける。

「付けて」

 恭子は一度頷いてから、私の首に手を回した。繊細な手つきで、ネックレスが着けられていくのがわかる。また一つ、私の心があなたの物になる。まるで首輪を着けられているみたい。いっそ私を丸ごとあなたの所有物にして、首輪を着けてくれていいのに。あなたになら、構わないのに。愛玩動物みたいに愛想振りまいてかわいくするから、愛玩動物みたいにかわいがって欲しい。……なんてね。

「できたよ」

「ありがと」

 鏡で一度確認してから、改めて恭子に見せる。

「似合う?」

「似合っとるよ。かわいい」

「ありがと」

 笑おうとしたが、少し照れてしまった。さすがにちょっと恥ずかしい。私だけじゃなく恭子も少し恥ずかしそうにしていた。

「さて、ほいじゃあプレゼントも渡したし、ぼちぼちいぬるよ」

「うん、ほんとありがと」

「こっちこそご飯ありがとうね。誕生日おめでとう」

 玄関の外までついて行って見送る。彼女は自転車の鍵を外し、跨った。

「ほいじゃあまた明日ね。おやすみ」

「うん、おやすみ。また明日」

 恭子が自転車を走らせていく。ライトの光もすぐに見えなくなった。

 私は部屋に戻ると、もう一度鏡の前に立って、しばらくそのまま眺めていた。

 今日の思い出を噛み締めながら、そっと外す。

 軽く拭いてから元の箱に戻すと、机の端にそっと置いた。

 アクセのプレゼントって、なんだか特別感がある気がする。まあでも、高校生だもんね。そのぐらいはって感じなのかな? ちょっと、よくわかんないや。

 でも何でもない相手にアクセ贈らないよね。だから私は恭子にとっての特別。うん、きっとそうだ。

 自分にそう言い聞かせた。


 数日後の土曜日の朝、私はあの駅ビルのあのお店にいた。恭子に似合いそうなネックレスってどんなんだろうって思って、勉強兼偵察に。彼女の誕生日まではまだ日にちがあるけど、ちょっと早いうちから。まあうん、さすがに急いてしまったかな、とは思う。

 お店の中を回って、一通りどんなのがあるのか見て回る。

 うーん、恭子って割と何でも似合いそうな反面、ネックレスってすぐ駄目にしちゃいそう。結構アクティブだし。

 つける人のことをって考えると、そういうことも考えないとなのかな。シンプルに似合いそうっていうだけでいいのかな? ちょっとわかんないや。

 まあでもうん、別にこのお店に限らないし、ちょっと色んなお店見て回ろうかな。今日は別に時間の制限もないし、そんな大急ぎで何かしないといけないわけじゃないし。

 そんなわけで色んなお店を見て回る。

 すると不思議なことに、ますます分からなくなってきた。というか、何が違うのか分からなくなってくる。

 色が違うとかならまだいいんだけど、形とか大きさとか、分かり辛いことこの上ない。

 何件か回って見たけど、見れば見るほど混乱するばっかり。私が食材とか選んでる時、恭子はこんな気持ちだったりしたのかな? 魚とか。全部一緒じゃない? とか思ってたのかな? うーん、石が魚の目玉に見えてきた。

 さすがに宜しくないかなと思ったから、一回休憩。ベンチに座ってお茶を飲む。

 アクセがどうとかって、今まで全然考えたことがなかったことだからどうしても困ってしまう。難しい。

 そもそもアクセとか、正直関心がないからなあ。なんなら邪魔になるぐらいに思っちゃうし。昔からそう。好きなこと以外全然入ってこないんだよなあ、私。

 ネックレスだって恭子がくれたから嬉しいだけで、他の誰かだったら別に、どーもー、ぐらいだったんじゃないかな? おんなじ銀製品なら食器の方が嬉しい。

 ついでに言っちゃえば、お料理するから不衛生になりそうなのとかもダメだしね。服装は清潔で汚れてもいいものが理想だし。

 あー、そもそもネックレスとかアクセにこだわらなくていいのかなあ? どうだろ?

 うん、まあもうちょっとだけ見てみようかな。よっこいしょ、と小さく声を出してベンチから立ち上がると、またお店冷やかし巡りを再開する。

 色々見ていると、不意にヘアアクセサリーが目に止まった。ネックレスよりこっちの方が恭子向きな気がする。髪長いし。

 そういえば恭子、よく髪の毛鬱陶しそうにしてるんだよなあ。あと首元覆ってることも多い気がする。いいかも。

 ……ネックレス、少しはおしゃれしろって意味だったりするのかな?

 これをいくつかセットにしてプレゼント、うん、いい気がする。

 げっ、結構高い。

 うん、今日のところは保留にしとこ。

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