一年目十二月 この手を離さないでいて
ねんがんのあまあまいちゃらぶかいをかいたぞ!
ブラックコーヒーでも飲みながらどうぞ。
あと小春の成長の回でもあるよ。
何日か前の晩のこと。恭子と一緒に通話しながらオンラインでゲームしていた時の話。
「あ、ねえ恭子、そういえば恭子は、今年は何か予定ってあるの?」
「何の?」
「もうすぐ冬休みで、クリスマスとかお正月があるじゃない」
「ああ、ほういやほうじゃったねえ」
ゲームの中で半裸のモヒカン刈りの大男が巨大な棒を振り回して暴れている。相変わらず絵面やばいなあ。キャラメイクのセンスが、クレイジーにも程がある。
お正月はともかく、クリスマスの予定はまあないだろうね。私もだけど。ないよね?
「お正月ぐらいは帰省しとるんかなあ。毎年なし。ほいでうちは去年行っとらんし」
「そうだよね。受験勉強してたし。主に私が。あの時は勉強見てくれてありがとうね、恭子先生」
私はワンランク上、恭子はワンランク下の高校。恭子先生がいっぱい勉強見てくれたおかげでおんなじ高校に行けたから。恭子はもうワンランクツーランク上を目指せと言われていたらしいけど、遠いから嫌って言って断って今の高校にしたらしい。
「どういたしまして。ほいでも教えるんもいい勉強になるけえね。そこはもうお互い様でええと思うよ。まあほいじゃけえ年末年始は広島おると思うかねえ」
「その辺は私も一緒だと思うかな。恭子と違って近いから、融通は利くけど」
「群馬よね?」
「そうそう。車で一時間ぐらい」
「そりゃ近いねえ」
「広島が遠すぎるんだと思うけど。私行ったことないからわかんないけど」
そもそもあんまり旅行とかした覚えもないし。有難いといえば有難いけど。車酔いしやすかったり飛行機苦手だったりするし。
まさか旅行とかしないの、そのせいじゃないよね?
「広島なんか歳食うてっから行きゃあええんよ。ほいか新幹線で行ってから、広島駅でから一回降りて美味しいもんでも食うてっからもっかい新幹線乗って目的地行くんよ」
酷く極端な事を言う。ゲームではモヒカンが口から燃え盛る火炎を吐いている。あんたのその発言が炎上案件じゃない?
「酷い言い様だよね。お父さんがそう言ってるんだっけ?」
「そうそう。名古屋と広島は飯だけ食いに行きゃあええって」
「わかるようなわからないような」
「わからんでええと思うよ。うちもようわからんし。うちかたのお父さんの言うことなんか」
恭子でもわからないんだ。
「けど美味しいものって何あるの? お好み焼き?」
「色々あるよ。まあお好み焼きが鉄板じゃね。文字通り」
スルーしとこ。
「私食べたことないや。一回食べてみたいけど」
「こっちの方、大阪のばっかしなもんねえ」
「そうだねえ。あ、それでさ、もしクリスマスの日に予定なかったらさ、ご飯食べに来ない? ローストチキンとケーキ作るから」
「行く」
即答だった。ゲームのモヒカンが小躍りのモーションを始めた。嬉しいってことなのかな? 恭子は何でもよく食べるけど、最近特に鶏肉好きだもんねえ。
「ほいじゃけどクリスマスよね。二十五日でええんよね」
「うん」
「ほうよねえ」
モヒカンが何か考え込むような仕草をする。いちいち芸細かいな。
「ほいじゃったらさ、二十四日、デートせん?」
「また?」
先月もこんなことあった気がする。まあ先月ほど急じゃないからいいのかな? 先月はひどかったもんねえ。当日の朝とか。
「そうそう。先月に引き続きじゃね。クリスマスデートしよ。ベッタベタのやつ」
「どういうこと? ベッタベタ?」
「なんかさ、二人で遊び行って、どっかいい感じのお店でご飯食べて、イルミネーション見てねえ。ベッタベタにベタなクリスマスデートしてみたいんよ」
「ほんとにベタな感じするね。けどうん、いいよ」
「やった。ありがとー」
おおう、なんかよくわからないうちにクリスマスデートになった。やった。嬉しい。超嬉しい。なんだよもーこいつー。私のこと好きなんかよー。あーもうかわいいー。好き好き好きー。
「よくわかんないけど、まあうん、普通に楽しそうだしね」
そんな本心を完封して、いつも通りを装う。あんな気持ち、絶対に何があっても欠片も外に出しちゃいけない。きしょい。
「ほいじゃあちょい予定考えてみるよ。プランできたらメールするけえ」
「うん、わかった」
そんな会話をした。
だから今日は、とってもベタなクリスマスデートの日。
送られてきたプランは、午前中から電車で東京に行って、お昼ごはん食べて、遊園地行って遊んで、そこでイルミネーション見て、それからご飯食べて帰る、だったかな。詳しいことはあんまり教えてもらってないけど。さすがに駅と遊園地はどこか教えてもらったけど、ご飯の場所とかは聞いてないし。何食べるんだろ。それとクリスマスプレゼント。折角ならイルミネーションのところで渡そっかな。
あと服装。先月デートとかいいつつあんなんだったからなあ。服と化粧どうしよ。いや、そこはちゃんとしとこ。これで恭子がバッチリ決めてきたら目も当てられないし。私だけかわいいのはいいけど。
とりあえず準備は済ませて、のんびりと恭子が来るのを待つ。お茶でも飲みながら待ちたいところだけど、水分は摂らない。トイレが近くなるのはかわいくないから。特にこの時期は冷えで近くなりやすいし。今日は朝から、うがいした以外は一滴も摂ってない。
デートかあ。
何となく上を見上げていると、溜め息が漏れてくる。何でだろ、嬉しいのに。楽しみなのに。
わかんない。変な感じ。
もう一度息を吐く。何だかもやもやする。首元で揺れるネックレスに一度触れてから私は椅子から立ち上がった。
恭子が来たのは、それからすぐだった。彼女もいつものラフな感じじゃなくて、タートルネックのセーターにコート。今回は本当にデートって感じ。うっすらと化粧もしてるし。
「どうかしたん?」
「ううん、何でもないよ」
そうは言ったけど、正直ちょっと、何でもなくはない。ただ、それが何なのかは私にもわからないから、何でもないって言うしかない。言ってもしょうがないし、何かが駄目なわけでもないしね。
「そっか。ほいならええけと。ほいではあもう行く?」
「うん」
よくわからない憂鬱は消えないけど、彼女の隣を歩いていると何だか気が紛れてくる。恭子が原因だったりして? まさかね。
最寄りの駅まで歩いて、そこから電車に乗る。途中までは他愛もない話をしてたけど、ちょっと会話が途切れたところで恭子は寝てしまった。疲れてるのかなあ。少し寝かせてあげようかな。乗り換える駅までは時間あるし。
少しして、彼女は私にもたれかかってきた。割と本気で寝てるのかな。いつもお疲れ様だよ。けど帰りで寝るならわかるけど、なんで行きで寝てるんだろ? 夜更かし? 夜寝れなかったのかな?
あと何となく甘酸っぱい匂いがする。シャンプーかな。朝シャワー浴びてから来たのかな?
それから十五分ぐらいして、彼女は目を覚ました。
「あ、ごめん、寝てたや」
「うん、おはよう。昨日寝れなかったの?」
「いまいち寝つきはようなかったかな」
夜更かししたとかじゃなくて、寝ようとはしてたのかな?
「そっか、大変だったねえ」
「普段は眠いのとかも平気なんじゃけどねえ、こういうタイミングで寝落ちするんが困るよ」
あくびを一つしてから、恭子は椅子に座り直した。
「気にしなくていいよ。ただ、デートなら寝ない方がいいと思うよ。相手が私で良かったよね」
「面目ない」
私が冗談めかしていうと、苦笑いしながら恭子は頭を下げる。
「冗談。それよりもうちょっとで乗り換えの駅だよね」
「ああ、ほうじゃね。この次かねえ。はあもう五分とかで着く思うんよ」
ちらりと時計を確認してから、恭子がそう言う。ちょうど電車は駅に着いて、少ししてまた動き出す。
「降りる準備しとこうか」
「うん」
二人で席を立つと、ドアの近くに移動して待つ。駅に着いて電車が止まると、恭子は私の手を握った。
「行こうか」
「うん」
ちょっと混んでるし、迷わないようにしてくれたんだろう。きっとこれに、特別な意味なんてない。子供みたいだけど、それでいいんだ。
乗り換えた電車では、席は埋まっていて、ずっと立っていた。立ってる間も、電車を降りてからも、手は離さなかった。
手を引かれて、導かれるようにして、最初に行くって言ってたお昼ご飯のお店に着く。よりにもよってお好み焼きだった。歯に青海苔ついたらどうしてくれるんだ、全く。こっちは水分すら控えてるのに。
確かに食べたいとは言ったけど、こんなタイミングで選ぶかなあ。そうでないとチャンスがあんまりなかったのかな? そんな責めるつもりはないけどさ。水分のことも青海苔のことも、私が勝手に神経質になってるだけなんだし。
結局、青海苔のことは凄く気になってしまったけど、味は凄い美味しかった。作り方と味付けは何となく覚えたし、今度真似してみよ。
とはいえやはり青海苔は気になるので、とりあえず調合したうがい薬をペットボトルに詰めて持ってきてるから、うがいはしておいた。
お店を出てから少し歩いたところで、今度は私から手を取った。彼女は何も言わず、手を引いてくれた。
しばらく歩いて、遊園地に着いた。お好み焼きは折角だからで選んだんだろうけど、クリスマスデートで遊園地はベタなのかな?
「あんまり混んでないのかな?」
「クリスマスとかならもっと大きいテーマパークとか行くんでない、大阪と千葉のとか。うちは正直どっちも興味ないけど。映画見んし」
「そうだよね。広島のヤクザのとか、マッチョが弓でヘリ落とすやつとかぐらい?」
「そんぐらいしか記憶にないねえ」
凄い有名なアニメ映画とかすら見てないんだからある意味珍しいタイプだよね。まあ春から秋はずっと野球見てるらしいし。
「ほいじゃけど空いとるんは有難いことじゃろ」
「それはそうだね」
「行こうか」
「うん」
それから二人でいっぱい遊んだ。色んなのに乗った。色々見て回って、お土産のお菓子も買った。二人で並んで写真も撮った。
ずっと手を繋いだままで。
四時を過ぎると少しずつ暗くなってくる。四時半辺りでもう殆んど夜。いつもならもう終わりかー、なんて寂しくなるけど、今日は夜ご飯とイルミネーションもあるんだよね。
あと最後に観覧車に乗って夜景見ようって、さっき二人で決めた。
「ちいと早いけど、夜ご飯行く?」
「そうだね」
いっぱい歩いて遊んでお腹も空いたし。でもこういうところのって、ちょっと高いんじゃないのかな?
そう思ってたけど、割とお手頃な値段で入れるビュッフェだった。
「いい感じじゃろ?」
「うん、凄くいい」
私、ちょっとずつ色々食べれるお店って凄く好き。そこまで食べれる方じゃないから。恭子は恭子で沢山食べるから、やっぱりこういう店のほうがいいのかも?
私はちまちまと色んな種類取ったけど、彼女は同じのを多く取ってる。こういうお店って人柄出るなあ。
時間制限とかもあったけど、私は途中でお腹いっぱいになって、恭子が食べるのを眺めてるだけになっちゃった。急がなくていいとは言ったけど、もう十分腹八分目になったから、と言って、結局時間の前にお店を出た。恭子は沢山食べるけど、元を取らないととかそういうこと言わないのは美徳だと思う。満腹まで食べないのもいい。そういうのは私が作った時にすればいいんだから。
お店を出ると、私はまた恭子の手を握った。
「寒いね」
「うん、今日は冷えるねえ」
「そうだね」
……。
…………。
………………。
ほんの少しの間、だけどとても長く感じられる時間、考えた。いいよね。クリスマスだし、このくらいしても。
私は恭子の腕に体を寄せた。右手を繋いだままで、左手も恭子の腕に絡ませて、抱きしめるように。
彼女は何も言わず、ただ微笑んでいた。
「行こ」
「うん」
二人でゆっくりと歩き出す。何も言葉が出てこない。けど、嫌じゃない。照れ臭くも恥ずかしくもない。ただ幸せ。
イルミネーションまで、どれだけ時間がかかっただろう。かなりゆっくり歩いた気がするけど。
うん、綺麗。
そう、とても綺麗。
ちゃんと綺麗だというのはわかる。けど私は、イルミネーションのことなんて、目には入っていても、頭と心には入ってくる隙間がない。今ここに恭子といる、それだけでいっぱいいっぱい。
「小春、ちょっと待ってね」
足を止めて、恭子が二人の写真を1枚だけ撮った。そっか、写真のことなんてすっかり忘れてた。すぐにまた携帯電話をポケットにしまって、またゆっくりと歩き出す。
うん、ちゃんと見てる。ちゃんとわかってる。綺麗って。だというのに、綺麗だね、なんて言葉すら出てこない。君の方が綺麗だよなんて言葉を聞いたことがあるけど、あれは駄目な例なんだね。正解は、君しか見えないだったんだ。
彼女も何も言わない。真剣なような、どこかぼんやりしてるみたいな、不思議な表情。
何かを言おうとしても声が出ない。ああ、きっとこれはそういうことなんだ。今何か言っちゃいけないんだ。口を開いたら、言葉にできないそれが終わってしまう気がする。彼女もきっとそう。そうだよね?
夜の闇も白むような寒い夜。光でできた道を二人で進む。ゆっくりと、二人で寄り添って。体が照らされる、儚い眩しさで。
願うなら、今のこの時間を、永遠に欲しい。
息をするのも忘れているような時間を過ごして。
イルミネーションはいつの間にか後ろの方にあって、いつから視界にすら入っていなかったのか、と気付いてびっくりした。
最後に乗ろうって約束していた観覧車が近付いてくる。
この魔法みたいな時間は、あれに乗ったら終わってしまう? だとしたら、ちょっと乗りたくないなあ。
ううん、遊園地なんてまた来ればいいんだから。何回でも来て、何回でも乗ればいい。まだ、私たちには時間があるから。
いいえ、私は、まだ何もしてないんだから。何も始まってすらいないんだから。
観覧車に乗って、向かい合わずに二人で並んで座る。私はこの手を離さないからね。あなたもこの手を離さないでいて。
恭子にもたれかかりながら、二人で景色を見る。高く高く上がっていって、遠くまで見えるようになっていく。どこまでもどこまでも、光が海の様に広がっている。
あ、そうだ。
私は恭子の顔を正面から覗き込む。まるでキスするみたいに。恭子も、ちょっと目を丸くしているけど。
違うよ。
髪留めを恭子の左前髪に付けると、もうひとつ、イヤーカフも付ける。
「メリークリスマス」
耳元で囁いてから、腰を下ろす。恭子は右手で髪留めとイヤーカフを触った。左につけたのは、こうして横にいる時にあなたの顔がよく見えるように、だからね。言わないけど。
「ああ、メリークリスマス」
ちょっと動揺してるのかな? 珍しいなあ。私も珍しく、してやった感がある。そう、もっと私を意識して。そして私を好きになって。
そんなことが起こったら嬉しいのにね。クリスマスなんだから、奇跡でも起きてくれればいいのにね。クリスマスプレゼントにしては高望みし過ぎだけどさ。そもそも奇跡なんかじゃなくて、自分でどうにかしないと駄目なことだもんね。さすがにそこまではまだちょっと勇気出ないや。今日はここまでで精一杯。これでも私なりの精一杯の勇気で、聖なる夜がクリスマスプレゼントにくれたみたいな奇跡。
うん、そう。だから今日は、もうこの手を離さないでいる。それだけで私は、明日からまた頑張れる。また勇気が出なくなるかもしれないけど。それでも。いつか、きっと。
後はもう、降りるまでずっと恭子の腕に抱きついてもたれかかっていた。恭子はずっと何とも言えない顔をしていた。やり過ぎたかな?
「終わっちゃうねえ」
「ああ、ほうじゃね。時間もなかなかなし、降りたら帰ろうかあ」
「うん、そうだね。今からなら八時とかには帰れるのかな?」
「まあそんとなもんかねえ? ゆうてもまだ七時なし」
そうなんだよね、まだそんな時間。真っ暗だからもっと遅い時間な気になっちゃうや。
「じゃあ帰ろ」
「うん」
私たちはまた歩き出す。家に着くまで、意地でもこの手は離さない。歩くのに邪魔かな? 今日だけは許してよね。
駅について、電車に乗る。改札を通る時、ちょっと邪魔になっちゃいそうだった。でも何とか割とスムーズに行けたし、手も離さなかった。
乗り換えまでは少し混んでいて立ってたけど、乗り換えてからは座れた。
恭子、また寝ちゃうかな? 思っていたら、早速あくびした。私もつられてあくびを一つ。
少しして、恭子の体重がかかってきた。やっぱり寝たね。本当にお疲れ様。歩きにくかったよね、鬱陶しかったよね、ごめんね。
私も体を傾け、恭子に体重を預ける。彼女の手の柔らかさ、彼女の匂い、彼女の温もり。その全てが愛しく感じる。
彼女の耳元に、口を近付ける。
「好き」
本当に本当に小さな声でそう囁いてから、私も目を閉じた。もしも恭子が実は起きてても、今聞いたのは寝言だからね。
勿論本当に寝るなんてことはせずに、少ししてから目を開ける。まだ次の駅にも着いていなくて、恭子は変わらず眠っているみたい。
そのまま降りる駅の一つ前の駅に着くまで、ずっと寝ててもらった。
電車が動き出してから、恭子を揺すって起こす。
「次の駅だよ」
「ん、んん」
結構熟睡してたみたいだもんね。恭子は眠そうに目を擦ってからあくびをした。
「また寝てたね。ごめんね」
「ううん、大丈夫。寝不足で、疲れちゃったよね。今日一日、ありがとうね」
「ううん、こっちこそありがとね」
そう言って恭子はもう一度あくびをした。
「もうすぐ着いちゃうね」
「ああ、ほうじゃねえ」
「綺麗だった」
嘘。イルミネーションとか夜景とか、もう殆んど覚えてない。ずっとあなたの横顔ばかり見てたから。
ううん、本当。あなたは今日も綺麗だったよ。いつもにも増して綺麗だった。
「ほうじゃね。小春と行けてよかった」
そう言ってもらえると、とても嬉しくなる。好きが溢れてくる。
「またどこでもついて行くからさ。いろんなところに行こうね」
「うん。次はどこ行こうかねえ」
電車が駅に止まる。二人で立ち上がって、電車を後にした。改札を抜けて、帰り道を歩いて。
この手を離さない限り、魔法の時間は終わらないよ。
だから、最後の最後まで。
私の家に着いた。とうとうこれでおしまい。本当におしまい。
わかってたけど、泣きそうな程寂しい。でも、終わりにしないといけない。だから私から手を離した。
「今日は本当にありがとうね」
「どういたしまして。こっちこそありがとうね。いいクリスマスデートじゃった」
「ほんとにね。素敵な一日だったよ」
「喜んでもらえて良かった」
笑いながら、恭子は私の家に止めていた自転車の鍵を外した。八時を過ぎていて、長く引き留めるのは良くないよね。
「暗いし気を付けて帰ってよ?」
「うん、勿論。ありがと」
「それじゃあおやすみ」
「うん、おやすみ。また明日ね」
「また明日」
自転車に跨ると、そう言って走り出した。あっという間にライトの光も見えなくなった。
「ただいま」
鍵を開けて、家に入る。
少しだけ余韻に浸ってから、後はいつも通りの日常に戻った。お風呂に入って、歯磨きして、眠って。
翌朝起きたら、恭子からメールが届いていた。
『本棚』
それだけのメール。言われた通り本棚を見てみると、謎の紙袋があった。開けてみると、リボンのついた綺麗な紙袋とクリスマスカードが入っていた。
綺麗な紙袋も開けると、中には赤いけしからん下着が上下セットで入っていた。
どうでもいい余談でも書いてみる。
余談1、小春は、ヒヨコみたいに恭子の後をついていくのをやめて自分から動くことと、攻めの姿勢を覚えたよ。
余談2、恭子はデートのあと自転車で牛丼を食べに行ったよ。
余談3、小春は冬場はロングスカートの下にかぼちゃパンツを履いてるよ。




