一年目十月 薄荷
書いたら上げてしまえの精神。
十月最後の土曜日の朝。暑い暑いと言っていたのがつい昨日のように感じるけど、秋はすっかり深まって、もうすぐハロウィン。別にハロウィンに思い入れとか何かある訳じゃないけど、飾りとかは好き。かわいいよね、あれ。
恭子は毎年何かをやろうとはするけど、彼女も特に思い入れとかはないみたいで、毎年とりあえず乗っかっとくか、ぐらいで遊ぶ。私もちょっとしたお菓子を作ってプレゼントしてる。
まあ秋のお菓子だし、芋栗南瓜だよね。鉄板。果物とかも色々あるし。あとは紅茶かな。オータムナル。秋っていえばサンマのイメージあるけど、サンマでスターゲイザーパイ作ったら笑うかな? 白身魚を使ったパイなら作ったことあるけど。うーん、悩む。
お菓子を作ると恭子が喜ぶから、お菓子のレパートリーも色々増やしたんだけど、そのせいで悩んじゃうとかある意味贅沢なのかなあ。
とりあえずスーパー行こっと。見て決めよ。
店内をぶらぶらしてみる。お菓子系はハロウィンに徹底的に乗っかってる感じ。限定パッケージとかね。使いやすいイベントなのかな?
色々考えてはみたけど、芋栗南瓜のプリンを三種に柿のタルトに決めた。それに余った材料で栗金団でも作ろうかな。
別に何でも喜んでくれるんだろうけど、喜んでくれるからこそ色々種類増やしたりこだわりたい。
お菓子ももうちょっと練習してみようかなあ。でも意外とお金もかかるし、あとカロリーがなあ。
そもそもあんまりおやつとか作って食べてすると、ご飯食べれなくなるし。イベントの時とかだけの特別でいいかな。
恭子にメールを送る。
『今日か明日、どっちか来る?』
『どっちでもいいん?』
『いいよ』
『ほいじゃあ今日行く』
『わかった』
じゃあもう作っちゃおう。あと今日は、お昼ご飯ほんのちょっとにしとこ。
あんまり難しいのとか手間のかかるレシピは避けて、ささっと作れるのにして。それでも種類が多いから、それなりの手間と時間はかかっちゃうかな。多分午後とかにくるから、時間は大丈夫と思うけど。
茹でたりとか蒸したりとかしてる間に、折り紙で飾りを作り、メッセージカードを書く。こういうメッセージカードとかお手紙とか、全部机の中にしまっててくれてるの、私知ってるんだよね。だからしょっちゅう書いてる。
出来上がったお菓子を冷まして、ラッピングして、籠に詰めて飾りとメッセージカードも添える。うん、かわいくできたと思う。喜んでくれるよね。ていうか食べ物なら何でも喜んでる気がするなあ。気付くのかな、飾りとか。
洗い物も全部終わった頃、玄関の鍵が開く音がした。続けて、おじゃましますという声。
「恭子、こっちだよ」
リビングに呼ぶ。
「トリックオアトリートー」
入ってきて最初に、彼女はそう言った。ほんとイベント事が好きな人。
「はいはい、トリートトリート」
お菓子の入った籠を差し出すと、それを受け取って中を覗き込んだ。
「うわ凄っ」
「ちょっと張り切って作ったよ」
「ほんま凄いねえ。たまげた。包装も飾りも可愛いねえ。ほんまありがとうねえ」
まだお菓子は見えないのに、そう言ってもらえると、また次も頑張ろうって思える。
「どういたしまして。お茶にする?」
「うん、しよう。食べたい」
「じゃあそっち座ってて。お茶淹れてくるから」
「うん」
恭子はソファーに座って籠をごそごそし始めた。私はキッチンに戻って紅茶を淹れる。それからスプーンとお皿も。あとお菓子、自分の分も持ってかないと。
「お菓子、こんな感じで良かったのかな? そもそもハロウィンってよく知らないから何でもいいのかなーって作ったけど」
「うちもよう知らんねえ。何でもいいんじゃない? 本格的に何かしようって訳でないし」
「そっかそっか」
お茶を注いだカップをひとつ渡すと、恭子は一口飲んでから聞いてきた。
「お茶っ葉変えた?」
「収穫時期が変わったんだよ」
「ああ、なるほどねえ」
もう一口、しっかり匂いをかいで口に含んで味わって飲んで、それからようやくカップを置いた。
「美味しいけど、うちは夏のやつが一番好きじゃねえ」
「うん、私も」
言いながら恭子の前のプリンを指さす。
「右から、芋栗南瓜のプリン、それと柿のタルト。あと残った材料で作った栗金団」
「凄いねえ、お店じゃったら二千円ぐらい取られるんじゃない?」
「うーん、どうだろ。素人の手作りだし、こだわり抜いた食材とかでもないからなあ」
愛情だけならいっぱいこもってると思うけどね。
「お店より美味しいのにねえ。いただきます。……うっま。下手な店よりうまい」
「ほんと? あ、ほんとだ。良くできてる。良かった。けどお店よりは言い過ぎじゃない?」
「いや、ほんま。下手な店じゃったら見た目ばっかしでから味やら食感は雑なとかようあるよ」
そういうもんなんだ。外食ってほとんどしないから知らなかったや。わざわざお店に行かなくても、食べたいのとか自分で作っちゃうからなあ。
「小春はあんましお菓子は作らんけえね。食べてみたいんとかは行けそうならちょいと行ってっから食べたりとかしよるんじゃけどねえ」
そりゃああんまり作りたくないもん。今日のお菓子に砂糖がどれだけぶち込まれてるか見せてあげたいぐらい。あれを日常的にとか、下手なホラーより怖い。
「そうなんだ。一人で?」
「うん、一人で。自転車で」
「なるほどねえ」
本当にカロリー大量に使って生きてるなあ。そりゃあ太らないよねえ。私ももうちょっと運動しないとなのかなあ。
「それにしても、今思うと秋っぽさはあってもあんまりハロウィンって感じでもなかったかな」
「お菓子?」
「うん。さつま芋に栗に南瓜に柿だからね」
「うーん、美味しかったけえいいんでない?」
「そんなものかな?」
私が首をかしげると、彼女も首をかしげた。
「まあハロウィンっぽいこと言うても、渋谷に行って乱痴気騒ぎとかぐらいしかないんでない? 行きたい? いたしゅうない?」
「絶対やだ」
「ほうじゃろ?」
「まあそうだね」
「ほいじゃけえこんぐらいでちょうどええんよ。多分。無理になんかするとかでなくね。うん、多分あれよ。こういうのって薄荷みたいなもんよねえ」
「薄荷?」
全くもって意味がわからない。彼女は時折そういうよくわからない例えをする。説明を聞けばわかることもあるけど、説明を聞いてもわからないこともある。
「そう、ドロップの薄荷味あるじゃろ?あれみたいなもんよ。ほんのちょっとした口直し。日常にほんのちいとだけの変化がある日」
わかるようなわからないような。薄荷かあ。
恭子はそう言ってから何かを思い出したように携帯電話を見た。
「ああ、ほうじゃ。渋谷じゃないけどなんかコスプレでもして記念撮影でもする?」
「何でまた」
「ハロウィンてなんか仮装大賞みたいなことするイベントじゃろ? ほいじゃけえなんか仮装して記念撮影ぐらいならええんじゃない? どっか行くとかでないならみやすいし」
「あー、なるほど。それぐらいなら? けど衣装どうするの?」
「おんなじクラスの野中おるじゃろ、あいつそんとな衣装とか持っとるらしいけえ聞いてみる。借りれたらやろっか」
「う、うん。わかった」
そんな風に言われるとさすがに断れなくて、頷くと彼女は携帯電話を操作し始めた。
「明日ならええって。ほいじゃけえ明日借りてっから来るわ」
「うん、わかった」
翌日彼女は、二人分の衣装を持ってきた。私の分は非常に布面積が少なかった。撮ることは撮ったけど、絶対に人には見せないことを誓わせた。




