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一年目九月 自分にできる何か

小春は本気の運動音痴かつ体力不足。三キロマラソンで二十分以上かかるよ。

 夏休みが終わり、二学期が始まって三日目の木曜日。

 別に学校が嫌いなタイプではないけど、まだまだ暑いことと、二学期は体育祭とかあるのが憂鬱。運動苦手なんだよねえ。

 特に体育会系の多い我がクラスでは、優勝を狙ってる負けず嫌いも多いみたい。あと体育祭の順位で部活の中でマウント取り合うらしい。

 みんな割と気さくだから怒りはしないと思うけど、私は足を引っ張るばっかりなのが確定してるから憂鬱。

 そうでなくても、体育の授業とかも、これからきついの増えていくみたいだし。

 うーん、そういうの考えるとちょっと億劫だなあ。

 この時期は昔から、そんなことばっかり考えてしまう。コミュニケーション能力の足りてない私は、どうしてもクラスでー、とかそういう行事とかは苦手。

 とはいえやらないといけないことはやらないといけないからなあ。合唱とか運動とか、そんなのよりお料理やって欲しい。それなら私、多分無双できる。

 憂鬱だなー。こんな時は夏に海に行った時に貰った割とリアルな鯖のキーホルダーを眺めるに限る。恭子が干物買ったお店でいつの間にかお揃いで買ってたみたいで、帰ってからプレゼントしてくれた。ひどいセンスだよね、まったく。

 とかいってて、顔がにやけてくる。お揃いなんだよね。もうちょっとかわいいのならもっと良かったけど。まあいいけど。鯖好きだし。

 そういえば服装とか体型とか趣味とか色々違いすぎて、今までお揃いの何かってなかったような気がする。色違いとかならあったっけ?

 ホームルームが始まる。プリントが回ってきた。うげ、体育祭のだ。種目のだ。どれ出たいか考えとけってさ。ヤダよ、そもそも出たくないよ、どんくさいんだから、私。

 ああ、やけに早いなあって思ったら、九月中に体育祭やるんだ。試験あるからかな?

 せめて恥かかない程度にやれる種目ないかなあ、と思って種目を見てみる。うわ、なんで徒競走だけで三つもあるの? 百と二百と四百? 嘘でしょ? それ以外もリレーとかハードルもあるし。どれだけ走るの?

 なんか体育祭の種目、陸上競技の大会みたい。遠投とかもあるし。玉入れとかパン食い競争とかどこ行ったんだろ。高校生でやる方が恥ずかしいのかな? 聞いたこともない種目もあるけど、キツそうな気しかしないや。なんだろう、この障害って。

 参ったな、とことんまで出る幕なさそう。これ強制参加は嫌だなあ。下手な種目出たら、私ゴールすら出来ずにリタイヤになっちゃうかも。

 全然聞いてなかったけど、ホームルームが終わった。プリントを鞄にしまって、私はすぐに教室を出た。スーパーで特売やってたはずだから寄ってから帰ろ。豚肉と鶏肉安いんだよね。今日は豚肉にして、明日はお弁当に胸肉で唐揚げでも作っちゃおうかな。一キロぐらいで足りるかな。恭子も食べるから。

 買い物を済ませて帰って、早速仕込み。すりおろしタマネギを使った特製の付け汁に、一口大に切った胸肉を放り込んでいく。あとは一晩放置。凄い手間掛かってそうな雰囲気を出してるけど、唐揚げってフライとかより楽なんだよね、正直。細かい作り方とか含めても。フライは小麦粉卵パン粉とか、色々多くてめんどくさい。洗い物多いし。

 あとは夜ご飯の支度も済ませて、少しまったりかな。あ、メール送っとかないと。

『明日唐揚げ』

『助かる』

 お互い色々省いたメールだけど通じるの、ちょっと面白い。

 あくびをひとつしてから、冷蔵庫を開けた。

「あ、お茶飲も」

 紅茶の茶葉を取り出すと、ケトルに水を入れてお湯を沸かす。ダージリンのセカンドフラッシュ。これもそろそろ買い置きも終わるはず。ぼちぼちオータムナルが出始めるのかな? セカンドフラッシュが一番好きだから、ちょっと寂しい気はするけど。

 お茶も淹れながら、野菜も切っていく。やっぱり私は運動とかより、料理してるのが一番いいや。まだ夜ご飯には早いけど、温め直せばいい分は全部作っちゃおうかな。

 お茶を一口飲む。まだまだ暑いけど、ちょっとずつ秋になってきてるんだよね。

 窓の外を見ると、雲がとても高く見えた。


 いつもよりも少し早い時間に目が覚める。一応アラームもかけてたけど、やっぱり鳴る前に起きた。いつもそう、アラーム鳴るまで寝てたことってあんまりない。

 あくびをひとつついてから、パジャマのまま台所に向かう。冷蔵庫からボウルに入った鶏肉を取り出し、ざるに上げて水気を切る。その後キッチンペーパーでさらに水気を取ってから、衣を付けて油に放り込んでいく。さすがに量が多いから何回にも分けて揚げていく。さらに揚げてる間にお弁当の用意も済ませていく。

 時間は予定通りぐらいだったけど、朝から唐揚げ一キロも揚げて、体がちょっと油っぽくなっちゃったや。後でシャワー浴びよっかな。眠気覚ましにもいいかもだし。思いながら、あくびをひとつ。

 お弁当と朝ご飯を作ってから、一度シャワーを浴びに行った。唐揚げの時は大体そう。ちょっと量が多いからどうしてもね。

 自分の分のお弁当以外にも、大量の唐揚げを詰めたタッパーも持って学校に向かう。

「恭子、これ」

「お、ありがと。助かるよ」

「どういたしまして」

 保冷バッグに入ったタッパーを渡し、それだけ言って私は自分の席に戻った。

 あ、早速摘んでる。美味しそうに食べるなあ。あ、唐揚げに人が群がり始めた。めっちゃ取られてる。凄いなあ唐揚げ。ていうか朝っぱらから。

 ふわふわとあくびをして、私は教室を出て自販機に向かった。ちょっと眠いし何か飲んどこ。

 あ、恭子からメールだ。

『半分食われた』

『あとで私のあげるよ』

 それだけ送ってから甘い缶コーヒーを飲み干し、缶を捨てて教室に戻った。もうホームルームが始まるところだった。


 学校が終わって家に帰って、まったりしながら思い出す。体育祭で何に出場するか来週ぐらいに決めるから考えとけってさ。何にも出ない方法はないのでしょうか。

 多分そういう層って結構いると思うんだけどなあ。体育会系ばっかりって訳でもないし。

 この障害ってやつならどうかな? 聞いてみよっかな。

 携帯電話でメールを送る。

『体育祭の種目でさ、障害っていうのあるじゃない。あれって楽かな?』

『地獄らしいよ』

 地獄なんだ。どうしよ。

『私どれならいけるかな。足引っ張らなくて良さそうなやつ。楽そうなやつ』

『ないよ』

 はっきり言われたなあ。まあわかってるけどさ。あ、もうひとつメール来た。

『出とうないなら実行委員とか審判とか、後はクラスで役員的な、役職というか、係とかがあれば全種目不参加も許されるんよ』

『どういうこと?』

『応援団とか』

『絶対目立つよね』

『うん。間違いないね』

 私、運動もできないけど、運営ができるとも思えないし、あがり症で目立つようなのも絶対に無理。詰んでないかな、これ。どう足掻いても足手まといか恥さらしになるよね。

『もしよかったらさ、皆からカンパ集めて大量のむすびと唐揚げを作る係とかやらん?』

『やる』

『即決じゃねえ』

 それはもう、迷う余地もない。お料理で済むんならぜひやりたい。

『ほいじゃあ明日聞いてみるわ』

『助かるよ。ありがとうね』

『今日唐揚げ分けてくれたしね。あれぶち人気じゃったけえね。また食わせろいうてうるさいんよ』

 それは嬉しい。唐揚げ凄い。

『じゃあちょい聞いてみる』

『お願い』

 翌日、私は教師の許可とクラスの三十四人中三十人の協賛を受けて正式に補給係になった。本当にいいのかなあとか、本当に賛成してもらえるのかなあとか思ってたからびっくり。こんな私にできる何かがあって、それで役に立てるなら嬉しい。

 ちなみに協賛しなかった四人のうち、一人は私で、一人は家の都合で体育祭自体を欠席、もう二人はダイエット中とのことだった。なめてんのか、とかじゃなくて安心した。


 結局一人三百円、計九千円分のカンパが集まってしまった。まあ量は多いけど、作るのは全然余裕かな。調理室も前日から借りれたし。買い出しとかも全部やってもらえたし。

 私は家から愛用の料理道具を持ってきて、ひたすら料理した。鶏胸肉五キロはさすがに多いね。おむすびもご飯五キロ分。それ以外の諸々込みで、丁度九千円を少し超えた。超えた分私が出したかわりに、余った食材とか調味料は持って帰っていいことになった。

 体育祭の日も朝から調理室に籠もってひたすら料理し続けた。結局昼までに完売してしまったて、来年は倍作れと言われた。

 午後の恭子の出る種目、障害だけは見たかったから、完売はある意味助かったのかな? どっちみち留守にして見に行くつもりだったから。

 正式名称は三千メートル障害物競走。確かに地獄だった。なんでこんな種目があるんだろ。なにあの水濠障害って。恭子があえてその地獄を選んだ理由もわからないけど、それで一着を取ってるのも意味がわからなかった。

 ちなみにクラスは学年首位の成績だったらしい。そんなことより出なくて済んだことと、来年も出なくてよさそうなことに喜びを覚えた。

余談、恭子は鯖のキーホルダーは、ツボったから買っただけ。深い意味はないよ。

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