二年目三月 いつも迷ってばっかり
終業式も終わって二年最後のホームルームも終わった。クラス替えがないのも決まってるから、特に感慨深いこともなく、みんなさっさと部活に行くなり帰宅するなりして、教室に残っているのはもう私たち二人だけ。
そういう私たちだって、特に何か示し合わせて残っているわけじゃない。私はホームルームの間ちょっと寝ちゃってて出遅れ。恭子は、なんだろ? 何か考え事? 何となくぼんやりとしている気がする。恭子らしくない感じ。
「恭子?」
私が声をかけると、恭子はゆっくりとこちらを振り向いた。どうしたんだろ、体調良くないのかな?
「どうかした? お腹でも痛い?」
「そういう訳じゃないんじゃけどねえ、今日ちょい眠気が強うて」
大きく伸びをしながら、恭子は大あくびを一つついた。本当に眠たい時のあくび。
「最近温うなってきたけえよう走りよるんじゃけどねえ、今日早う起きてしもうて、長う走ったんよ。ほいでから」
そう言ってからもう一度大あくびをすると、今度は首を何度か左右に倒した。寝不足と疲労の両方っぽい。勉強の疲れを運動で発散してるのかもしれないけど、運動の疲労は休むしかないもんなあ。
「そんなに走ったんだ。お疲れ様だね。まあ体調悪いとかじゃないなら良かったけど」
「出かけたりして遊ばんけえ元気と体力は有り余っとるんよねえ」
まあそうだろうなあ。恭子、体力はお化けだし。陸上部の子が多いと一日三十キロとか走ってるって言ってたけど、恭子は陸上部でもないのに一日三十キロとか走ったりするらしいし。私なら十キロも完走できないと思うけど。
「一月半ばぐらいまでずっとなんだよね?」
「ほんまじゃったらはあもうね、まったりモードになっとったはずなんじゃけどね。ランク上げてしもうたけえ。さすがにちょい舐め過ぎじゃったよ」
急に志望校変えたらしいもんねえ。元々のところが楽勝過ぎたからって言ってたけど、それにしても思い切った上げ方したもんね。もうこれ以上ってなると海外に行くしかなくなっちゃうのかな。
「たちまち春休みでどんだけ前との差を詰めれるかなんよね。納得行くポジション取っときたいし先行ときゃあ有利なんは間違いなかろうし」
「そうだねえ。けど無理しないようにね? いるんならご飯くらいは作るから」
「それは毎食食べたいけどさ」
「一緒に暮らすんならそれでもいいけどね」
思わず苦笑いが出てしまった。さすがに別居で毎食はお互い大変そうだし。
「とりあえず直近で、今日のお昼ご飯うちで食べてく?」
「行くー」
「それなら一緒に帰ろう。買い物してから帰りたいし」
一緒に買い物行けば食べたい物大体作れるし。いくら料理が得意でだいたい何でも作れるって言っても、さすがに家に材料ないと作れないから。
「ほいじゃあ帰る?」
「そうだね」
恭子が鞄を持って椅子から立つ。私も自分の席に戻って鞄を手に取ると、恭子の後を追いかける。
「ちなみに何食べたい?」
「んー、スタミナ付きそうな……餃子とか? 手間かかるかな?」
「大丈夫だよ。すぐ作れるよ」
「やった」
恭子が珍しい気がするや。確か普段餃子ってあんまり食べなかったと思うけど。そんなに疲れてるのかな?
帰り道でスーパーに寄る。絶対先に籠持つんだよね、恭子。ほんと好き。優しい。両手空いてるといいお野菜とか選ぶ時とかに凄い助かるんだよね。
籠に野菜とかを入れていく。ニンニクとショウガ大目に買っとこうかな。刻みニンニクと刻みショウガ入れたのも作れば、疲労回復とかにはいいだろうし。
「餃子の皮、市販使っちゃうからね?」
「え、あれって自分で作れるん?」
「作れるよ。簡単だけど、今日はちょっと時短ってことで」
「お腹空いてるからむしろ助かる」
恭子のそういう言い方が本当に好き。むしろ助かるとか、そういう言い方してくれるのなんて彼女くらいだから。どこが好きって言われたら、まあ全部……ではないか。ちょいちょいデリカシーなかったりとかするし。今のだって間違いなく天然で言ってるだろうし。
誰かと付き合った経験なんて勿論ないんだけど、多分私凄いめんどくさいタイプだろうから、多少デリカシーないのはむしろちょうどいいのかも。
「それなら良かったよ。ありがとう」
そう言ってから挽肉も籠に入れる。
「合挽なん?」
「私いっつも合挽だよ。大丈夫、どうせ牛なんて殆んど入ってないから」
「そうなん?」
「ここはそうだよ。加工しちゃうから味だと分かりにくいけど、値段見たらすぐ分かるよ。挽肉、豚と牛と合挽とで、値段見比べてみて」
「牛だけ高いねえ」
「つまりそういう事だよ。私は味でも分かるけどね、どのぐらい入ってるか」
「なるほど」
合挽肉の真実を知ったせいなのか、それとも見抜ける人は見抜くって事を知ったせいなのか、恭子は苦笑いを浮かべていた。私も比率を知った時はそんな感じだったなあ。
会計を済ませて家に帰って、餃子のタネを作る。恭子が凄い顔でこっちを見てくる。
「どうしたの?」
「早いなあ思うて。前にお母さんと作った時あったんじゃけど、三人で食べる分で一時間以上かかったけえ」
「まあ慣れとかはあるんじゃないかな? まあ私もそんなに餃子作ったことないけど」
「なんかもっと根本から違う気ぃするけどねえ。十分かかっとらんけえ、うちら二人の六倍のスピードじゃねえ」
「そんな単純計算じゃないと思うけど」
作り方とか分量が頭に入ってるとかもあるし、あと二人が常に同時に作業できるわけでもないしね。
「手間かかるけえ手伝おう思いよったけど、下手に手ぇ出したら却って遅うなるね」
あっはっは、と恭子は声を出して笑った。否定はできないかも。私結構流れ作業とかもやっちゃうし。
それからも恭子は、ずっと感心した様子で見てた。
「ほんまプロみたいなね」
恭子はそういったけど、私はまだどうしようか迷ってる。料理関係がいいんだろうなあって思ったけど、料理を作るプロがいいのか、それ以外の料理関係の何かがいいのか。
本当にいつも迷ってばっかりだ、私。何をどうしても、後悔ばっかりしそうで。
でもそろそろ、真剣に考えないとなあ。時間もそんなに残ってないんだし。
できた餃子を食べて、恭子は過去一美味しいと言っていた。
小春の言う恭子のノンデリポイント。
声がでかい。
叫び声が超でかい。
くしゃみとかがでかい。




