二年目二月 真心
彼女の部屋のドアを一度ノックしてから、ドア越しに声をかける。幼少の時から見慣れたドア。去年までは二日か三日に一度は来ていた。来る回数、ぐっと減ったなあ。
「恭子、入るよ」
返事を待たずにドアを開けると、恭子は椅子を回して体をこっちに向けた。
「小春? どしたん?」
「何言ってるの、昨日メールしたじゃない。誕生日だからケーキ作って持って行くよって」
「ああ、ほうじゃったねえ」
少し夜更かし気味なのだろうか、恭子は一度大きなあくびをすると、目を擦りながら椅子から立ち上がった。
「さすがにちょい前が詰まっとる感じがするよ。馬群の中で揉まれよるみたいな」
んん、と声を漏らしながらぐっと両手を上げ、体を伸ばして大きく伸びをする。
「ちょいコーヒー淹れてくるけえ、まあ座っとってくれる?」
ドアノブに手をかけてから、彼女は一度こちらを振り向いた。
「食べてくんよね? 折角なけえ一緒に食べたいし」
「うん、そのつもり」
というか見た目も凝ったから是非とも反応を見てみたいし。
恭子が部屋を出ていく。一度部屋を見回してから、机の方に行く。大量の参考書と開きっぱなしのノート。散乱した筆記用具。ちらっと見てみるけど、何を勉強してるのかも分からないや。
本当に本当に、凄い時間をかけて凄い量を勉強してるんだなあ。何回見てもそう思う。何をやってるかさえ分からないことをやってるんだから。
ケーキの入った箱を手提げ鞄から取り出すと、テーブルの上に置いてクッションに腰を下ろす。遊ぶ時間が減って暇だったからなのもあるけど、最近は色々練習していて、マジパンとかで色々デコったりしてみた。気に入ってくれるかな。あ、カーテン先に閉めとこ。
「おまたせ」
恭子がコーヒーと食器類を持って戻ってくる。
「おかえり。今準備するから」
箱からケーキを取り出す。
「うわ、すご」
出てきたケーキを見て恭子が声をあげた。何これ、とか独り言を言いながら凄く見てる。けど改めて見ると、確かに凄い。やりすぎたかな。マジパンの花や人形を置いて、エディブルフラワーとアラザンを散らしてるし。あ、写真取ってる。恭子、あんまり食べ物の写真とか撮らないのに。
「ろうそく立てるよ」
ケーキにろうそくを立てて火をつけ、電気を消す。
「はっぴばーすでーとぅーゆー。はっぴばーすでーとぅーゆー」
お約束と言わんばかりに、私は歌い始める。あんまり上手じゃなくって申し訳ないけど。料理以外はほんと大したことないから。
「はっぴばーすでーでぃあきょーこー」
恭子、ずっとこっち見てる。そんな風に見られると、ちょっと恥ずかしい。
「はっぴばーすでーとぅーゆー」
歌い終わって拍手をしてから、ろうそくの方を手で示す。恭子が火を吹き消してから、私はもう一度拍手した。
「おめでと」
電気をつけると、ケーキを切り分けてからお皿に盛りつける。
あんまり大きいケーキじゃないから恭子の分は大きめに切ったけど、足りなかったみたいでおかわりもした。
「残りは後で食べて。それと冷蔵庫におかずちょっと入れておいたから、それも後で食べて」
「嬉しい。ありがとうね」
「ううん、それぐらい。あと」
鞄からコルクボードとラッピングした包みを取り出して渡す。
「これ、誕生日プレゼント」
「コルクボード? と包み?」
恭子が包みを開ける。中には二人で撮った写真とメッセージカードと可愛い押しピン。写真は二十枚くらいかな。海に行った時のとか、クリスマスにイルミネーション見に行った時のとか、旅行に行った時のとか。日付と、何枚かにはメッセージも書いておいた。
「予算が控えめな分捻ってみた」
「心に染みる捻り方なねえ。ケーキといい、真心ってもんを感じるよ」
「そう言って貰えると嬉しいよ」
どこに飾ろうか悩んでいる恭子を横目に、私はクッションから立ち上がると、鞄を手に取った。
「それじゃあ私、そろそろ帰るから」
「うん、ほんま色々ありがとうね」
「どういたしまして。誕生日おめでとう。勉強も頑張ってね、応援してるから。またね」
言いたいことが多すぎて別れの挨拶としてはちぐはぐになってしまった。恭子は頷いてありがとう、またね、とだけ返してくれた。




