二年目一月 二人で手を繋いで
あけましておめでとうございます。年が明けてから、これを一体何回聞いただろう。テレビとかからじゃんじゃん流れてくるから、一月一日の朝だというのにもう聞き飽きた。
まずそもそも私にとって大事なのって、恭子がいる日なのかいない日なのかだし。それ以外は別に。お盆だろうとお正月だろうとあんまり関係ないんだよなあ。
まあうん、めでたいめでたい。
とりあえず今日は恭子が来るからいい日。ただ基本は勉強してるから、会う時間はちょっとだけだけど。時間はまだあるけど、納得いくレベルまでいったらペースを落ち着ける。けど、そこまではある程度追い込んでいくとかなんとか。
初詣のあとご飯食べていくから、気合入れておせちを作った。正直昔ながらのレシピって美味しくないから、魔改造してるけど。
あと恭子、おせちだけじゃ足りないだろうからお雑煮とちらし寿司とおかずももう少し用意した。そんなに予算はかけられないから、精いっぱい手間をかけて。
ご飯の準備も終わらせ全部冷蔵庫にしまってから、私は部屋に戻り出かける支度を始める。まだまだ時間はあるだろうけど、暇だし。あと恭子、たまに妙に早く来ることあるからなあ。
準備が終わったけど、まだ恭子は来ない。今日は少しゆっくりみたい。まさか、朝ご飯の時間じゃないから? それならそれでいいけど。食べたかったら全然作るし。たまに来ると思ってない時なんか、ほんとに一人分しか作ってない時もあるからそこだけ気をつけて貰いたいけど。一人の時は手抜きとか凄いし。
暇だなあと思っていると、あくびが出てくる。頑張って料理した後って、大抵眠くなるんだよなあ。早起きすること多いからかな?
何度目かのあくびをした辺りで、玄関の鍵が開く音が聞こえた。やっと来たみたい。私も玄関に向かう。
「おはよう。今日はゆっくりだったね」
「ちょいもたついてしもうて。集中しよったら時計見るん忘れてねえ」
「いいことじゃない。私そんなに集中して勉強できたことないや」
靴を履きながらそう答えると、恭子がドアを開ける。冷たい風が吹き込んできて、髪を少しだけ揺らした。
「そりゃ好き好きと得手不得手じゃろ。うちそんとにから集中して料理したことないし」
「言うほど私も集中してないよ? 結構マルチタスクでやってるし」
「ほいなら根本的にマルチタスク人間なんじゃろ。ほいじゃけえ料理とか得意なんでない?」
「そんなものなのかな?」
自分じゃあちょっとよく分からないけど、まあいいか。
一歩外に出る。外が明るくて日差しが眩しくて、一瞬世界が白む。空は真っ青に澄み切っていて、元日としては縁起良さそうでとてもいいんじゃないかな。
「行こうか」
「うん」
少し離れた所にある、この辺りだと大きめの神社。割と歩く事にはなるけど、二人で歩いていこうって決めた。
「どうなの、手応えは?」
「まあまあかねえ。伸びてはおるんじゃけどね、セーフティリードまでは足りとらんかねえ。他に受ける人らが怠けよる訳じゃなかろうし」
「そうなんだ。恭子でもそれなんじゃあ大変だ」
「まあ日本一言われるぐらいのとこなけえね」
小さく苦笑しながらそう言って、恭子は肩をすくめる。
「まあ、じゃけえ言うて落ちるつもりはないけどね」
「まあ受かるよね、恭子なら」
「そのために早め早めにしよるんじゃしね」
いつもと違って自信満々って訳にはいかないみたい。普段は努力に裏打ちされた自信に溢れてるのに。それだけレベルが高いんだろうけど。
他人事のように聞いてる私こそ、どうするんだろうって話なんだけどさ。まあ言ってないだけである程度固めてあるけど。けど年も明けたしそろそろ親とも相談しないとだ。
恭子の話に耳を傾けながら歩いていると、あっという間に目的の神社に着いた。三十分と少しぐらいかな。
「よう着いてこれるようになったねえ」
「そう? このぐらいの距離なら」
「割と歩くペース早かったよ?」
「そう?」
普段通りぐらいかと思ってたや。息も切れてないし、散歩するようになった成果が出てるね。
「まあうん、行こ?」
石でできた階段を上がって行く。初詣の時期だからか、境内には屋台がいくつか並んでいる。人も結構多い。
「結構色々あるんじゃねえ」
「そうだね。何か食べる?」
「んや、今日はええかな」
「珍しいね。歩いてお腹空かせてると思ったのに」
「こんとなとこでから売っとるもんなら小春に作ってもろうた方が安うておいしいじゃろ」
「それは間違いないと思うけど」
「作れんもんも売っとらんじゃろ」
一度ぐるりと見回してみる。作れなさそうなのは特に見当たらないかな。元からよっぽど変わったのとか特殊な道具がいるものでない限り作れるだろうけど。
「うん、ここで売ってるのなら」
「ほいじゃけえ別に買わんでええかなあ」
「うん。まあ食べたかったら言ってくれれば何でも作ったげるよ」
とはいっても、そこまで食べたいのあるのかな? 割とどこでも食べれそうなのばっかりだけど。
「まあひとまずお参り済まそうや」
「そうだね」
拝殿の前には人集りが出来ていて、少し並ばないといけなそう。最後尾に二人で並んで、少しずつ前に進んでいく。
「さすがに混んどるねえ」
「この神社にしてはね。けどまあ、大きい神社に比べたら空いてるんじゃないかな?」
「凄いとこは凄いじゃろうねえ。正月早々働かされて、神様も難儀なよ」
「案外何にも見てなかったりして」
「それはあるかもね。うちなら空いとる時期にも通ってくれる人の方を大事にするし」
恭子らしくてちょっと笑ってしまった。
「何で並んでるんだろうね、私たち」
「けじめの儀式みたいなもんじゃろ」
そんな話をしていると、もうすぐ私たちの番。私はお財布から五百円を一枚取り出す。
「恭子、手出して」
「ほい」
二人で一枚のお金を持って、入れる。手を合わせてからお願い事、といっても別にないんだよね、神様にお願いするようなこと。恋愛のことなんか他人に頼みたくないし、恭子の受験も、自分の力で何とかするだろうし。運否天賦な無事故と無病、元気ぐらいかな。
恭子が動いたのでついて行く。
「お守りとか買う?」
「うちはお父さんに買うてきてもらうけえ、おみくじぐらいかな」
「じゃあ引いたら帰ろっか」
おみくじを引いて、すみっこのほうで二人で開いた。二人とも末吉だった。二人で顔を見合わせて苦笑いした。凶ではないけど、苦労する一年になりそう。私たちにぴったりだよね。安易に大吉をくれないあたり、神様はちゃんと見てて、さっきの会話とかお願いとか、聞いてたのかも知れない。
「結ぶ?」
「持って帰るよ。ええじゃない、うちらにぴったしでから」
「そうだね。じゃあ帰ろっか。お雑煮とおせち作ってあるから」
「それは楽しみなね。小春のおせちとか、正月一番の楽しみなよ」
それは嬉しいね。本当に料理頑張ってて良かった。自分で頑張ってできるようになったことだから、余計。
そう。神様は何もしてくれなくていい。自分で何とかするから。うまくいこうといくまいと、自分の力で頑張るから。
そんなことを思いながら、お財布におみくじをしまうと、恭子に手を差し出す。
「寒いしお腹も空いたし、帰ろっか」
「うん」
恭子は私の手を取って歩き出した。そのまま二人で手を繋いで神社を後にした。




