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二年目十一月 繋ぐ指が離れないように

 いつからだっただろう、恭子が息抜きしたいと言い出すことが増えたのは。勿論九月に図書室で会ったあの日以来なんだけど、ちょくちょく息抜きしたいって言うようになったんだよね。

 ただ恭子の場合はちょっと特殊で、寝る時間は別に遅くないみたい。毎日十一時から十二時の間には寝てるらしい。

 代わりに起きる時間が違ってて、毎日四時から六時の間ぐらいに起きて、そこから気分で走ったり自転車乗ったり勉強したりするとか。

 そう考えると結構な時間勉強とか運動もしてるみたいだし、まあ疲れるのは仕方ないのかな。

 勿論息抜きも、朝から夜までいることもあれば昼ご飯食べてのんびりして、夜ご飯食べて帰る程度の時もある。

 今日は朝ご飯から夜ご飯までいる日みたい。

 朝来てご飯を食べてから、ずっと寝てる。このために徹夜して朝まで勉強してたらしい。変に追い込むと効率が悪くなるって言ってるのにそんなことしていいのかって聞いたら、小春の作るご飯食べるためならそのぐらいするって言ってた。

 いいのかなあ、私は嬉しいけどさ。

 結局彼女はお昼ご飯のいくらか前に起きた。

「おはよう」

 私が声をかけると、数秒してからあくびを一つして、それからようやく答えた。

「うん、おはよう」

 寝惚けてるね。まあこれはいつものことだけど。声が凄い。喉ガサガサになってるみたい。

 お昼ご飯の話するの、もうちょっと待とうかな。まあまだ眠いだろうし。徹夜してた分寝てたんだろうし。それでも四時間といくらかぐらいだけど、足りるのかな? あ、でっかいあくび。

「うん、おはよう」

 恭子はさっきと同じ事をもう一度言った。一応ちゃんと起きたのかな?

「おはよ。ご飯もうすぐできるよ」

「うん、わかった」

「よかったら下に降りてきて。先に準備してるから」

「わかった」

 もう一度あくびをしている彼女を見て、私は部屋を出た。あの感じだと、もう少し時間かかるかな? まあお昼ご飯、もう全部できてるんだけどね。温め直すだけで。

 温め直して盛り付けてる辺りで恭子はようやく降りてきた。

「手伝うことある?」

「そっちの盛り付けてあるお皿運んでくれる?」

「ほいほい。ん、この料理何?」

「前に見た本に書いてあったやつ」

「見たことないおかずじゃねえ」

「結構昔の本に書いてあったのを、勝手に現代風にアレンジしたんだよ」

「そうなんじゃねえ。まあうちは何でもええは何でもええんじゃけどね。小春の作るご飯全部好きなし」

 嬉しいこと言ってくれるよね。けどまあ、色々理由もあるんだけどさ。

「実を言うと、恭子の嫌いな食材とかは使わないようにしてるからね」

「ああ、それは何となくそうなんかなあって思いよった」

「やっぱり気付くものなんだね」

「普通なら入っとるもんにも入っとらんかったりするけえね」

 バランスの問題で極力使わないだけで、完全に排除してるわけじゃないけど。うまくできててよかった。

「まあ食べよっか」

 喋ってる間に支度は全部終わった。

「うん。いただきます」

「いただきます」

「うん。今日もおいしい。小春のご飯が世界一おいしい」

 本当に大袈裟。でも嬉しい。ありがと、とだけ返しておいた。

 しばらく食べていると、恭子が唐突に言い出した。

「誕生日プレゼント、なんか欲しいもんってある?」

「今年はさ、指輪欲しい」

 私は間髪入れずにそう返す。何かを聞かれたらそう言おうと決めていたから。

「それでさ、今年はお互い誕生日プレゼントなしにして、クリスマスに指輪買わない? ペアで」

 言ってやった。でもペアリング欲しいし。手は繋いでもいつか離さないといけないけど、指輪ならずっと着けていられる。繋いだ指が永遠に離れないようにするみたいな気がするから。もし渋られても親友の証しだとか知らばっくれてやるんだ。もう私に怖いものなんてないから。恭子、凄い顔してるや。驚きが隠せてない。その顔を見てると笑っちゃいそう。

 少しだけ何かを考えるような様子を見せた後、一度頷いた。

「ええけど、ほいにしたってちょっとしたもんぐらいは交換せん?」

「そうだね、ちょっとしたプレゼントぐらいなら」

 お茶を一口飲んでから、恭子はようやく笑みを見せた。

「ほいなら来週末に指輪とプレゼント買いに行こうか」

「え、早くない?」

「クリスマス近うなったら混んだり売り切れとかして買えんくならんかね?」

「ああ、そうかも?」

「ほいじゃけえ早めに行って買うとく方がえかろう」

「そうだね。じゃあ来週だね。楽しみにしてる」

 私がそう言うと、恭子は立ち上がってご飯のおかわりを注ぎにいった。


 そんなわけで二人でバスに揺られていつもの駅ビルに来た。

 どこのお店にするのかと思ったら、恭子が直行したのは本当の結婚指輪とかも売ってるお店だった。恭子、意外に乗り気だったのかな。

 店内のショーケースに飾られた指輪を見ながら恭子がぼそっと呟く。

「指輪のデザインがどうたらいうてうちわからんけど」

 その物言いに、思わず笑ってしまう。

「私も」

 そう言って二人で顔を見合わせて小さく笑った。

「もうなんか、奇抜なんよりは無難というか、普通な感じがええかねえ」

「一生のものだしね。派手なのとかはおばちゃんとかになったらキツそう」

 色々見てみたけど、今一つ考えがまとまらなくて、それならいっそ、一回二人でばらけてそれぞれ見て回ることにした。別れて見て回って、最後に合流して気に入った指輪のナンバーを見せ合うルール。

 どれがいいかな。シンプルで綺麗な感じの。私たち凸凹コンビがつけるんだから、二人に似合わないと意味ないしね。

 いくつかメモはしたけど、結局本命は少し太めで石の付いたのにした。名前掘りたいし。

 恭子と合流して、メモを見せ合う。私の本命、恭子も候補には選んでた。

 あとはお互いの本命を見合って、試しに付けさせてもらって、結局私の選んだのに決まった。

 サイズは当然左手の薬指で測った。後は文字を掘ってもらうのを注文する。これでお願いします、と紙に書いて渡す。KOHARU TO KYOKOと。

 恭子がそれを覗き込んで、口を挟んでくる。

「日付はいらないの?」

「いらないでしょ。忘れないよ。絶対。私たちの名前だけあれば良いじゃない」

「うん、ほうじゃね」

 恭子もKYOKO TO KOHARUと紙に書いて渡した。

 二人合わせたら六桁を超える買い物というのは初めてで、さすがにちょっと怖かった。別々に会計したけど。レシートも残したいし。

 そう思っていたけど、レシートじゃなくて領収書を貰ってしまった。何だか凄いものを買ってしまった気分。受け取りに必要な紙も貰ってその日はそれでお店を出た。

 がっつり買っちゃったなあ、なんて思った。恭子が引く様子とかなくて良かった。いや、そもそも少しは伝われ。

 その日はちょっとだけ食材とかを買って帰ることにした。

 ちなみに誕生日プレゼントは、また下着かと思っていたけど、ハンドタオルのセットだった。

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