二年目十月 こっちこそありがとう
恭子の部屋に入ると、彼女はベッドで勉強をしていた。なんだ、思ったより元気そう。恭子が体調悪くしたことって殆んど記憶にないから、恭休むほどってなると結構やばいのかなって思ったんだけど。
「あれ、小春? どうしたの?」
「風邪引いて休んでるって聞いたからさ、大丈夫かなって思って見に来たの。様子見て、ダメそうなら病院とか連れて行ったりとかした方がいいかなって思って」
「さすがに大袈裟なよ。朝測った時は七度四分じゃったけえ。熱あるのにから学校行ったら駄目じゃろう思うてね、行かんかっただけなけえ」
「あ、そのぐらいなんだ」
「そもそも朝もね、十キロぐらい走って、調子悪いなあ思うて熱測ったらちょっとあったって程度なけえ」
「それは元気だね」
恭子はあっはっはとか笑ってるけど、私は思わず苦笑いが漏れてしまう。七度四分なら私、ぐえーってなってると思う。タフと言うか、頑丈だなあ。
「あとご飯とかもいるかなって思ったんだけど」
「それは欲しい」
食い付きが全然違ったや。ますます苦笑いが出てくる。
「けどねえ、ほんまそんな大袈裟なもんじゃないよ? ただの風邪なけえ。病院とか行くほどでもないし」
「うん、そうだね。全然普通そうで安心したよ」
インフルとかコロナとか、そういうのだったりしたら大変かもって思ったけど。恭子、夜まで一人だし。
看病ってほどじゃないけど、まあでも一応できることぐらいはしていこうかな。
「昼ご飯は食べたの?」
「うん、それはある物を適当に食べたよ」
「じゃあ夜ご飯だけでいいね。食欲はあるんだよね?」
「そこはもうバッチリ」
「うん、わかった。じゃあ何か作っておくよ」
消化にいいものとかの方がいいのかな? お粥だと物足りないかな? ご飯にかけて食べるのとかだと食べやすいかな。
「それは嬉しい。助かる」
「あとお薬とかあるの?」
「ないか、あっても場所わからんのんよ」
「そっか、わかった。うん、ちょっとお買い物行ってくるね」
「ごめんね、助かるよ」
一応冷蔵庫を確認させてもらう。野菜とかはあるから、そんな買わなくて大丈夫かな。
薬も買わないとだからドラッグストア行ってみようかな。あんまり行くことないんだよなあ。薬買うことってないし。
行ってみると案外色々揃ってる。薬以外も食材とか水分とかおやつとか、全部ここで買っていけばいいや。さすがに種類とかは少ないけど。
恭子の家に戻ると、さっと夜ご飯の支度を済ませてしまう。食べ方のメモとかも残しとこうかな。
それから恭子の部屋に戻る。
「ただいま」
「おかえり。案外時間かかった?」
「先に夜ご飯作っておいたから」
「え、食べたい」
「まだ早くない?」
まだ五時にもなってないのに。まあいいのはいいけど。夜お腹空かないかな?
「あ、けどご飯ないよね?」
「冷凍しとる分ならあるけえ」
「じゃあ持ってくるよ」
「やったー」
ほんとそんなにお腹空いてたんだ。喜ぶ恭子を尻目に、台所に戻って夜ご飯の支度をする。まあ温め直すだけだし、すぐできるからいいけど。
「なるべく風邪と消化に良さそうなのにしたから、ゆっくり食べて。あと冷蔵庫にプリンとゼリーと飲み物いくつか入れといた。市販薬だけど風邪薬もあるから、食べ終わったら飲んで」
「わかった。いただきます」
ゆっくりっていったのに食べるの早いなあ。まあ食べやすいのにしたのもあるんだろうけど。
食べ終わった食器を片付けてから、部屋に戻って恭子に声をかける。
「それじゃあ私はこれで帰るから。ゆっくり休んで」
「うん、ありがとうね。助かったよ」
翌日も恭子の所に行ってみたけど、もうすっかり元気そうだった。そして翌々日の朝。
目が覚めると、私はベッドから起き上がれなくなっていた。寒気が凄いし頭も痛いし喉も痛いし咳も酷いし関節も痛い。
恭子から風邪貰っちゃったんだろうけど。それしか原因思い付かないし。ただ、それにしたってこれはひどい。とても同じ風邪とは思えない。
病院行かないとだけどどうしよう。行けるかな。今日はお母さんもいないし。
「小春ー」
不意にドアが開いて恭子が入ってきた。
「え、学校は?」
「休んだよ。まだまだうちも七度二分あるし」
「じゃあ何できたのさ」
「はあもうこんな時間なのにからメールの返信がなかったけえよ。心配になって。移ってしもうたんね? ごめん」
恭子の手が額に触れる。冷たくて気持ちいい手。
「うわあっつ」
恭子は顔を顰めながらそう言うと、机の上から体温計を取って渡してきた。私は寝間着のボタンを外して脇に挟む。計測が終わったそれを恭子に渡す。
「何度?」
「八度丁度。病院行こうか。電話するけえ」
恭子が電話をかけてくれる。本当にありがたい。
「今からすぐ行って大丈夫みたいなけえ行こうか」
「あ、うん。じゃあちょっと着替えるから」
ジャージとかでいいかな。あと、下着も変えとこうかな。今着けてるの、ややけしからんやつだし。
何とか立ち上がって服を着替える。
「行こうか」
恭子が私の手を握ってゆっくりと歩く。階段で落ちないように支えてくれたり。普段は恭子って割と過保護だよなあって思うけど、こんな状態なら素直に助かる。
「ほうじゃ、飲んどきんさい」
靴を履いてる間に台所に行ってペットボトルの水を取って来てくれた。
「ありがと」
少し水を飲んでから、二人で病院に向かう。しんどすぎて歩けなくなって、途中からおんぶで連れて行ってくれた。ちょっと恥ずかしかったけど、本当に助かる。行くことも帰ることもできなくなるところだった。
そこからはもう、受付を済ませてから呼ばれるまで、ずっと恭子にもたれかかってぐでってなってた。
呼ばれて、診察して、検査をして、恭子のところに戻る。
「高熱だからってインフルとコロナの検査しましょうってなったよ。もう帰っていいって。鼻が痛い」
「あー。熱高いけえどうしてもねえ。うちから移っとんじゃけえそれはないと思うけど。まあ帰ろっか」
恭子は笑ってそう言う。一昨日も昨日も今日も、これだけ元気だからねえ。
病院を出て、またおんぶで連れて帰ってくれた。ベットで降ろしてもらう。
「重かったよね。本当にごめん。ありがとう」
「全然、何もよ。むしろこっちこそありがとうよ。軽いし、背中凄いし」
ああ、そういう。嬉しいんか、それ?
「それにうちが休んだ時も何も言わんと自分から来てくれたしね。感謝しとるよ。ありがと」
落として上げるのずるい。もう。熱い顔がもっと熱くなっちゃう。
何も言えないでいると、不意に携帯電話が鳴った。
「あ、病院から電話」
電話を取って話を聞く。
…………。
「……インフル陽性だって」
「……え?」




