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二年目八月 大嫌い

本気のお気持ち表明。

本当は僕もてぇてぇのが書きたい。

 何だかずっとやる気がしなくて、ぼーっとしてるか寝てることが増えた。本気でやってることなんてお料理ぐらいなのかな。

 うん、暇。本当に暇。なんでこんなに暇なんだろうってぐらい暇。暇なのに、何かするとつまんなくてすぐやめてしまう。本を読もうと、音楽を聞こうと、ゲームをしても野球を見ても。

 だって、彼女はいないんだから。

 あの日以来、私からメールを送ることも止めた。私なんかのどうでもいいことで、彼女の邪魔をするわけにいかないし。たまに恭子が送ってくる分には、最低限必要な返事とかはするけど。

 だってどうせ私なんて、何したって邪魔にしかならないし。私が彼女のために何かできることっていうのもないし。だから、せめて。せめて邪魔だけしないように。

 そもそもこんな風にうじうじしてるのは、私が全部悪いんだ。馬鹿で駄目で幼稚だから。彼女が悪いわけじゃない。

 だっていうのに。

 わかってるのに。

 恨めしく思ってしまう。憎らしく思ってしまう。情けない、恥ずかしい。こんな自分が大嫌い。

 そう、そもそも根本からおかしいんだ。私がおかしいんだ。普通はこんなこと思うなんてない。彼女は友達。友達が勉強に集中するって言っても、普通ならそっか頑張れよ、ぐらいのはずなんだよね。

 私がこうなのは、私がおかしいから。

 ああ、だめだ。気分が優れない。散歩でも行こうかな。少しは気が紛れるかもしれない。外は晴れきっていて、空は目に染みるぐらい青い。私の心の雲も払って欲しい。

 ずっと寝間着のままだったのを、お気に入りの白いワンピースに着替えて、麦わら帽子を被って外に出ると、恐ろしいぐらい暑い。今はこの暑さが気持ちいい。思考が暑いで塗りつぶされていく。心の靄も塗り潰していってくれる。

 夏ってこんななんだなあ。真夏にこんな風に歩いたことなんてなかった気がする。適当に歩いてるけど、どこに行こうかな。どこまで行けば気分は晴れるかな。

 しばらく歩いたところで気が付いた。携帯電話忘れてきたや。あと日焼け止め塗るのも忘れたや。まあいいや。今日は歩けるだけ歩いてみよう。運動不足の解消にもいいかも。さすがに少し汗が出る。

 道の端の日陰のところで、猫が横たわっている。寝てる、んだよね? まさか死んでる? 確かめようと近づくと猫は飛び起きた。ごめんね、と声をかけて、私はまた歩き出す。

 あっちの方には何かあるかな。気紛れに曲がったり、路地に入ったりを繰り返す。見かけた公園では、こんなに暑いのに子供が遊んでる。

 暑い。うん、ずっと暑いんだけど。さすがに暑くなってきたと言うか。いや、ずっと暑いんだけどね。なんて言えばいいんだろ。体が火照ってきた?

 どこかで少し休もうかな。うん、そうだ。私は近くのチェーンのコーヒー店に入り、アイスコーヒーを頼んだ。受け取って窓際の席に座る。冷たいコーヒーを一口。凄く苦い。口の中がイーッてなる。もう一口。うん。今はこの苦さが丁度いい。冷房が凄く強くて、汗をかいた体はすぐに冷えてくる。あんまり長居すると、真夏なのに冷え性が出ちゃいそう。結局十五分もせずに店を出た。たぶんそれでも、冷え性は出る寸前だった。

 次はどこに行こうかな。また適当に歩き出す。どこでもいいから行ってみよう。寒くなっちゃったから、この暑さが気持ちいい。あ、こんな所にこんなお店があったんだ。閉まってるのかな。何のお店なんだろ。

 しばらく歩くと、また少し暑くなってきた。温度差が凄いんだよね。寒いか暑いかで。あとちょっと、眠くなってきた。今何時なんだろ? あ、時計も忘れてる。腕時計も携帯電話もない。時間確認できないや。

 そこでようやく私は、ここがどこだかわからないことに気が付いた。周りの景色にはまったく見覚えがない。どこをどう歩いてきたのかもわからない。気の向くままに歩いてたからなあ。

 まあうん、慌てても仕方ないよね。正直全然慌ててないけど。おかしいほど冷静。とりあえず時間と場所を確認したいかな。あとお金確認しとかないと。

 まずは財布の中身を見る。一万円ぐらいは入ってる。最悪タクシーで帰ればいいか。一安心。でもできれば使いたくないし、歩きか電車かバスで帰る方法ないかな。コンビニとかスーパーなら場所わかるかな。

 探すと、五分も歩いたらすぐにコンビニが見つかった。けど、知らない地名。参った。何にも手掛かりがないや。まあいいか。最悪タクシー。

 私はそのまま、ひとまず線路は越えてないから、たぶん東に行けばいいかな。カンと推理で太陽と反対の方向へ向かう。

 徐々に傾いてくる西日が背中を照りつけてくる。このままどこか知らない所に行って帰れなくなってしまいそう。ほんのちょっとした散歩が、いつの間にか大冒険になってるや。装備は白いワンピースに麦わら帽子。アイテムはお財布とハンカチだけ。うん、これだけで十分なんだ。

 いつまでもいつまでも、ずっと真っ直ぐに歩き続ける。本当にこっちでいいのかなんて考えもしない。間違ってたっていい。無敵になった気分。今なら何でもできそうな気分。こんな風に思えるなんて知らなかった。

 けどどうやら間違ってなかったみたいで、ちょっとずつ、なんとなく見覚えがあるような気がするところになってきた。たしか、電車から見たことがある場所だと思う。通りかかった電車に表示されている行き先で、最寄り駅の方向もわかった。三つ分の駅を通り過ぎて、最寄り駅に着いた頃には、夕日は殆んど沈んでいた。

 家に帰ると、帰るのが遅いと怒られた。謝って、作っておいた夕飯を温めて、三人で食べた。

何だか、久し振りに笑った気がする。元気になれそうな気がした。


 それから三日間は、ひどい筋肉痛に悩まされたおかげで何も考えることはなかった。

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