二年目七月 さみしさ
一回書いたけど消して書き直した。
七月下旬のとある土曜日。私は一人新幹線に揺られていた。
五月に言ってた旅行。何とか実現はしたんだけど、恭子は二日ほど前に現地入りしてる。先に行って挨拶回りとかするからって。まさか一緒に旅行のはずが一人でこんな長時間長距離を移動することになるとは思わなかった。お金を出してもらう立場からすると仕方のないことなのかもしれないけど。
ただ、移動時間の間、一人だとちょっと退屈。思ったより長いし。携帯電話で色々して時間を潰してたら、眠くなってきたや。朝早かったからかな。寝ちゃおうかな。うん、寝ちゃおう。
一度あくびをしてから寝る体勢を整える。寝るのは得意。いつ寝たのかも分からないけど、寝てたらあっという間に尾道を過ぎてた。睡眠大事。たまにやらかすけど。
『もうすぐ着くよ』
駅につく前に一度恭子にメールを送って、あくびを一つしてから新幹線を降りる。改札を出ると恭子が分かりやすいところで待っててくれた。
「移動お疲れ様。疲れとらん?」
「ありがと。大丈夫、寝てたから」
「ほいならよかったよ」
私から鞄を受け取ると、彼女は私の手を取ってくれた。
「ほいじゃたちまち昼ご飯行こうか」
「うん」
時間は十二時前。ちょうどお昼ご飯の時間。
「何食べに行くの?」
「ほらもうまずはおこ食べにゃあいけんじゃろ」
「おこ?」
「ごめんお好み焼き」
「広島ではそう呼ぶんだ」
「いや、わからんよ。うちが勝手に言うただけ」
「あ、そうなんだ」
思わず苦笑いが出てくる。その感じが本当に恭子らしいなあ。というか今日、やけにテンション高い気がする。
「まあ行こうや」
「うん」
何かに駅の中にもあるって書いてたからそこで食べるのかと思ってたけど、駅から出て少し歩いた所にあるお店に行った。駅のは混むらしいから。確かに前に食べた時のより美味しい。本場だから競争が激しいからとかなのかな? 何が違うんだろ。
その後は適当に駅に戻って駅ビルの中をぶらぶらして回る。恭子が色々教えてくれるけど、恭子三歳までしか広島にいなかったはず。何でそんなに詳しいのか聞いたら、お父さんに教わったらしい。お勧めのお菓子とかを買い食いしたりして適度に時間を潰す。ホテルのチェックインまで少し時間があったから。けど意外とあっという間にいい時間になった。思ったより満喫してたのかな。
コインロッカーで恭子の荷物を回収してからホテルに行ってチェックインを済ませる。部屋に入るとベッドがツインじゃなくてダブルだった。まあいいけどさ。といいつつにやけそうになる。家ならともかく、旅行でもダブルがいいなんてねえ。
ちょっとだけ荷物を片付けてからベッドに横になる。ぼんやりしてると眠くなってくるや。ああ、あくびでた。横を見ると、恭子もあくびしてる。眠くなるよねえ。
二人で何度かあくびをし続けたあと、恭子が口を開いた。
「ちいと早いけど外行く?」
「そうだね。寝ちゃいそうだし」
原爆ドームとか平和公園を見てから、近くの商店街みたいなのをぶらぶらする。
いい時間になってお腹も空いてきた。夜ご飯も恭子がお勧めするお店、というより恭子のお父さんがお勧めするお店らしい。恭子が折角だからって、普段見かけないのばっかり頼んでくれた。お刺身とかテンプラとか。あ、この釜飯美味しい。真似しよ。
食べたらあとはホテルに帰ってゆっくり。大浴場もあったから二人でお風呂入って、あとは二人でベッドでぐうたらしてたらいつの間にか寝てた。
夜中にふと目が覚めた。悪い夢を見て、とかではない。クーラー付いててちょっと寒いかな。
恭子も布団被ってないや。二人とも布団の上で寝てたや。正直寝そうと思ってたけど。ていうか恭子、寝ながらお尻掻かなくても。
起こさないように掛け布団を取ると、恭子に布団を被せて私も一緒に入ってもう一度寝た。
起きると、今度こそ朝だった。ぼんやりしてると恭子が部屋に入ってきた。
「あ、おはよー」
「おはよう。どこか行ってたの?」
「ちょっとお風呂に。暇じゃったけえ」
「そんな早くから起きてたの?」
「早くからというか、まだ五時じゃけえね?」
あ、ほんとだ。夜中に起きて二度寝したから結構いい時間なのかと思っちゃったや。
「二人とも早起きじゃったねえ」
「そうだね」
二人で顔を見合わせて小さく笑った。
「お腹空いてない? 朝ご飯どうしよっか」
「チェーン店かコンビニなら朝からやっとるじゃろうけど」
「私は何でもいいといえばいいけど、恭子は何か食べたいのとかある?」
「うーん、朝ご飯はちょっとようわからんけえねえ」
どうしよう。無理に食べなくても大丈夫ではあるけど。
「ちょっと調べて見ようか」
「んー、お父さんも朝ご飯のこと何も言うとらんかったしなあ。どうなんじゃろ」
とりあえず携帯電話で調べてみる。
「やっぱりチェーン店とかしかないかな」
「ほいじゃあまあコンビニでも行く?」
「そうだね」
結局二人でコンビニに行って買って来た。
「今日ってどこか行くところ決まってるの?」
食べながら私が聞くと、恭子はよくぞ聞いてくれました、と言わんばかりの顔をした。そして財布から何かを取り出して私の前に置いた。
「これ」
「なにこれ? チケット?」
「そう。野球の」
「え、野球見に行くの?」
「うん。いっぺん現地で見たかろう?」
それって恭子、自分が見たいだけなんじゃないかな? まあ私も見れるんなら見たいけど。
「デイゲームだよね。午後だよね?」
「昼過ぎから入場できるけえ、早めに行ってからそこで色々食べようや。結構色んなんあるみたいなよ。あとこれ」
恭子が鞄から赤いユニフォームを取り出した。私の好きなピッチャーのだ。
「あげる。着てこうや」
「うん、ありがと」
わざわざ準備してくれてたんだね。何から何までありがたいことだ。
けど、うん。ちょっと引っかかるところがあるんだよね。この旅行もだけど、彼女の態度とか対応とかも。
たぶん、そういうことなんだろうなあ。うん、考えないでおこう。違うならいいし、そうだとしても変に気に掛けさせないように。
野球場は迫力も凄かったし、食べ物も美味しかったけど、とにかく暑かった。恭子か聞いた話だと、その方がビールがよく売れていいらしい。それでもこんな真夏にデイゲームやらなくてもなあ。あと恭子の雄叫びが凄かった。さすがに疲れたとは言ってた。
その日はもう、夜ご飯はテイクアウトしてホテルに帰った。お風呂に入ってご飯を食べて、ゆっくりしていたらいつの間にか寝ていた。
三日目はもう帰るだけの予定だったから、駅でお弁当買って新幹線。お勧めのお店のお弁当、びっくりするほどおいしかった。
もうすぐ着くかなって頃、恭子が不意に口を開いた。
「ありがとうね、付き合うてくれて」
「ううん、大丈夫だよ。こっちこそありがとうね」
そこで恭子は一度黙ったが、少ししてからまた口を開いた。
「うちもぼちぼち、ちいと真面目に勉強とかしだすけえさ。ほしたらあんまし遊べんくなると思うてさ」
ああ、うん、それでこの旅行なんだね。何となくそんな感じはしてたけどさ。うん、分かってた。というか今までだってやってたもんね。それの割合をもっと増やすって話だもんね。そもそも恭子は行きたいところもやりたいことも決まってるから。素直に応援はできなくても、私が邪魔になったらいけない。
だから泣くな、私。堪えろ。笑え。
「大丈夫だよ。そんな気にしなくてさ。ご飯とかは今まで通り食べに来たり作りに行ったりするんでしょ?」
「うん、さすがにそこまで根詰めんでええようにぼちぼち始めるんじゃけえね」
「うん」
だめ、なんかうまいこと話せないや。頑張れとか、せめてその程度のことでも言えればいいのに。何にも言葉が出てこない。
そもそもこれは、本当にどうしようもないことだから。私が何をしようと、本当にどうしようもない。
だから。うん。何か言うのは止めた。もう何も言わない。余計なこと言っちゃいそうだから。我慢してる。
それから恭子がいくつか喋るのを、ただ頷きながら聞いていた。あんまり頭には入ってこなかった。
在来線に乗り換えて、最寄りの駅に着く。ずっと、二人とも無言だった。
親たちが車で迎えに来てくれてて、私たちはそこでまたね、と言って別れた。
家に帰って部屋に戻る。うん、もう我慢しなくていいんだ。そう思うと涙が出てきた。大した変化があるわけでもないのに。なんでこんなに泣いてるんだろう。
分からない。けど寂しい。
何でだろうね。何がこんなに。何にもわかんない。今までだってそんなにずっと一緒にいたわけじゃないしさ。学校でだってそんな絡みはないし。
そういうことじゃないのかな。じゃあなんだろ。
結局、その後のことばっかり考えてるのかな。恭子が進学する時、私はどうするんだろ。何にも決まってないけど、別々の進路になるのは間違いないし。
うん、わかんない。考えも全然整理できない。頭がぐちゃぐちゃする。
さみしい。




